02

 玉座の前に膝間づく、いかにも冒険者らしき若者。

「王様、私が必ずや魔王を倒してみせましょう」

 うやうやしい態度の勇者候補に、王は慣れた様子でポケットから小銭袋とひのきの棒を取り出した。


「そうか。ではそなたに100Gとひのきの棒を授けよう」

「待って。王様待って」

 遮ったのはひのきの棒の声。王は面倒くさそうにひのきの棒を見て、小声で返す。

「なんじゃ」

「何で今俺のこと渡そうとした?」

 玉座に座る王の様子に若者は僅かに首をかしげた。

「何でって……勇者候補が来たからかの」

「言っとくけど、俺を装備したら誰でも魔王が倒せるわけじゃないからな?」

 首をかしげていた若者が、少し申し訳なさそうに発言する。

「あの、ご遠慮させて頂きます。それでは」

 え、と王が顔をあげるよりも先に、若者はお辞儀を一つしてすたすたと玉座の間を後にした。背もたれに全体重をかけ、はぁと息を吐く王。

「お主のせいで授けられなかったではないか」

「そりゃまぁ、ひのきの棒なんて冒険者は要らないだろうな」

 そんなものか、と王は手に顎をのせて考える。

「そうか、伝説の剣だと伝えればいいんじゃな」

「普通は信じないと思うけどな。声だって聞こえないんだし」

 むむむ、と考え込む。

 すると再び奥の大扉からノックが聞こえてきた。玉座まで届くその音に、王はぱっと顔をあげる。


「次の勇者候補が来たようじゃな。今度こそ」

「無駄だと思うけどなぁ」

 重々しい音と共に兵士によって扉が開かれ、玉座の方へと赤いじゅうたんを通ってやってくるのは若い娘。王はだれていた姿勢を直し娘の方を向く。



 娘は玉座の前まで来ると、にぱっと笑顔を見せた。

「やっほー、魔術の里から来ました、勇者候補の魔女でーっす」

 語尾に星がつきそうな語調の魔女に、ほう、と王は声を漏らす。

「魔術の里とな……さすれば実力には期待できそうじゃの」

「ばっちし任せて! これでも実力派なんだから」

 きらーんと決めポーズ。王様相手なのに、と少し困惑している様子のひのきの棒にお主も人のこといえんじゃろうと王は小声で返す。

「ちなみに、報酬とかって……出たりする?」

 ちらっと視線を送る魔女。おお、と王は玉座に置いた袋を手に取った。

「勿論討伐後の礼は弾むが、とりあえず……」

 ひのきの棒と100Gの入った袋を差し出す。

「そなたに」

「待って。そのひのきの棒、何かおかしい」

 手で王を制し途端に真剣な表情に切り替わる魔女に、お? とひのきの棒が呟く。

 魔女は王の手に握られたひのきの棒を難しそうな顔でじーっと凝視した後、うん、と頷いて王を見た。

「詳しいことは分からないけど、これ王様用だと思うの」

「ふーん、実力は伊達じゃないみたいだな」

 ひのきの棒が言うも、やはり魔女はそれに反応しない。


「……よし。決めた」

 代わりに何かを決意した様子で姿勢を正した。

「私、ここの研究員に立候補する! で、それを調べる」

 びしっとひのきの棒を指さす魔女に、はぁ、と王は相槌を打つ。

「私悩んだんです。報酬と騒ぐ知的好奇心の血の間で」

 タラタッタッターと情熱的なBGMがどこからか聞こえてくる。なにこれ? というひのきの棒、よくあることじゃと王。

「じゃあ城の研究員になっちゃえばいいって。ということで王様、私を雇って!」

 二つ結びの髪を揺らして、目を輝かして王を真っ直ぐと見る魔女。

「ふむ。よかろう」

「世界一軽々しい就職を見た」

 実力派な魔女が家臣になった。





 深い深いため息を吐き、やや年老いた男は眉間に刻まれたしわを濃くする。

「また陛下は変なのを……」

 頭を抱える男の肩をぽんぽんと魔女が叩く。

「まぁまぁ総務サン、そう落ち込みなさんなって」

「状況を見てからものを言ってくれ」

 総務はぱしっとその手を払う。

「前は魔王軍の四天王とか連れてきて……色々と大変だったんですよ」

「え、何で四天王来たんだよ。つか王様マジか」

 総務とひのきの棒の声が重なった。へー、と面白そうに魔女はその話を聞いていたが、思い出したように王を見て言う。

「というか、王様って若いよね。口調からしておじいちゃんかと思ってたけど、私よりちっちゃいじゃん」

 自身より少し身長の低い王の頭に手をかざし、何歳? と問う魔女に、総務は無礼なことをやめろと注意する。

「確かに陛下は他国の王よりは若いが、立派な我が国の王だぞ」

「うんうん。心も広いし、王様万歳だね」

 そのやり取りに王の口元が僅かに緩んだ。

 それを見て、総務はひそかに微笑む。


「じゃあ新人歓迎会はバーベキュー!」

「阿保」

「今すごいストレートにディスらなかった!?」

 総務に魔女が声をあげる。

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