第30話 脳みそ破壊映像メイキング
「やることは単純。映像を作ってディモンの脳みそを破壊する」
「でも。そんなの見たところで破壊なんてできるのかな?」
「あいつはある意味同類。私にはよく分かる」
知里は鼻息を荒くしている。
コボルトの巣を焼き払った経験がここで活きてくるとは思わなかったけど。
「っていっても、カメラとか無いし。ドリアさんがやってくれるかどうか……」
「彼女に本当にさせるわけじゃない」
「どういうこと?」
「ディープフェイク技術を使う」
「だとしても。誰かがやらなきゃいけないんでしょ?」
「私と孝雄がやればいい」
「えっ? 僕と知里が……」
僕が驚いていると、
「ちょっと待った。おぬし、さりげに既成事実を作ろうとするでない」
「でも。これをやらなければ戦争を終わらせることができない」
「ならわしがやる。わしと孝雄がまぐわうのじゃ~」
「さっき言った言葉をそのまま返す。ふざけるな淫乱雪女」
「ちょっと二人共。恥ずかしいから止めて!」
「なら。じゃんけんで決めるのじゃ」
「上等」
雪芽さんと知里はじゃんけんをし始めたが、決着が付くことはなかった。
「なんで」
「なぜじゃ」
二人は肩で息をしている。
「なら~、間をとって私と孝雄君がやるってのはどう?」
「淫乱」
「ピンクは」
「黙ってるのじゃ」
「黙ってて」
二人の声がはもった。
「ええ~。じゃあ孝雄君の童貞は誰が奪うの~。もたもたしてたらオーガの大群が来ちゃうよ~」
「わしじゃ」
「私」
「私~」
三人とも自分がするという主張を止めなかった。
「いや。振りでいいんじゃ?」
「いや、駄目じゃ。やるならちゃんとリアリティをだな」
「そう。本気でしないと、脳破壊なんてできない」
「もう腹くくっちゃった方がいいよ~。ハーレムなんていつまでもできるわけじゃないんだから~」
三人は各々とんでもないことを主張してくる。
「そっ、その。なら私が相手します。だって私達の巣の存続がかかっているわけですし。このくらいっ!」
「落ち着いてドリアさん。やけになっちゃ駄目だよ」
「あの。孝雄さんってすごく私好み、なんですよね。もし、孝雄さんが結婚してくれるならしても、いいかなって……」
ドリアさんは顔を赤らめながら僕の所へと近づいてくる。
「ちょっ、駄目じゃ。孝雄。こいつの言葉に耳を貸すではない。お前のフェロモンにやられているだけなのじゃ」
「これは雪芽さんの言う通り」
「そうそう。絶対にこの子の言う事は聞いちゃ駄目」
と雪芽さん、知里、美也さんの三人がまくし立ててくる。
このままじゃ話が決まらない。
どうしようかと悩んでいたら、
一匹のオーガが現れた。
敵かと思ったが、追放された王オーガのようであった。
王オーガはディモンに殺されずに済んだようだった。
「いやいや。待ってください。体格に明らかに差がありますよ」
「お前がメスだ。俺はオス」
「えっ?」
今日一最悪な選択肢が出てきてしまった。
「仕方ない。孝雄、尻ぶち外交だ」
「いやいや。尻ぶち抜き外交になっちゃう。僕死んじゃうから」
「大丈夫じゃ。孝雄は強い。死んでしまったら骨を拾ってやるのじゃ」
「いや。そこは編集とか合成でなんとかしてよっ!」
「孝雄さん。私達の巣のためにここまで命を懸けてくれるなんて素敵です。今女装アイテムを取ってきますね」
とドリアさんは奥の方へと走り出して行く。
その一方で他の三人は僕のことをニヤニヤしながら見ていた。
「あの……怒ってないんですか?」
「怒っている」
「それなのになんで僕達に協力してくれるんですか?」
「息子の死は悲しいが乗り越えなければならぬ。しかし俺の部下に馬鹿なことはさせられん」
と王オーガは言った。
この人、これからNTRものの〇V撮影するって知らないんだよな~。
「だからだ。俺は息子を倒す」
「それまでの間、ということですか」
僕の問いに対して首を横に振る。
「いや。俺はお前達に戦争を仕掛けるつもりはない。王子の弔い合戦は俺のエゴでしかないのだからな」
「本当にごめんなさい。僕が美也さんに前を見るようにきつく言っておけば……こんなことにはならずに済んだのに」
「よい。気にするな。それより……撮影を楽しむとしよう。くくく」
この人、これからすることの意味分かってるな。
僕達は撮影することになった。
「あっ、ああん。あんあん」
「おらっ。おらぁっ」
流石に本気でするわけには行かなかったので、振りをすることになったがお互いの演技が下手糞すぎてそれどころではなかった。
とはいえ、元ネタを作れば後は合成でなんとでもなる。
モンスターとの初めての共同作業がNTRビデオの撮影だなんて、想像が付いただろうか。
知里の華麗な編集技術やドリアード族の魔法によって完ぺきな映像が作られた水晶が完成した。これを見せれば、確実に脳破壊できる。
「たっ、大変だ。オーガの大群が到着したぞ」
他のドリアードが知らせに来た。
「とっ、とりあえず僕達で足止めしましょう。知里、雪芽さん、美也さん。殺さないでくださいね」
「安心するのじゃ。わしらはあくまでドリアードの国を守るだけなのじゃ」
僕は雪芽さんの返事にほっとした。
「待て。俺一人で十分だ」
「オーガの王だからって一人で戦うのは無謀ですよ」
「安心しろ。必ず止めて見せる」
意気揚々と王オーガは飛び出していった。
ドリアードの巣。入り口。
オーガの大群が集まり、今にもドリアードの里を攻撃が始まろうとしていた。
「この戦争には正義はない。やめるのだ」
王オーガがオーガの前に立ちはだかる。
「元王様の言葉なんて聞くな」
「皆殺し。皆殺しにしろ!」
「お前の馬鹿息子のせいでとんでもない目に遭ってるんだ~」
「なんでオーガに女の子が生まれないんだ~。この腐れ遺伝子が~」
王様に対して無礼な事を各々言う。
しかも最後に関しては王様云々関係ないし。
「俺が。俺が女の子になれていればよかった。俺が育て方を間違えたからだ。すまん。すまん」
土下座して謝るのはともかくとして、色々間違えている気がする。
「だが。わしが戦争を終わらせる。ディモンに会う故に通せ」
王オーガの声を聞いたオーガ達は数歩引き、王オーガに道を譲った。
王オーガは、
「くっくくく。楽しみでたまらんな。脳みそをぶっ壊してくれるわ。がっははは」
息子に寝取られビデオを見せることを楽しみにしているようだ。
この親子歪み過ぎだよ。
結果。
「そんな。ドリアが親父の手籠めになってる……ああ、もうおしまいだ~」
メンタルをぶっ壊された王子はオーガの王子を辞任し、領を出て行った。
その結果、王オーガが王位に返り咲くことになったのであった。
「今回の件。わしはお前達に感謝する」
「いえいえ……」
「わしらオーガは貴殿らの交渉に全面的に応じ、また貴殿らの今後の交渉に全力で支援することを誓おう。よろしく頼むぞ、同好の士よ」
「えっ、あっ、はい……」
僕の性癖はそこまで歪んでいないんだけどな……
こうしてオーガとの交渉を終えた僕達は、オーガとドリアードの二種族間の協定を結んだ。
中層での交渉は順調な滑り出しであった。
ギルドに進捗を報告した僕達はその功績を認められて一か月の休暇を貰うことができたのであった。
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