第2話 お茶会と疑惑


キアラはセリアに城内へ招かれ、ゲストルームへ通される。

 お茶の準備をしてきますねと言い、セリアがその場を離れ、キリア一人となる。

 ゲストルームにはソファーに年代物のアンティークなテーブル、それからちょっとした机に、ベットも備え付けてあり、ゲストを宿泊させることも可能そうな家具の配置をしていた。

 外装が古城の古臭さそのままだったわりには、道中このゲストルームまでの道すがら、廊下や、窓、壁のいたるとこまで古城を感じさせないとても清潔感のある空間で、キアラは必例とは思いつつも、思わず左右へと視線を巡らせていたのだった。

 ソファーに腰おろすと、ふわりという感触がお尻を包み込むように支配していき、やがて体全体を包み込む様な心地の良い感覚に支配される。

 おそらくだが相当高価なものなのだろう。

 ソファーの心地良さを堪能していると、セリアがティーセットとお菓子を持って現れた。

「お疲れかと思い、心落ち着けそうなラベンダーティーにしてみたのですが、飲めます?」

「大丈夫です。ありがとうございます」

 どうやらかなり気を使ってくれたのか、リラックス効果のある紅茶をチョイスしたらしいセリアに、キアラは心から感謝したとともに、その付け合わせの茶菓子に目が釘付けになっていた。

 茶菓子は大きめのスコーンで、その横には3種類のジャムがそれぞれビンで置かれており、そこには取りやすいようにスプーンが添えてあった。

「た、食べて良いかな?」

「ええ、どうぞ」

 我慢の限界だったのか、キアラはセリアに断りを入れ、スコーンに手を伸ばしそこで固まる。

「キアラさんから見て、右から、ラズベリージャム、ラベンダージャム、ローズジャムです。ラベンダーは紅茶と被ってしまいましたね」

 そういい、セリアさんは少し苦笑いを浮かべる。

 キアラはそれにかまうことなく、説明を聞いた後、ラベンダージャムに手を伸ばし、スコーンに塗り、一気にほおばる。

 一口かむと、ラベンダーの少し鼻につく強い香りと、優しい甘さが口の中いっぱいに広がり、空腹のお腹と疲労の体にしみわたる。

 2日ほどまともな食事をしていなかったキアラにとってはまさに、天にも昇る気持ちで、一度口にすると止まらず、ラベンダー、ローズと、パクパクと食べ進めていき5分もしないうちにお皿にあったスコーンは姿を消したので、セリアは慌ててなくなる前に部屋を出て追加のスコーンを持ってきた。

 そんなセリアの気遣いは目に入ることなく、キリアはそれはまぁ豪快に食べ進めていき、紅茶もほどほどに堪能したところで。

「あ・・・ご、ごめんなさい。2日まともなものを口にしていたなかったのでつい」

 赤面し、恥ずかしさで俯く。

 しかしそれがセリアにはおかしかったのか、コロコロと笑いながら。

「お姉さんとは違うけど、面白い人ですねキリアちゃん」

「姉と比べられますと、耳が痛いです。じゃなくて、助けてほしかったんですね、いったい何が?」

 本来の目的を思い出したキリアは、食べるのをやめ、姿勢を正す。

「夫、ヴァンパイアであるルシアが、1カ月帰らないのです」

「はぁ、行方不明ってことです?」

「はい。それで、探しに行こうとも思ったのですが、何やらホウリ村に行くと、男の人しかおらず子供の姿も見えなかったんです。怖くなって帰ってきたんです」

 そこでふとキリアは思い出す、村を訪ねた時、何か自分の音をなめ回す視線の妙に気持ちの悪い感覚。

 女子供は家の中におり、静かにしているのだろうと思ったが、考えてみればまだ日も高いのに、外で子供が遊んでいない。

 小さな村で家も10件ほどとはいえ明らかに異様だった。

 通り過ぎた時に感じた違和感はこれかと、キリアは思ったが、それとルシアが失踪している事との関連性を考える。

「う~ん、何か忘れてる気がする」

 キリアは小骨が歯に挟まっているような、そんな感覚にとらわれ、唸る。

「あの、ルシアの魔力は感じるんです村から」

そこでふと、セリアがそういう。

「感じるって。そらぁ近場だし多少交流もあったのはお姉ちゃんからも・・・あの、眷属って、魔力性質一緒だったりします?」

 キリアが彼女の勘違いだと思い、そう言おうとして何となくそう聞くと。

「え、ええ。あれ、私が彼の眷属だって言いましたっけ?」

「その、お姉ちゃんが(彼との時間を過ごし、そして同じ時間で死んでいくことを決意するために眷属になるなんて。こんな深い愛はないわ)って、ボロ泣きしながら、こんな情熱的な深い恋愛をしてみたいって」

 キリアがそう話すと、セリアは耳まで真っ赤になりながら、それでもまんざらでもないのか、両手を頬にあててもじもじと身もだえていた。

 ひとしきり恥ずかしんだあと、おほんと咳払いをし、姿勢を正す。

「先ほどの話ですが、おそらくですけど彼と性質や属性は同じくなったので、おそらく魔力もそうなのかと。もともと私は魔法が使えないただの村娘でしたので。」

「私に向けて、何でも構いません、魔法を打ってください、できるだけ激しいのを」

 困惑するセリアに、キリアは告げた。

「大丈夫です。おそらく傷一つ尽きませんし。それに、確かめたいことがありまして」

 キリアがあまりに冷静に落ち着いた様子で言うので、セリアは渋々といった形で立ち上がり、キリアに向けて手をかざした。

 額には汗がにじみ、彼女はああは言ったが、こんな事を恩人の妹さんにして良いのかとかなり自問自答しながら魔力を練り始め、セリアの足元に魔法陣が現れ、それと同時に、彼女のキリアに向けていた手に青白い光が集まり始める。

「どうぞ」

 特に防御する体制を取るわけでもなく、静かにセリアを見ながらキリアがそう告げる。

「け、怪我したら治しますので・・・滅びの光よ、我が前にいる敵を滅ぼせ!」

 彼女の手から最初蒼かった光が赤黒く変色し、一気にキリアへと放たれる。

 放たれた赤黒い光は迷うことなくキリアへと向かい、そして大きな音ともに直撃し、ゲストルームは爆発の煙に包まれる。

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