第30話 私が失ったもの
また、嫌な予感がした。
何のおとがめもなく自室のベットで横になっている時のことだった。
私は寝巻きのまま外に出ると、真っ暗な北の森へと向かった。
「ひっ」
大好きだったプレハブ小屋の前まで来て、私は息を飲んだ。
メラメラと火柱をあげるドラム缶が何本も並べられていた。
そこに群がるのは大勢の氷川の使用人たち。
彼らはプレハブ小屋とドラム缶の間を何度も往復している。
彼らが何をしているのかがわかった瞬間、私は全身に鳥肌が立つをの感じた。
燃やしているのだ。本を。タカナシさんの本を!!
「やめて!!」
私は悲鳴に似た叫びを上げながら使用人の群れに飛び込んだ。
「これはタカナシさんのよ!」
「ちょっと、止まって!だめ!」
「どうして?どうして、こんなにひどいことをするの!?」
私は半狂乱で使用人の間を駆け回った。
けれど、彼らは私なんてまるで存在しないかのように小屋とドラム缶の間の行軍をやめなかった。
森に嫌な音が響いていた。
何十冊と一まとめにされた本たちが、まるでゴミのようにドラム缶の中に投げ込まれる音。
森に嫌な臭いが漂っていた。
息を飲むほど美しい挿絵も、お腹を抱えて笑ってしまう1コマも、涙腺が崩壊するようなお話も、みんなまとめて灰にしてしまう臭い。
タカナシさんは?
タカナシさんはどこに行ったの?
私は当たりを見回した。
そして、見つけた。行軍から少し離れた木の脇に立つ母の姿を。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます