第3話 ストレス解消は配信することだ。

 自室に行きHEROXを起動する。

 配信開始の9時まで時間があるので、その間にマイクなどの配信機材のチェックを行う。

 通話アプリ『Discording』のサーバー内に参加した。

 このDiscording、凄く便利でたまに学校内で鈴葉と話す時にも使っているほど。

 通話ではノイズキャンセルという機能があり、高音やノイズ音、生活音など範囲は限られているが余計な音を消してくれる機能があり、話をするときもメンション機能は勿論、相手が何かを入力している時は『入力中……』と出たり、相手がDiscordingを起動しているかしていないか、相手がなんのゲームをしているかが分かり、使い勝手が良い。


 サーバー内に入るとすでに鈴葉が待機していて「また遅い」と怒られてしまった。

 配信開始時間の9時になったので俺は配信を開始した。

 

 「こんちゃ~」

 「こんちゃっす!」

 「おお、凄いテンション」


 配信開始と同時に沢山の人が集まり、現在同時接続数は800人を超えていた。

 鈴葉の方はどれくらいの人がいるのか分からないが、おそらく1000人程度。

 

 「よっしゃ、今日はストレス溜まったから全員ブチってやるぜぇ!」

 「今日は強気やな」

 「あったりめぇよ!イラついたりストレス溜まったら吐き出さなきゃ、やってられねんだよぉ!」


 尋常じゃない鈴葉のテンションにコメント欄はざわついていた。


 【おほっ、今日はいつにもまして激しいねぇ!】

 【兄貴、お前何かやったんか?】

 【これがリアルの妹w、めちゃくちゃおもろいわw】


 「俺は何もやってねぇ、詳しく知りたいなら本人に聞け」

 

 【視聴者に対して辛辣だねぇ、これがシスコンの兄か】

 

 「なんでやぁ!シスコンちゃうわぁ!」


 視聴者のコメントに反応しつつ、マッチを開始する。

 なんかプロゲーマーの人とかは、ランクマッチ開始前にエイムを温めるらしいのだが。

 そんな概念、俺達には通用しない。

 エイム練習などせずに最初からランクマッチに突する。

 因みに俺はキーボードとマウスで操作していて、鈴葉はコントローラーだ。

 一部の界隈では親指だのなんだの言われているらしいが、楽しければ良いじゃないか。

 

 コントローラーはキーマウに比べてキャラコンが劣る、その点だけではないが他にもキーマウと比べて劣っている点を補うために、エイムアシストというものが存在する。

 エイムアシストとは、簡単に言うと相手に弾が当たりやすくなるというもの。

 鈴葉も最初はキーマウでやっていたが、操作が難しいとのことでコントローラーに移行した。

 俺はキーボードの操作には慣れといたほうが将来的にも良いかと思いキーマウでやっている。


 試合が始まり、キャラクター選択画面に来た。

 俺が選んだのは『フォン』という風を操るキャラクター、そして鈴葉が選んだのは『フライトル』というキャラクター。

 俺が選んだ『フォン』と鈴葉の選んだ『フライトル』はプロの人がよく使うキャラクターだ。

 

 どちらも強く、特に『フライトル』はHEROX全体の使用率一位のキャラクターだ。

 このフライトルというキャラクターはとにかく戦線離脱が簡単に出来てしまう。

 アビリティ『フライトワールド』によって自信を中心に味方二人を左右に装着し、上空に飛び上がる事が出来る。

 このアビリティによって、不利対面でも簡単に移動が出来てしまい、一瞬で有利ポジションや高所を取れる。

 

 そして俺の使っているフォンも、フライトル程ではないがスキルで竜巻を起こし高所を取れたり、味方も浮かせることが出来るので味方ですら高所を簡単に取れてしまう。

 それにアビリティの『タイフーン』は、範囲は限られているが指定した場所にダメージ判定のある台風を発生させ、その台風の付近にいると勝手にキャラクターが引き寄せられる。

 それを利用し、グレネードなどの投げ物と台風のダメージを利用して敵をダウンさせるという戦法が強い。


 野良の方が選んだのは『エリエスト』というキャラクターで、スキルの『スキャン』を使い周りに敵やトラップがないかを調べられるキャラだ。

 この地味そうなスキルがかなり重要で、エリストスがいるかいないかだけで試合状況が変わるなんてことも多々ある。


 選択画面が終わり、試合が開始した。

 通常、ランクマッチでは敵が少ない所に降り、順位を伸ばして最終局面でキルポイントを取るというのが一般的な立ち回りだ。

 しかし、俺らの場合は違う。


 「おりゃー!全員ヤってやるぜぇ!」

 「今日も勢い良いな」


 HEROXではダイア以上のランクになるとバトルシップから降りる際に特別な軌道を付ける事が出来る。

 エクシャスは赤、マスターは緑、ダイアは青と分かれており、降りようよしている町に赤い軌道が見えたらエクシャスの人がいるという事になり、大体のプレイヤーはその町を避ける。

 だが鈴葉は常に自分より強い人を求めているのか、赤い軌道が見えた瞬間そのパーティに被せる。

 

 今回も赤い軌道が見えた瞬間、鈴葉がバトルシップから降りて元エクシャスのパーティに被せている。

 他の場所と比べて、物資が薄い町に降りた。

 俺は運良く、エクシャスの人とは被らずに家を一軒取る事が出来た。

 しかし、鈴葉はエクシャス二人に被せられたようだ。

 野良の人も少し奥の方を漁っているため、カバーが出来るのは俺だけ。

 

 アサルトライフルを拾い、俺は鈴葉の元へ向かっていたが。


 「ほい、ほい!はいー、二人やったぜぇ」

 

 初動最強のショットガンを拾い、鈴葉は被った二人の敵を一瞬で倒した。


 【妹最強だろ】

 【兄の出番無しw】

 【あと一人残ってる、エクシャスだから油断できないな】


 コメント欄は鈴葉のプレイによってざわつきを見せる。


 野良のエリストスがスキャンをしてくれて、残りの一人を見つけた。

 家の中にいるのが見えたので、俺と鈴葉二人で家の中にグレネードを入れた後、家の中に突った。

 鈴葉のショットガンで体力を削り、俺がアサルトライフルで止めを刺した。


 「ナイス、お兄ちゃん」

 「良くやった、我が妹よ」

 「ったりめぇよぉ!私とお兄ちゃんに掛かれば敵なしだからね!」

 「ふっ、そうだな」


 【何だこれ、これが兄妹愛?】

 【てぇてぇなあ】

 【俺もこんな妹欲しかったわ】


 コメントを確認しつつ、プレイに集中する。

 結局、この試合は最終局面で鈴葉と俺のAIMが沼ってしまい3位で終わった。

 もらえたポイントは100ポイント。

 マスターまであと少しだ。


 「今日はマスターまでやるか」

 「私とお兄ちゃんにかかれば、一瞬だね」

 「そうだな、一カ月でこのゲームもマスターか。次は何に手を出そうか」

 「迷うねー、あ、始まった!」


 そしてこの試合も、3位と中々の成績で100ポイントほど稼いだ。

 マスターまであと100ポイントを切り、昇格戦となりそうなこの試合。

 エクシャスサーバーに俺たちは入れられた。

 人数が少ない時やダイア帯で何か問題があった時、たまにだがエクシャスとマスターの人しかいないサーバーに飛ばされる。

 味方の人はエクシャス200位で、かなりの腕前だ。

 

 野良の人はエリストス、俺はフォン、鈴葉はフライトルというかなり良い構成だ。


 【エクシャス帯か……】

 【エクシャス帯でも絶対、突しまくるだろw】

 【この二人の腕前がどこまで通用するんだろうか】

 【エクシャス200位!?】


 「ふっ、腕が鳴るぜ」

 「だな。俺たちでどこまで行けるんだろうな」

 「そりゃもう、一位よ一位!」

 「本気でやるか」

 「おうよ」


 俺は肩にかけていたヘッドホンを装着した。

 鈴葉も何かしているのか反応が無くなった。

 エクシャスの人がどれくらいなのか、見ものだな。

 俺はマウスを握り、バトルマスターの権利を鈴葉に渡した。

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