第21話 ジェシカ

 わたしは決めていた。

 SUITSに出てくるジェシカのような人になると。


 あなたに宣言もした。


「ねえ、最近思うんだけど」

「なに?」

「確かあなた、ジェシカのようになるとか言ってなかった?」


「ええ、はい。そうすね、言いましたね」


「あれはどこに行ったの?」

「え? どことは?」


「ジェシカってニューヨークにいるんだよね?」

「ええ。わたしもね、おかしいと思ってるんですよ。ああなるはずだったのにね。まあでもわたしも氷の仮面つけてるし」


「氷の仮面? つけてんの?」


「あら、お気づきでないのかしら?」


「あー、ごめん。気づかなかった。氷の、ね。あれですよね、氷のひょっとこ仮面ね」


「なっ?! なんて失礼なことを!」


「んでお腹には浮き輪つけてますよね?」


「もうほんと嫌になっちゃう。一体どこで間違ったんだろう?」


「え? そりゃ最初の一歩からじゃない?」


「ええ? 一歩目から?」


「うん。ニューヨークに向けて一歩踏み出したつもりだったけど違ってて最終的に地球上のニューヨークの裏側くらいにたどり着いたくらい距離が離れちゃったんだろうね」


「あなた。サラッと言ってるけど本当にひどいことを言ってますからね、今。わかってるの?」


「はい。それですよ、それ! 今のその顔、氷のひょっとこ仮面!」


「ま、氷のひょっとこ仮面をかぶった浮き輪をつけてるような面白い人が好きなんだから仕方ないよね」


「本当にズルい」


 いつものように変なこと言ってる。


 いつものように笑いあう。


 いつものように


 わたしはあなたのことが好き。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る