第29話露店マーケット

巨大露店マーケットのほんの一画。


理久とクロは、手を繋いだままそこの騒ぎの方へ行く。


「何かありましたか?」


理久が、同じように集まってきていた中の一人の猫獣人のお爺さんに尋ねた。


「どうも、肩が当たったとか当たらなかったとかで、可哀想に、1人を5人で取り囲んで、土下座しろだの金を出せだの言っとる…助けようとした通りがかりの別の男もいたがあいつらにかなわなくて逃げてしもうた」


理久が、そう言った老人の視線の先を見ると…


確かに、露店と露店の間の広い通路に1人のウサギ獣人青年がヘタリ込みながら

、地面で手探りで何かを探していた。


そしてその周りを、5人のガラの悪い男の犬獣人達が取り囲み、罵声を浴びせたりゲラゲラ笑い声を上げて見ている。


よく見るとヘタリこんだ青年は、どうもぶつかって飛んだメガネを探しているらしく…


それを、ガラの悪い獣人の1人が右足のかかとだけ地面に着け、今にも踏み割ろうとしていた。


理久は我慢出来なくなり、そのメガネから先に奪い返えそうとクロの手を離し動こうとした。


だが…


「理久…」


クロがその理久の腕を持ち止めると…


近くに来ていた私服の沢山の護衛兵にも待ての合図を送り、サッと、大きな体なのに疾風のように横から消え…


次の瞬間、クロは、メガネを踏み割ろうとしていた男を殴り飛ばして、メガネをその手にして奪い返していた。


「クロ…」


余りの早業に一瞬呆然としたが理久はすぐ、青年の元に駆け寄り声を掛けた。


「大丈夫ですか?」


すると青年はハッとして、すぐおっとり言った。


「えっ、ええ、大丈夫だと思います…」


クロは、メガネを青年に渡す。


理久が手を貸し、メガネを掛けた青年はゆっくり立ち上がる。


「おっ、なんだぁ~?テメぇらぁ!」


残りの4人の内のリーダーが凄んだが…


クロは、理久と青年を背中に庇うと、手を組み合わせ指をポキポキ鳴らした。


4人の男達は、クロの圧倒的な強い野獣のようなオーラに一度は後ろに下がる。


しかし…


「やっちまえ!」


リーダーの一言で、4人が同時にクロに襲い掛かった。


しかし、クロは、驚くべき速さと強さで

、周りの露店に被害も出さずあっと言う間に他の4人も殴り飛ばした。


「ちっきしょー!」


4人はもう立ち上がれ無かったがが、リーダーがまだクロに抵抗しようとする。


しかし、すぐ5人の周りを、沢山の私服を着たクロの護衛騎士達や、騎士姿のマーケットの衛兵が剣を向け取り囲み、5人はあっと言う間に何処かへ連行された


「マーケットがお前達の警護のお陰でいつもは安全に運営されている事は知っているが、どうしてもああ言う輩らがウロウロする事もあろう。マーケットの監視を強化するように上官に伝え、追って強化の内容を私に報告しろ」


クロは、マーケットの衛兵の一人に、そう低い声で冷静に王の厳格な顔で伝えた


「ぎょっ…御意にございます!」


騎士は、緊張に顔を引き攣らせながら、右腕を胸に当て頭を深々と頭を下げた。


護衛騎士達もこの場を離れ、野次馬も解散し、周りの露店も何も無かったかのように又普通に商売を始める。


理久は、そのいつもと違うクロの様子を緊張して見ていたが…


突然、クロの表情がにこやかになり、いつものクロになった。


そしてクロは、そっと理久の右手を握り

、さっきの騎士への尊大な物言いはどこへやら…


理久には、見詰めながら控え目に聞いてきた。


「理久…これで良かったか?…」


クロの獣耳と尻尾が、ピンっと立っている。


理久は、東京でずっと一緒だった犬の方のクロを思い出す。


犬のクロが、理久の家でいい子でお留守していた時や、来客があってもいい子で吠えなかった時…


公園で投げたボールを早く拾ってきた時…


お手、お座り、伏せ、待てが上手に出来た時…


クロが理久に褒めて欲しくて、待っている時と一緒っぽかった。


「えっ…うっ、うん…良かった…良かった。ありがとう」


理久が戸惑いなからもそう素直に伝えると…


クロは、握る理久の手を、クロの左頰に当てた。


そして…


クロは、まだ耳と尾をピンっと立たせたまま、何かを物欲しそうに理久を見詰め続ける。


理久には、ピンときた。


(まっ…まさか…クロ…ご褒美で撫でて欲しいのか?犬そのものならともかく…獣人って言っても、俺よりガタイのデカい大人の男なのに?…)


理久は半信半疑ながらも、クロの頰を撫でてやる。


「ありがとう!クロのお陰で助かったよ!」


すると…


予想は、正しかった。


クロは、満足そうにうっとりしたので、理久も嬉しくなって、次にクロの美しい長い黒髪を撫でてやる。


「クロ…クロ…クロ…ありがとう」


クロは、更に恍惚とした。


だが、そんな風にしていると…


助けた背後にいる青年が、理久とクロに礼を言おうと近づこうとしたが声を上げた。


「痛っ!」


「どうしました?」


理久が手を止め振り返り尋ねると、青年がさっき男達に突き飛ばされて、足を捻挫したのが分かった。

















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