第4話 アド・マイン(広告地雷)を越えて

乾いた土が風に巻かれて土煙を上げている。そしてその真ん中にある、どくろのマーク。どくろのマークの下に、{危険:広告地雷原地帯}と書かれた看板。ここはμ社の管轄に入った村の周りに、UAGがいやがらせ同然で張り巡らした広告地雷アドマイン原だ。

この地雷原があるから、村の人は絶対に外出することが出来ないので、生活物資などは全てμ社の輸送ヘリに頼っている。この地雷を越えられるのはさっきのUAGのアド・ロイドだけ。生身の人間が歩けばたちまち踏み抜いて広告共の餌食になってしまうだろう。俺はそんなところを全く何も注意せずに、堂々と歩いている。


かち、と何かを踏む音がした。それが地雷だ。今度出てきたのはサンギのたばこ、の広告らしい。爆風の代わりに広告構成体ナノマシンが噴き出て踏んだ相手の知覚に入りこんで嫌でも広告を表示させるのだ。最初は驚いたが、すかさず俺がこの言葉を放つと、まるで嘘みたいにおとなしくなり、そして消滅したので、今やすっかり警戒心は無くなってしまった。


「アヨガン」


みえみえの木につるされたときに苦し紛れに放ったこの言葉は、あのみえみえの木を一瞬で枯れさせてしまった。悩殺をそのまま表したような体がどんどんしなびていき、段々と言葉が間延びし始めて、そこら辺のばばあでもならないようなしわくちゃな顔になったときのみじめさと言ったらもう痛快だった。


「なぜあなたがそのことぉばぁううぉぉ・・・・」


木は枯れた。それと同時に拘束が解けて、俺は自由になった喜びをかみしめる暇もなくその場から逃走したのだ。そして成り行きのまま村を出てしまい、今に至るという訳だ。俺はこの言葉を残して死んだツルマ爺さんへ、心からの感謝の気持ちがわいてくると同時に、どうして自分がやられる時にこの言葉を言わなかったのかという疑問がわいてきた。この言葉さえあれば、この地雷原だって悠々と歩けるというのに。かちっ。


「カモンベイビー、イセシマ!!」

「アヨガン」


村の人たちは追ってこなかった。この地雷原を越えられるわけがないと高をくくっていまだに村中探し回っているか、それとも本当にあきらめたか、それを確認するすべはない。どのみち、村に戻る気はさらさらないのでこのままふらふらと旅に出ることにした。目的は当然、「アド・クリーナー」だ。たとえその存在が嘘か本当か分からないものだとしても、ただ目的もなくふらふらするよりはよっぽどマシだ。かちっ。


「おえー、おえー、オオエのラーメン、おえー、おえー」

「アヨガン」


・・・そういえばあれからまだ何も食っていなかった。さっきの広告のせいで少々腹が減ってきた。くそっ、お前の勝ちだUAG、今回ばかりはお前たちの策略にはまってやるぞ。だけどいつか絶対に、お前らもμ社ごと「アド・クリーナー」できれいさっぱり消し去ってやるからな。


・・・スイッチの音がしなくなったという事はとうとう俺は地雷原を越えたのだ。生まれてこの方村の外の世界を絵本かネットでしか見た事が無かったので、これからはその光景をじかに目に焼き付けながら旅をするのだろう。そう思うと胸の高鳴りが止まらなかった。ああ、これが冒険の始まりってやつなんだな。さしずめ俺は世界を救うために旅立つ勇者だ。それにしては少々身軽すぎるな、と俺は自分で自分をあざけった。


冒険の始まりだ。めざすはアド・クリーナーの場所・・・の前にまず飯を食える場所を探すことにしよう。そろそろ腹の虫が暴れはじめてくるころだしな。





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