タイトルマッチ:セコンド・相沢紗希

ドガァッ!

『あーっと!挑戦者のフックがチャンピオンに炸裂!これは厳しい!』

「よっしゃぁーッ!」

 思わずわたしは歓声を上げた。今フックを決めたシズカとは小学生のころからの幼馴染で、シズカが王座を取ると決めた時からずっと、セコンドとして支えてきたのだから、感慨も一入だ。

 シズカが中学に入ってしばらくして近所のボクシングジムに通い始めると、わたしもそれに付き合って一緒にボクシングを始めた。わたしにはそれほどボクサーとしての才能はなかったけど、シズカは違った。中学三年でアマチュアチャンピオンに輝くと、高校に入ってすぐプロライセンスを獲得、破竹の勢いで勝ち進むことになる。……そして、それをわたしはセコンドとして支えた。

 最初は我ながら拙いセコンドっぷりだったけれど、シズカとともに強敵と戦ううち、いまではシズカの相棒として恥ずかしくないようになった。そしてわたしたちは遂に最強と呼ばれるチャンピオン――天道寺朱夏に挑むこととなった。

 天道寺はたしかに強い。でもシズカなら勝てるとわたしは断言できる。天道寺の戦術はしっかり分析したし、シズカもその分析を元に特訓を積んだ。

 その結果がこのラウンド、このフックだ。先のラウンドまではギリギリの闘いだったけれど、いまやシズカが流れを作っている!

「いっけぇ!シズカ!一気に決めちゃえ!」

 シズカは小さく頷くと一気に距離を詰め、チャンピオン目掛けてトドメの一撃を放つ!チャンピオンもこれは避けられない……いや、ちがう!

「よけ……ッ」

バッコォッ!

 わたしが警告する暇もなく、シズカの顔面にチャンピオンのカウンターが命中した。

「……ぶはぁ……ッ!」

 シズカは勢いよく吹き飛ばされ、仰向けに倒れた。頭をぶつけている。マズい。わたしはタオルを引っ掴む。

「……ダ、ダウン!……1!……2……!」

 だが、投入するわけにはいかなかった。シズカが立ち上がろうとしているのだから。

『挑戦者、これは立てるかぁ!?』

 正直厳しい。あの一撃は完璧に決まっていた。だけどシズカは立とうとしている。ならばわたしはそれを応援しなければならない。

「シズカァーッ!」

 わたしは必死に叫ぶ。シズカは肘を着いてなんとか上半身を起こした。あの一撃を受けて立ち上がれたのは、シズカのタフネスのたまものだろう。……だけど、そこまでだった。シズカは頭をクラクラさせ、そのままの姿勢で固まっている。カウントはそのまま進んでいく。

「……9!……10!ノックアウト!」

カンカンカンカーン!

 ゴングが鳴り響く。わたしはすぐさまシズカに駆け寄った。

「シズカッ!?シズカッ、しっかりして!」

 その声を上げたのとほぼ同時に、シズカがバランスを崩してリングに身を横たえる。

 ……あのとき、油断しないようにアドバイスをするべきだった。そんな後悔がわたしの頭の中でひたすら渦を巻いた。

 シズカは虚ろな目で虚空を見つめている。

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