第7話 父ちゃん開けてよ・・・
結局その日は、全く仕事が手につかず、早々にして職場に戻ることになった。
会社に戻る最中のトラックに乗せた客人は、とても気まずそうにしていた。
「えっと・・・あの・・・」
「悪いとこを見せてしまったね・・・なぁに、どうってことない、すべて身から出た錆さ・・・」
「橋井さんの息子さん・・・ですか?」
「ああ。俺の事を立派な父ちゃんだと、ずっと思いこんでた。本当のことをいつか言おうとは思っていたが、こんなに早く、夢を壊すことになるなんてな・・・」
彼は何も言えなかった。むしろその方がありがたかった。気分を悪くしたお詫びに、
「・・・この街って、俺のとことは違って、いろんなものがありますね!すごく新鮮に見えるなあ!」
気まずい空気に耐えられなくなったのだろう、唐突に話題を変えて話しかけてきた。全く、いい年して年下に気を使わせるなんて・・・私というやつは。
「特に俺、飛行機なんて初めて見ましたよ!ほら、あそこに飛んでるジェット機とか、実物はかっこいいなぁ・・・」
飛行機ねぇ・・・ん?飛行機?
ふとトオル君が見ている方向に目を向けてみると、確かに飛行機が低空飛行しながら編隊を組んで青空に5本の白い線を引きながら飛んでいく。白い機体に青い飛行翼、そして地上からでも見えるくらいでかでかと描かれた”μ”の字・・・まさか!!
「・・・μ社のアド・ファイターだ!!」
「アド・ファイター?」
「μ社の無人広告飛行兵器の事さ、しかもあの色はμ社きってのエリート部隊、ミュースカイ隊じゃないか!!」
気づいた瞬間にスマホに通信が入った。空襲警報だ。やはりμ社がこちらに報復攻撃を仕掛けにやってきたのだ。私はあわててトラックのスピードを上げた。そして、会社に連絡してアドブロックバリアの使用許可をもらい、すぐに対広告攻撃防御態勢に入る。トラックの周囲に
「いいか、トオル君。あのアドファイターはこの街に広告絨毯爆撃を仕掛けにやってきたんだ、今から私たちはその爆撃範囲を全速力でこの街の大きな
「は、はい!絶対開けません!!俺もついこの前そうなりかけたんで、怖さは痛いほど知ってます!!」
「・・・何があったかは知らないが、いい心がけだ。しっかり捕まってろよ!!」
私はトラックのアクセルを全開にして町へと突っ切った。久しぶりに高速域を出したので、エンジンが心なしかぶるうぶるうと喜びの声を上げている気がする。そして、いよいよ奴らの爆撃が始まった。完全密閉のドアでも防ぎきれない爆音と、爆弾がさく裂して好き放題に広がる爆炎、そしてその後に出てくるμ社の広告。奴らはこのトラックの広告に反応し、人型の形になって止めようとするが、どっこいそういう訳にはいかないと、私は奴らを轢き殺す。
「橋井さん!!右!!」
「おおっと!!すまない、有難う!」
きゅるきゅるとタイヤがこすれる音を発しながら私はすぐ目の前に落ちてきた爆弾の直撃を間一髪で避けた。今のでだいぶナノフィールドが傷ついてしまったが、命さえ無事ならどうってことない。トオルくんもなかなかどうしてできる子だ。彼が私の視覚を補って正しい進路に導いてくれるお陰で、私は運転にすべての神経を預けることが出来る。防空壕まではあと少しと、気を入れなおしたその矢先。
「は・・・橋井さん・・・あれ・・・!!」
「ん?・・・!!・・・な・・・なんで・・・!?」
私は急ブレーキをかけた。高速域からのブレーキだったので慣性が大きく働いて危くエアバッグを作動させてしまう所であった。私は再び、その急ブレーキをかける原因となった人物を見つめる。見間違いであればと思ったが、その目に映っているのは・・・間違いなく、ハルタであった。
「・・・父ちゃん、開けてよ。」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます