予期せぬデート?

『ごめん。誤解、解こうと試みたんだけど、明日香、全然、話聞いてくれないや』


 俺が知奈美さんにキスしようとしている現場を、明日香に目撃された。


 もちろん知奈美さんの悪ノリに乗っただけで、本気でするつもりはなかった。

 しかし、明日香に目撃されたタイミングが最悪だった。


 帰ったら誤解解いとくから、と知奈美さんは豪語していたけれど。

 今のところ、結果は得られていないようだ。


 まぁ、仮に知奈美さんと付き合ったとしても悪いことをしているわけじゃないのだけど。


 しかし、この罪悪感はなんなのだろう。


 ともあれ、あまり気にしていても仕方ない。勉強でもしていよう。


 スマホの電源を落として、俺は勉強机に向き合う。


 そうしてしばらく勉強に明け暮れていた時だった。


 コンコンと軽いノックをした後、妹の礼奈れいなが顔を見せてきた。


「兄さん、少しいいですか」

「ん? なに?」


 俺はシャーペンを机の上に転がすと、椅子ごと礼奈に向き直る。


「明日の土曜日って空いてますか」

「うん。空いてるけど」


 礼奈はパァッと笑顔を咲かせると、両手を合わせて。


「そうですかっ。じゃあ、明日は私に時間くれませんか」

「どこか行くの?」

「はい、色々買いたいものがあるんですっ」

「俺に荷物持ちをしろと?」

「さすが兄さん、ご名答です」

「それなら父さんに頼んでみたらどうかな。大体いつも暇してるんだし」

「それは流石にないです。生理的に受け付けません」


 冗談でもなんでもなく、礼奈はキッパリと断言する。可哀想な父親である。


 父さんが聞いたら泣くな、これ。


「では、明日は予定空けといてください。十時ごろには出発予定ですから」

「拒否権はないのか」

「頼りにしてますよ、兄さんっ」

「へいへい」


 礼奈はふわりと微笑むと、軽い足取りで俺の部屋を後にする。まぁ、いいか。どうせ何もやることはないしな。




 そして翌日。



「──ということで、レッツショッピングです!」


「ちょ、ちょっと待て! なんで明日香がいんだよ」

「れ、礼奈⁉︎ あたし聞いてないよ!?」


 快活な笑顔を咲かせる中学生と、困惑する元カップルがデパートの前にいた。


「あれ、言ってませんでしたっけ?」

「「言ってない!」」


 とぼける妹に、俺と明日香は声を合わせて文句をぶつける。


 礼奈は頬に人差し指を置くと、あざとい笑顔を浮かべて。


「息ぴったりですね」

「ち、ちが……これは」

「……からかうのやめて、礼奈。あたし達もう別れてるから。……そんなこと言われたらヒロト、良い気分しないと思う。それに、ヒロトにはもう……」


 明日香は俯き加減に、ぽつぽつと呟く。

 最後の方は何をいっているのか聞き取れなかった。


 息ぴったりと言われた程度で、一々気分を害したりはしないけどな……。


 ──って、こうやって直接口にしないで溜め込むのは俺の悪いとこだ。


「別に、嫌だとは思ってない、けど」

「そ、そうなの?」

「うん」

「そっか」

「…………」

「…………」


 お互いに黙ってしまう。


 すると、見かねた礼奈がぎこちなく笑みを繕って。


「え、えーっと、取り敢えず行きましょう。今日は兄さんがいるので、たくさん買っても心配要りませんし!」

「限度はあるからな。ほどほどに」

「はい。さっ、行きましょ明日香さん」

「あ、う、うんっ」


 礼奈は明日香の手を握ると、デパートの中へと向かっていく。


 ったく、大丈夫だろうか。

 この場に明日香がいるとは思わなかった。


 昨日の一件もあるし、何事もなく今日を乗り切れるのか心配になる俺だった。

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