どこで、間違ったかな?

由紀斗が、出ていった。


とても、混乱しているようだった。


梨寿りじゅ、大丈夫?」


「大丈夫」


真白は、私の手を握ってくれる。


私と真白は、同じお弁当屋さんで働いている。


真白は、二つ年下の店長さんだ。


「遅くなりましたが、大宮さんの歓迎会しましょう?」


「嬉しいです。」


働いて5ヶ月目に、歓迎会を開いてもらった。


長い間妊活をしていた私は、お酒が飲めなくなっていた。


もうすぐお開きになる前の最後の注文で、男性社員さんが、梅ジュースと梅酒を間違えて注文してしまった。


私は、いっきに酔いが回ってフラフラになった。


そして、目覚めると裸で寝ていた。


「あの、これは……?」


店長は、私を抱き締めた。


「最初に出会った日から、大宮さんが好きです。」


「私と店長は?」


「寝ました。」


頭が、真っ白になった。


「大宮さん、とても可愛かったです。でも、次からは男側でお願いしますね」


男側…とは?



「深く考えないで、引っ張ってくれたらいいだけです。」


そう言って、店長は嬉しそうに笑った。


「私は、足が悪いです。」


「だから、何ですか?」


「まだ、若いです。店長には他の人が」


そう言った私を店長は抱き締めてきた。


真白ましろです。店長はやめてください。拒むなら、今のままの状態で、私を抱いてからにして下さい。」


そう言われて、頭の中が、ハテナマークであふれ返った。


「わかりました。真白。私は、梨寿でいいです。よくわかりませんが、やってみましょう」


そう言って、真白の唇にキスをした。


驚く程、柔らかくプニプニとしたその唇に何度もキスをした。


真白は、優しく丁寧に私を愛した。


「だめっ、そこは」


「大丈夫だよ。すごく綺麗」


由紀斗とのおざなりの関係を繰り返していた私にとって、真白の愛撫は…。


忘れていた気持ちを思い出させた。


全てが終わった瞬間から、私は真白を受け入れていた。


それから7ヶ月が経ち、私は由紀斗に離婚届を差し出したのだ。


コンコン


「はい」


「面と向かって話せない気がするから聞いてくれない?」


「なに?」


「離婚許してもらえなかった。」


「そっか、私はゆっくりでいいから…。彼女と結婚できるわけじゃないから」


「なるべく早く許してもらうから、無理なら養子になれる方法探すから」


「養子ってなに?」


「離婚するなら、大宮の姓を捨てなくちゃならないから」


「なら、ゆっくりでいいよ。」


私は、由紀斗にそう言った。


誠意を真白に見せるために離婚を迫ったのだ。


本当は、由紀斗を嫌いになれていなかった。


「私達どこで、間違ったんだろうね?」


涙が、湯船に落ちていく。


「そうだな。子供ばかりに、縛られすぎたかな…」


「由紀斗、ごめんね。子供産めなくて」


「気にしなくていいよ。俺は、梨寿のお陰で幸せだよ。ずっと…。」


「私も、由紀斗と居て幸せだよ。」


本当は、どうしたいかわからないよ。


「梨寿は、一番の友達で、一番の理解者だと思ってる。これから先も、それが続くって思ってた。ごめんな。俺が頼りないから、辛い思いさせて。」


「そんな事ない。私も、駄目だったから。」


「井田さんといるの幸せか?」


「そうだね。子供に縛られないから」


「そっか。なら、よかった。」


執着を手放せば、母親になれない気がしてた。


「由紀斗なら、いい父親になれるよ。今からだって…」


「俺は、梨寿との子供以外欲しくないから…。だから、俺の事は心配しないで。」


「私も、由紀斗以外の子供は欲しくないよ」


「じゃあ、梨寿。俺達」


「無理だよ」


涙が止まらなかった。


「だよな」


「由紀斗といると子供が欲しくなって苦しくなる。おざなりな営みは、もう嫌だよ。でも、私と由紀斗はお互いに優しく出来ない。わかるよね?もう、その関係が染み付いちゃったの」


「わかってる」


「でも、親友にならまだなれるかな?」


「考えてみるよ」


由紀斗が、洗面所から出ていったのがわかった。


あんなに優しく抱かれた後で、由紀斗に抱かれる事は出来ないよ。



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