第5話

 ARゲームが市民権を得るまでには、かなりの時間を要すると思われていた。それこそ、10年規模――それを瞬時で行ったとも言うべき事件があったのである。ネット上では『超有名アイドル計画』とも呼ばれていた――暗黒の3日間。しかし、ネット上では最初から暗黒の3日間と言う物はなかったという意見が存在するのも事実である。


【あの事件自体が、芸能事務所側の作り話】


【ARゲームがネット炎上するように仕組んでいる陰謀論が高い】


【芸能事務所は、世界中にあるコンテンツを我がものに独占しようとしている。それこそ、特定芸能事務所が即座に権利侵害を――】


【便乗ビジネスは他の国でも多く行われている以上、芸能事務所側はありとあらゆるものの特許を得て独占しようとしているのは明らかだ】


【それこそ、アカシックレコードと言う禁断の存在さえも――】


 他にも意見は存在するのだが、その半数以上が芸能事務所に対する批判だけであり――それこそ便乗して目立とうと言う人間であるのは明らかだろう。本当の意味で、この事件に向き合おうと言う人物はいないのか――。



 そもそも、ARゲームがそう呼ばれる前は古代ARデュエルと呼ばれていたらしい。歴史の教科書にも記されている事から、この世界では戦(いくさ)をARゲームで行っていたと言う証拠にもなっている。だが、待って欲しい。戦国時代や江戸時代、昭和初期と言った時代にコンピュータという物は発明されていないのだ。それなのにARゲームが存在する訳が――と誰もが思うだろう。しかし、魔法や妖術、陰陽道等によって妖怪などを使役していたとしたら――。


 そうした歴史を芸能事務所が何らかの形で触れたことで、ARゲームを危険視して存在を抹消しようとした。確かに古代ARデュエルは第12次大戦まで実際に行われていた事も教科書には書いてある。その後、第12次大戦の終結と同時に命を賭けたデスゲームは禁止する事が条約に盛り込まれた。


 歴史認識を歪めた事によるネット炎上は今に始まった事ではないが――これは特定芸能事務所のAとBだけが主導で行った事が、最大の原因となった。その後、それに反旗を翻した勢力が超有名アイドルに対して抵抗、最終的には超有名アイドル側の全面敗北となった。これが暗黒の3日間の全てであるが――これに関してだけは芸能事務所や政府にとっても黒歴史とも言われており、該当する情報は一切開示されていない。


 このような事件が本当にあったのか、そもそも事件自体が芸能事務所の宣伝活動やマスコミを悪用したマインドコントロールなどとネット上でも言われていた。次第に、超有名アイドルによる――。


「結局、まとめサイトでは調べられるような情報は存在しない――のかもしれない」


 こうした意見や記述が芸能事務所の宣伝行為――その一言で片付けようとしている。それこそがあの3日間を生み出すきっかけになったとも言及していた。ビスマルクも、この件に関しては色々と調べている人物の一人である。



 古代ARゲームはWEB小説を元にして捏造した話である――ともネット上では言及する人間がいる。


「何処までが真実なのか――ソースを調べようとしないで、まとめサイトを見ただけで知ったかぶりをする。それがネット炎上を生み出すとも知らないで」


 あの動画を作った経緯も、こうした事件を起こすべきではないという警告をする為とも言えるかもしれないが――そうした目的がネット上では歪められるのは、よくある事。ビスマルクが懸念しているのは、もっと別の事である。超有名アイドルがありとあらゆるものを独占し、その後に何を起こそうとしているのか――。


「考え付く事が容易に想像できてしまう。それこそ、単純明快な程に」


 彼女が手にしていた1枚のカード、そのテキストは単純すぎる程に短い物だった。


【このカードを使用した際、フィールドのモンスターカードを破壊する】


 誰が見ても強いと明らかに思うカード――説明が長くなく、その強さも非常に分かりやすい。超有名アイドルが起こそうとしている事案は、それ位に説明が必要がない単純な物、となっては非常に困るのだ。コンテンツの支配と言えば、紆余曲折があっても分かる人間には分かるだろう。しかし、世界征服と説明すれば――。



 4月10日午前9時30分、ある人物がノートパソコンで閲覧しようとしたのはアカシックレコードのレベル5を超えるセキュリティコード。


「結局、この先の閲覧はかなわないか」


 彼女はタブレット端末を片手にコンビニの無線LANスポットでコーヒーを飲む。身長180センチと言う長身だが、肩まで伸びる黒髪のロングヘアーにメガネ――。それでも彼女に接近しようと言う人間は少ない。いたとしても、隣の席でコーヒーを視線を向ける事無く飲んでいるサラリーマンのようにスルースキルがなければ、難しいだろうか。


「セキュリティレベル5――それはARゲームの存在にも関わる極秘情報と言う事」


 彼女に関しては口に出して物を言う様なタイプには見えない。この場で大声を出したら出入り禁止になるのは明白だが。結局、ネット上でセキュリティコードレベル5を開こうと言う事自体が無茶だったと自覚し、コーヒーを飲み終わった辺りで店の外へ出る。


「ARゲームのイースポーツ化は加速する――か」


 午前10時ごろからイースポーツルールが実装されるARゲームも何種類か出てくるだろう。その中で、自分がプレイ出来そうなARゲームを探すも――アンテナショップへ行かないと答えは出ない気配もする。


「まずは初心者向けでも探しますか」


 彼女の名は明石零(あかし・ぜろ)、自分にもプレイ出来そうなARゲームを探す為に谷塚駅のアンテナショップへと向かう事にした。



 同刻、同じアカシックレコードを扱ったサイトへアクセスし、レベル5を容易に閲覧している人物もいた。彼女の使用しているのはタブレット端末なのだが、アンテナショップの市販タイプではなく、カスタマイズ型である。


「意図的な記述変更は――見られないか」


 身長165センチに黒髪のセミロング、前髪も若干整えられていた。その一方で、若干メカクレな気配もするが。彼女の名は飛龍丸(ひりゅうまる)と言い、過去に超有名アイドル事変を救ったランカーとも言われている一人だ。今の彼女はARゲームのルールを教える側の人間をしているが、それ以外にもガーディアンのメンバーでもある。


「芸能事務所は――同じ事を繰り返して、何が楽しいのか」


 飛龍丸は感情を表に出す事はないのだが、この言葉には何か重みがあった。過去に同じような世界を何度も巡ったかのような――そんな表情さえも感じる。


「結局、芸能事務所側はヒーロー番組のシリーズ物の様に、同じ事を繰り返すしか能がないのか」


 タブレット端末を拳を握って殴りたくなる衝動、それが彼女にはあった。しかし、物に八つ当たりをしたとして状況が変わるのかと言われると、その答えはNOである。ネットでストレス解消の為に別コンテンツを叩くような発言をし、ネット炎上をするような勢力と、さほど変わらないだろう。


「ARゲームを変える為には、やはり――」


 飛龍丸の考えた結論、それは別の人物と同じ答えに至ることとなる。

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