第9話 「異常」が「正常」になる日常、そして下り立ったスタートライン

「今は受け入れるのが難しいかもしれないけど、あなたは虐待されていた。」


「おそらく、あなたのお母さんも何かしらの精神疾患を持っているでしょう。本来なら、親子でカウンセリングとかをすることが望ましい。」


「ただ、今までのことを考えると、それは現実的ではない。あなたは若いから、まだ間に合う。でも、残念ながら、お母さんは、ずっとそのままだろうと思う。」


「もう少し早く向き合っていたら、見込みがあったかもしれない、あなたの場合は、虐待を受けてから向き合うまでが少し時間がかかってしまった。記憶に対して、うまく折り合いを付けて生きていく、というイメージが正しいかもしれない」


と、まぁこんな感じで医師には言われた。

私は、虐待されていたのか。


罵詈雑言を浴びせられたり、夜トイレに起きたら頬を叩かれたり、咳き込んだら廊下に立たされるような生活が普通だと思っていた。


他の人は、そうじゃないのか。

と、ある意味カルチャーショックを受けた。


異常が正常になってしまう、おかしな日常。

一番避けるべき事態だ。


ストレスで声が出なくなって、差別用語で呼ばれたり、事ある毎にキチガイと呼ばれることは、異常なのだ。

当時の私にとっては、それが「日常」であって「正常」だった。


小さい頃から培われてきた「異常」を、世間の「正常」にシフトさせなければいけない。

難しい作業だ。


医師からは、カウンセリングを勧められた。

そして、薬も処方された。


聴覚過敏で眠りがかなり浅い私。睡眠薬が出された。

そして、気分安定薬である、バルプロ酸ナトリウムも出された。

これは、双極性障害の治療にも使われる気分安定薬だ。

あとは、抗精神病薬であるエビリファイ。


この処方は双極性障害には奏功するものだろう。


私は、その日を境にして、精神科に通院し始めた。

そして、長年心身に染み付いてきた「異常」という名の「正常」を正すためのスタート地点に立った。



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