コートと同じ

「じゃあ、スタプレの私から始めるね! はい、授業行きまーす。出す職業は『薪集め』! 効果は、畑とか小麦とかに行ったときに、木が1本付いてきます」


 こうして、スタートプレイヤーの甘菜ちゃんからゲームは始まった。2番手は石積君。私は3番手。なんで初心者の私が3番手なんだよー。ぶーぶー。


「じゃあ3木材で」


 石積君はノータイムで木材3つの累積スペースにワーカーを置いて、3木材を持っていった。累積スペースというのは、そのラウンドに誰も行かなかったら次のラウンドに、さらに品物が上乗せで置かれるスペースのことで、うまくいけばまとめてごっそり品物をゲットできる。

 世の中そんなうまい話はないんじゃない?と思うけど、アグリコラではラウンドが進む度にアクションスペースが追加されていくから、できることの選択肢が増えていったら手が回らなくなって、6木材とかができることはわりとあるらしい。

 人があくせく働いているのを尻目に甘い汁をすすってるような輩は、いつの時代にもいるってことだね。


 で、私の手番が回ってきたんだけど……うーん……。私が職業カードを出せる「授業」のアクションスペースはもう一か所あるけど、ここで職業を出そうと思ったら、2飯かかるんだよね……最初に甘菜ちゃんが行った授業は、1枚目の職業ならタダで出せるところ。

 こんな風に、このゲームではスタートプレイヤーが有利になるように出来ているので、1番手が最初から持っている食料は2飯、それ以降の番手は3飯、という具合にハンデがつけられている。でもそれなら、2番手と3番手の格差もどうにかして欲しい。


「序盤は増築して、家族を増やすことを目指すといいよ。2手番しかないのはきついからね」


 と、これは石積先生のアドバイス。家族というのはワーカーのこと。各プレイヤーの農場ボードには最初から部屋が2軒あって、これがワーカーが住む場所ということになっている。基本的には1部屋につき1人しか住めないので、ワーカーを増やすには部屋を増築しなくてはならない。増築するのに必要な資材は、初期状態の木の家からだと、5木材と2葦が必要なんだっけ? これが置いてある資材のアクションスペースはっと。

 3木材、2木材、1葦の累積スペース。あと、累積せずに固定で1葦と1飯、もしくは1石と1飯がもらえるスペースがある。

 よし。カードのことはひとまず置いておこう。どうせ何が強いのかもよくわかんないし。考えを絞って、まずは本当にワーカーを増やす必要があるのかどうかを考えたい。


 アグリコラは、14ラウンドを終えた時点でゲームが終了する。初期状態だと1ラウンドにつき1人2手番だから、ワーカーを増員しない場合は28手番しかないことになる。「部屋があれば家族を増やす」アクションスペースが出るのは5~7ラウンドのどこか、らしい。最速で5ラウンドにワーカーを増員した場合、そのワーカーが動けるのは6ラウンドからだから、3人目のワーカーは6~14ラウンドの9回動ける。つまり、ゲーム終了時までに、37手番は動けるようになる。


 でも、メインボードのアクションスペースを見た感じだと、増築のために5木材と2葦集めるのに、3~4手番かかりそうなんだよね……。あ、違うや。増築と増員自体に2手番かかるから、1人増やすのに5~6手番かかるのか。しかも、収穫の時に余計に2飯かかるようになるんだよね。んんん? これって、本当に得してる? 増員が出るのが5ラウンドじゃなくて7ラウンドの場合もあるわけだし、他のプレイヤーに先を越されてワーカーを置けなくなったら、さらに増員遅れるよね? そうなったら、増員してもトータルでは全然手番が増えてないなんてこともあり得るよね? そこまでしてワーカー増やす意味ってある?


 いやいや。待て待て。落ち着け私。考えを絞るとは言ったけど、いくらなんでも絞り過ぎ。ただの直感だけど、たぶんこのゲームは増員した方が有利になるように出来ているはず。だってそうじゃないと、ルールに組み込む意味がない。じゃあ、どうして増員した方が有利になる? うーん。……選択肢?


 そうだ。今はアクションスペースはこれだけしかないけど、ラウンドが進む度にアクションスペースが増えていくんだから、ゲーム後半になったら選択肢が増える。そのときに動けるのが2人しかいないというのは、いかにもまずい。序盤はスマッシュで得点を重ねられても、相手の目が慣れて対応されちゃったら、いろんな球種を使ってコートを広く使って揺さぶっていかないと、点を取れなくなる。

 アクションスペースは、コートと同じだ。コートを広く使うにはいろんな球種とコースの打ち分けが必要なのと同じで、アクションスペースを広く使うには、ワーカーの人数が必要なんだ。


「お、織木さん……?」


 ブツブツと呟いて一手目からやたらと長考している私が心配になったのか、石積君が声をかけてきた。


「ごめん。待たせた」


 長々と考えた結果石積君のアドバイスと同じ結論に達したのは癪だけど、経験者様の言うことなんだから、ここは素直に従っておきますかね。はあ。何こんなゲームにマジになってんだろ。私は自分のワーカーを掴んで、ようやっと初手を繰り出した。


「2木材!」

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