第40話 元帥と狼王、そしで僕達の切り札たち。

 ぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぃん!!!


 大気中に鋭く金属同士がぶつかり合う音が響き渡る。

 ゲメルメノアが放つ狼鎖剣をアラフアが剣で弾いた時の音。


 ――堅い。


 何度かの攻めにも崩れずに守り通された。

 その高い技術に裏打ちされた剣捌きに、ゲネルメノアは敵ながら賞賛の念を持つ。

 人の身、それも女性でありながら、半生を戦に捧げてきた自分と伍するのだ。練り上げられた技術の研鑽を目の当たりにして感嘆を禁じ得ない。


 炎に囲まれた街壁の上。

 片や汗まみれのゲネルメノア、片や涼しい顔をしたアラフア。

 この戦場に誘ったのは敵方、何らかの仕掛けがあるのだろう。

 現在ゲネルメノアは部下達と分断され、彼の王を追わなくてはならない立場に追い込まれており、故に早急に場を制さなくてはならない。

 つまり無理にでも仕掛けざるを得ず、これもまた敵の策略であることはその堅牢な守りの剣捌きから見ても明らかだ。


 そのような場を作る準備をして実行してのけたことも含めて、ゲネルメノアは敵の手腕を認めざるを得ないのだ。


「良い腕だな――人族にしては惜しいほどだ」


 ゲネルメノアが人族を褒めたのは生涯でも初めての事ではなかろうか。


「賞賛の言葉、痛み入る。

 しかし、人族をそう舐めないでくれないか。

 貴殿とこうして戦えるのも、私一人の力では到底なし得なかったことだから」


 涼しい顔で答えるアラフア。

 ゲネルメノアは続ける。


「貴殿のお陰もあって、私も余裕のない身でな。悪いが、もう腕試しは終わりだ。多少の犠牲を甘受してでも通してもらおう。

 だが先に聞いておくが、今なら見逃してやるが、退く気はないか。

 その腕、その胆力だけでなく、その容姿も人に秀でているのだから、あたら若き命を散らすこともなかろう。貴殿なら良き伴侶などいくらでも見つかるはずだ」

「そのお言葉はありがたく、そして何とも恥ずかしいな。

 しかし私はどうも伴侶選びが苦手でな、この戦に勝ちでもしないとこれと思う相手が見つからないのさ」

「それはまた、情けない男ばかりなのだな、このユーハイツィアという国は。

 貴殿が狼人族であれば、是非にと息子の相手に迎えたいほどだ」

「それは惜しいことをしたな。

 だが、まだ見ぬ婿殿候補もまた幻、返答はこの剣を持って返そう」

「そこの小さき娘も道連れにして良いのか?

 機敏で悪くない動きだが、どうしたって私に娘の刃は通らぬ」

「大きなお世話です! 私は死んでもアラフア様のお傍を離れるつもりなどありませんよ! これっぽっちも! 刃が通らないかどうか、見ていらっしゃいな!」


 ゲネルメノアとアラフアによる決着前の軽口の応酬は、最後にパルテの憤慨した声によって締められた。

 こんな場ではあるが、少し愉快な気持ちだった。

 こんな思いはいつ以来だったか? 私を滅して王に仕えてきた身、このような愉快は久しくなかった。

 ――彼女に感謝を。


 すぃ、と空気が引き締まる。

 炎に囲まれ熱せられているにも関わらず、場の空気は温度が一気にさがったかのよう。

 アラフアは自然体に構え、斜め左後ろでパルテが両手にナイフを逆手に持ち控える。

 ゲネルメノアは上体をやや屈めて膝を曲げ撥条バネを溜めて――


 たんっ


 軽やかな足音を後ろに残して、一気にアラフアとの距離を詰める!

 ここまで狼鎖剣で中長距離からの多彩な連続攻撃を見せて来たが、ここに来て一気に接近戦、それも高速の超接近戦を挑む。

 僅かに反応が遅れたアラフアの剣を左の籠手で受け流し、右の狼爪を立ててアラフアの右脇腹をえぐり――


「させませんよっ!」


 甲高いパルテの声が響き、ナイフを構えて体ごと割って入る。

 ぶしゅ、と狼爪が食い込んだ二の腕から血が噴き出し顔を顰めるが、それでも体全体を使い致命傷を負わずに右手の攻撃を受け切った。

 この娘、技術と体は未熟でも、その強い心で主を護るとは、凄まじいまでの忠誠。思わず感心してしまう。


「これで終わりと思わないで下さいよっ!」


 そう言い様に、やおら腰に付けた黒い玉をゲネルメノアの目前に放り上げ――自爆か!?

 瞬間顔を青ざめるゲネルメノア、頭をよぎるのは自身の主たるメイリスカラク王を追って護らねばという想い。


 凄まじい轟音が響く。

 目の前が白くなる。

 ――これは、やられたか!


 夢中でバックステップし距離を取る。

 しかし狭い街壁の上、すぐに胸壁に背が当たる。

 自分は今どうなっているのか? 無事な部位はあるか? 敵はどこだ?

 衝撃のため思考が乱れる。

 だが次の瞬間、両腕は動きそうなこと、また足もまだ動くことを感じた。


 ならば、この身はどうなろうとも。


 ゲネルメノアは躊躇なく胸壁から身を躍らせた。

 街壁はおよそ六から七メドルメートルくらい。

 自分ならば、何とか受け身を取れば死ぬまい。

 下には大狼が控える、あとは何とかなる。

 痺れる五感を抱えて、ゲネルメノアは逃走に移った。


 それを壁上から眺めるアラフアとパルテ。


「あのタイミングで、爆音球を受けてなお逃走できるとは、本当に恐れ入るな」


 大狼に乗り走り去るゲネルメノア元帥と、炎の障壁に阻まれていた部下たる親衛隊員が追う様を、アラフアは呆れる思いで眺めた。


「悔しいですよ! あの無礼者ココロの真似という屈辱を耐えて、アウスレータ戦で使ったとかいう音の球をあのタイミングで使ったのに、それで逃げられるなんて!

 耳だけでなく、他の感覚も痺れていたはずなのに! あの無礼者ココロは成功させたのに!!」


 隣ではパルテが地団太を踏んでいる。

 その様子を微笑みながら見ているアラフア。


「まあ、アウスレータ相手とは役者が違う、やむを得ないさ。それより、傷は大丈夫か?まずは手当てだ」


 恐縮して逃げようとするパルテの襟首をふん捕まえて、手際よく腕の傷の応急措置をする。

 立ち上がり、強兵の向こう側を眺めやりながら、語るともなく呟く。


「炎で囲み熱で責めて体力と集中力を消耗させ、かつ焦りを生む状況を作り出してなお私は攻めに転じることができなかった。

 私達は熱吸収の晶石を使って熱から護られていたのにな」


 既にその姿が小さくなっているゲネルメノア元帥を遠く眺めやる。

 それに少し遅れて追う親衛隊員。


「あの様子ならば、すぐに戦に参加することはできないと思うが、なんとか私の役目は果たせただろうか?」


 アラフアは表情を改め、物憂げな表情でココロ達が戦っているであろう方向を眺め続けた。


***


 数条の銀光が煌めき、金色の影と黒色の影が交差する。

 影が飛び違った後に蒼く小さな球が置かれ、やがて地面で青白い半球体に膨れ上がる。その球体から飛び出すように、大きな灰色の影が走り、それを追うように緋色の小さな球が放たれた。


 目まぐるしく繰り広げられる攻防の応酬。

 ベルツィアさんに乗るアウスレータが鋭く重く狼鎖剣の連撃を繰り出したかと思うと、リオイナさんに乗るラキアが死角に回り神速の多段撃を急所目掛け繰り出す。

 その息をつかせぬ攻撃の合間を縫うように、リオイナさんとベルツィアさんが、それぞれ蒼球と緋球を吐き出しメイリスカラクを襲う。


 アウスレータもラキアも、先に親衛隊と逃走しながらも交戦した際は、互角に立ち回ることができていた。おそらく、二人とも親衛隊員と比較しても引けを取らない強さを持つ。

 それにアルディナにより強化されたベルツィアさんとリオイナさんの力が加われることで、親衛隊数名にも匹敵する強さを得ている、と信じられる。


 現に先ほどから狼王メイリスカラクも逃げてばかりで反撃もしていないではないか?

 これは期待を持って良いのではないだろうか――


『ガァン!!』


 先行きに光明が見えて来たと感じた矢先に凄まじい音が響き渡り、ほぼ同時に攻撃を弾かれたアウスレータとラキアが体勢を立て直して距離を取った。

 追い詰められてたかに見えたメイリスカラクは、その騎乗する魔狼アゼルピーナまたがり悠然と周囲を見渡す。

 その様は、正に王者が周囲を黙らせて睥睨へいげいする姿そのもの。


「いい筋はしているが――いずれも若いな。戦の経験が不足しているのか?

 才能だけで戦っているように見えるぞ」


 悠然と騎乗しているかに見えたその姿が次の瞬間に霞み、太く鈍い銀光が伸びた。

 その先に居るのはアウスレータ、攻撃に移ろうと振りかぶったその瞬間を狙われ、辛くもって回避する。

 その様子を見たラキアとリオイナは電光石火の反射で飛び退きながら狼鎖剣を撃つが、その籠手で軽く軌道を逸らされてしまう。


 ――技巧でも、反射速度でも負けている!?


 軽く愕然とする。

 力強さと巧みな技術を高いレベルで併せ持つアウスレータと、狼人から見ても類稀な敏捷性と反射速度、そしてリズム感を持つラキア。

 この二人に技術と反射で勝つ……となると、一体、何をどうすれば勝てるのか!?


 その隙の無い武力に戸惑っていると、メイリスカラクは自らの狼鎖大剣を振りかざした。

 メイリスカラクの持つ狼鎖剣は、その大きさと重量から、畏敬を込めて狼鎖大剣と呼ばれるとかアウスレータから聞いた。その破壊力は通常の狼鎖剣と比較にならぬほど強く、それを狼王メイリスカラクは軽々と使い回し、そしてその投擲の精妙さは狙撃自慢の射手をも黙らせるとか。


 その、メイリスカラクの大剣が今、アウスレータとラキアに牙を剥いた。


 だぁん!! だぁん!! だぁん!!


 凄まじい音を響かせて、狼鎖大剣が縦横無尽に飛び交う。

 地面に当たれば地をえぐり、樹木に当たれば倒壊させる。

 投擲すればその剣身は目に移らぬ速度で敵に迫り、それを避け気が付けば籠手に戻されている。


 ――遊ばれている。


 メイリスカラクの表情を見ると、生き生きとしながら狼鎖大剣を振り回している。

 それと対照的に、完全に表情から余裕が失われているアウスレータとラキア。

 勝負の行く末を暗示、というかもはや明示しているのか、これは?


 くそっ、こうなったら捨て身でもなんでも、僕も参戦して――


「くそっ、完全にやられているじゃあないか!

 ベルツィアとリオイナが一緒に戦っていながら、それほどに差があるというのか!? あの化け物は一体なんなのだ!!」

「アルディナ……」


 五百体のアゼルピーナに、ベルツィアとリオイナに。

 デブラルーマの力を与え続けたアルディナはかなり消耗しているらしく、顔色も青ざめている。にも拘わらず、気丈に振る舞っている。

 まだ幼いのに、強い心を持っているのだ。


「アルディナ、僕も戦ってきます。

 だから、待っていてください」

「ココロさん! 私達に参戦を止めて置いてご自分だけ抜け駆けは駄目です!

 私も一緒に参ります!」

「そうですよぉ、ココロさぁん。負けたら同じです、一緒に行きますよ?」


 いつの間に来たのか、ヒィズさんとイリカさん。

 いつまでたっても、この二人は側に居てくれる。

 感謝してもし足りない。


「おやおや。俺らには子供のお守を押し付けて置いて、それはないんじゃないか?」

「そうだぜ、戦場ならお前らよりは俺達の方が役に立つ、すっこんでな」


 グネァレンさんとアロトザがオリアを連れて近づいてくる。


「このオリアって子の面倒を見ろとか言っておいて、お前だけズルいってもんだぞ?

 オリアって子はお前に託す、俺たちが行くぞ」


 宣言するように言い切るグネァレンさん。

 確かにそれはそうなのだけど、とは言え……


「お前達が行ったところで、何も変わらん。

 それこそ引っ込んでいろ」


 尊大に言い放つアルディナ。

 顔を顰めるグネァレンさん、ピクリと青筋を立てるアロトザ。

 そんな二人には構わず、アルディナは戦場に向かい歩き出す。


「半端な力など役には立たん、ボクが力を振り絞るしかないだろう!」


 アルディナ、君、足元がふらついているんだよ?

 そう言って手を出しかけた僕は、しかし彼の言っている言葉の正しさに手を出しかねてしまう。

 確かにアルディナの言う通り、だけど彼の身体は持つのか――でも負けたら連れ去られる訳だし――ええい!


「グネァレンさん、アロトザ、アルディナを護ってください!

 彼が力を放出し始めたら、メイリスカラク王に狙われる可能性があります!」


 はっとして駆けだすグネァレンさんとアロトザ。

 その向こうでは青白い光を纏い、苦し気に顔を歪めるアルディナ。

 そして更に遠く向こうでは、こちらに気づいてニヤリと笑う狼王メイリスカラク――


「お前、何やってんだ!」

「馬鹿っ!!」 


 アウスレータとラキアの罵声が耳に届く。

 それとほぼ時を同じくしてメイリスカラクが迫る。

 今までにない凄まじい速度。

 両の腕に装填された狼鎖大剣を振りかざすその様が、やけに遅く感じられる。

 その先に居るアルディナは懸命に力を振り絞り、その青白い光柱が力強さを増す。


「あああああぁぁぁぁぁ!!!!」


 突然、戦場に響き渡る甲高い声。

 オリアを庇っていたはずの僕は弾き飛ばされ、ヒィズさんに受け止められた。

 その僕の目の前でオリアは赤く白い、強く光る柱を立てていた。


 アルディナの青い光とオリアの赤い光。

 その二つが交じり合い、弾け合って、空中にきらめく光が散布された。

 美しい光の舞。

 こんな場でありながら、僕らは一様にその美しさに目を奪われる。


 途中まで剣を振りかざした狼王メイリスカラクは目に見えてその動きを鈍くし、彼が騎乗する魔狼アゼルピーナは畏敬する何かに恭順するように伏せて動かなくなった。


 強く、強く、強く。

 アルディナとオリアを取り巻く光はその強度を増し、ベルツィアさんとリオイナさんもまた光輝いた。


 たんっ!


 軽やかであり、しかし力強い音で地を蹴り、アウスレータを乗せたベルツィアさんがメイリスカラクに迫る。

 鋭く突き出した狼鎖剣。

 アウスレータの一撃を辛くも弾くメイリスカラク。


 やや体勢を崩すメイリスカラクの頭上、跳び上がり様に狼鎖剣を撃ち下ろすラキア。その素早く鋭い、延髄を狙った一撃は、僅かに体を傾いで鎧に当てさせることで回避する。


『うおおおおぉぉぉおぉおぉ!!!!!』


 メイリスカラクが咆哮する。


 相棒たる魔狼アゼルピーナが戦意を喪失しても。

 敵が息を吹き返し、一人でたたずむ自分の周囲を取り囲んだとしても。

 戦場に強力な敵の光が満ちたとしても。


 それでも、メイリスカラクは怯まない。

 決して彼の心の内からくじけたりはしない。

 彼は狼人最強と謳われる戦士にして狼王たるメイリスカラクなのだから!


 その身から湯気を立ち上らせ、眼光鋭く屹立する。

 決して、敵対者が前に立つことを許さない。その気概と共に。

 彼の前に立ち塞がる全てを破壊するために。


 メイリスカラクは、決して膝を折らないのだ。


「ぬぅん!!」


 メイリスカラクは、その大剣と呼ばれる剣を風車のように振り回す。

 大剣の重量の乗った旋風は、凄まじい威力を持って敵を切り裂こうとする。

 アルディナとオリアを護ろうとしたグネァレンさんとアロトザを吹き飛ばし、彼らの持つ武器狼鎖剣を打ち砕く。

 そのまま狼鎖大剣は空を切り裂き、屹立する二柱の光を打ち付けた。


 ばぁん、と大きな音を響かせて光の柱が揺らめく。

 その一撃で光の胞子のようなものが飛び散り、見た目で分かるほどに柱が細くなる。


 それを見たメイリスカラクは、にぃとその顔を歪めた。

 あれは削れる。

 己の力が及ぶ内に破壊してのけることが出来る。

 メイリスカラクは確信した。


 再び打ち付けるために狼鎖大剣を振り回し始める。

 その竜巻の如き強力な剣筋は、力が増したはずのベルツィアとリオイナをして、進むべき道を見出させない。


 このまま押し切られるのか?


 光の柱の中で、一歩届かぬ現状を悔しがるアルディナ。

 その右手に、柔らかい暖かさ。


 振り向くと、今にも泣きそうに目を潤ませたオリアがそこにいた。

 オリアはその小さな両の手でアルディナの右手をしかと握る。

 青と赤と白が交じり合った光は柱を融合させ、柱に暴力を打ち付ける狼王から更なる猶予を作り出す。


 オリア。弱いオリア。泣きそうなオリア。

 ボクの分身。ボクの大切な存在。

 負けてはならない。

 あんな奴に負けたら駄目だ。


 アルディナは、尽きかけた力を身体の底から振り絞った。

 オリアはアルディナに持てる力の全てを捧げた。


 ――そして、光の柱は完成した。


「おおおおおっ!?」


 急激に力を増した光の柱、それに圧され後ずさるメイリスカラク。

 

「これは!?」


 光の柱から迸る力、それがベルツィアとリオイナに注がれるのが感じられた。

 そしてそれに留まらず、騎乗するアウスレータとラキアの身体が光の靄を纏う。


 力が。今まで感じたことがない力が湧いてくる。

 ラキアは。アウスレータは。その力を今、全身で感じていた。


 ラキアの髪から光が漏れる。

 灰白色の髪がひび割れ、銀色に輝き出した。

 白銀色の光を纏うラキア。

 金色に輝くリオイナに跨り、白銀色に輝くラキアは、その力が迸るままに敵たるメイリスカラク目掛け走り出す。

 隣には深く昏い蒼い光を纏うベルツィアとアウスレータが、同じく駆けていた。


 ぎいいいいぃぃぃん!!


 鉄と鉄を撃ち合う凄まじいまでの響きで空間を満たす。

 光にされた力は、メイリスカラクの持つ鋼を断ち切った!


 光の柱が力を失い消失する。

 アルディナとオリアは力を使い果たしたのか、手をつないだまま力なく地面に座り込んだ。


 そして僕は、武器を失い胸を十字に切り裂かれ血を流して膝をつく狼王と、力を使い果たして地面に倒れ伏すラキアとアウスレータに向かい駆け寄った。


「ヒィズさん、イリカさん!

 アルディナとオリアをお願いします!」


 今なら! 今なら!

 卑怯者と言われてもいい、今なら狼王メイリスカラクに届くかも知れない!


 僕と、少し遅れてグネァレンさんとアロトザ、トルベツィアさん達狼人工房兵団が駆け寄る。

 その標的であるメイリスカラクは、意識を取り戻した魔狼アゼルピーナにより奪われた。一歩遅かった僕らは、その背に乗せられ、矢のように逃走して行くのを見送ることしかできなかったのだった。

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