赤花、天にさく
蘇芳
1 少女と大木
小高い丘にある大木の陰に少女が座っている。
少女はスケッチブックに迷いなく絵を描いている。小高い丘からの景色は美しく、写生には絶好だ。だが、彼女がいつも描いていたのは同じ人間だった。
彼女は絵を描き終えると大木を見上げる。
「うまく描けたでしょう?」
大木にスケッチブックを掲げる。そこには銀色の髪を上に結んだ端正な青年の絵があった。
彼女は一人ぼっちだった。いつも一人でここに来て、絵を描き、帰る。描くのは決まって、銀髪の青年の絵だった。笑っている顔、怒っている顔、泣いている顔
様々だったが、いつも同じ人間だった。
彼女はスケッチブックを閉じるとため息をついた。
彼女は罪人の娘だ。両親は王族が住む城の建設に携わっており、優秀な人達だった。だがある日、城の設計図を持ち出そうとした。間一髪で流出は防げ、未遂に済んだものの、重罪だとみなされ、両親は処刑された。残された娘の彼女は子供だったこともあり、辺境に飛ばすことで事件は終わった。
彼女はそれから六年間、辺境の小屋に一人で暮らしている。たまに食料を置きに兵士がやってくるが、兵士は食料を置くと逃げるように去っていくので、実質孤独だった。
初めてここに来た時のように、訳が分からず泣くことはなくなった。
だが、孤独による寂しさはずっと付きまとっていた。彼女はその寂しさをぬぐうために、同じ人物の絵を描き続けていた。
いつか、この人物が、否、誰かが迎えに来てくれることを願って。
この日、彼女はなかなか小屋に帰らなかった。
日が沈み、闇が覆っても、雨がぽつりと降っても、彼女は帰らなかった。
彼女スケッチブックを両腕に抱え、膝に顔を埋める。微かに嗚咽が聞こえた。
雨が徐々に強まる。
このままでは彼女が濡れてしまうと、大木は枝を伸ばし、彼女に雨がかからないようにした。
それしか、できなかったから。
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