アゼリアの匂い

ユキアネサ

アゼリアの匂い①


「やっぱり無駄死にだよ! 俺はあんな人生は嫌だね」

 部屋に来るなりサリエルはどら声で言った。


サテン生地の衣の上に革の袖なし胴着を身に着け、その豊満な髪は背中までかかっていた。白く、長い髪はいくつもの束に分かれて、まるでヴェールのように体にかかっていた。


 窓から差し込む月明りを受けて、天上の赤い鉛ガラスのランタンも、木製のベットも、ウールの絨毯も青白かった。


 窓のすぐそばに小さな架台テーブルがあり、その上には紙のアゼリアがあった。まるでサリエルとベルロンドを分かつように。


 ベルロンドはゆったりしたウールのチュニックに身を包んでいた。くっきりした顔の輪郭、鋭い目つき。その目は窓の外に向いており、片目にかかった真っ黒な前髪と退屈そうなため息が相まってどこか神秘的だった。


「お前も残酷だよなあ、知人が死んだっていうのに……。それにさっき怒られてたじゃないか。全然反省してないんだな」


 サリエルはいつから変わってしまったんだろう、と思ったが、夜空の月に見とれてその思考は流された――

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