5-4


 それから、いつもより急いでお仕事を進める。

 午後一のソックスのテスト飛行に間に合う様にするためだ。


 ただ、一つの心配として……また変な時間に外出して、ミケランジェロさんにお説教せっきょうされるかなぁ、なんて思っていた。

 でもね、今日のミケランジェロさんは口からたましいが抜けた猫になっている。ブツブツと何かをつぶやき、ヘラヘラ笑っている。怖いにゃ。


 つまり、心ここにあらずって感じ。

 だから、ちょうど良かった。

 何にも言わずにコソコソと外出する。


 ソックスの家には行かず、はてな丘へ直行しようと商店街を突っ切っていると、ちょうど台車に飛行機を乗せて、はてな丘へ向かう途中のソックスと出くわした。

 ミスった。

 もっと遅くに来ればよかった!!


 結局、飛行機運びも手伝わされる僕。

 その道中、アズキばあちゃんから聞いた、鶏の赤い目の理由を伝えた。


「力をたくわえているー? なんにゃ、そりゃ」

「全然わかんない」


 と、言っておいた。

 その影響えいきょうで「明日はおっきな卵が産まれるよ~」なーんて言ったら、卵をくれる約束を無かったことにされそうだったから。


「それとさあ、ソックスは『にゃんデー』って言葉、知っている?」

「にゃんデー? とかい島の言葉か?」

「アズキばあちゃんが言っていたから、はてな島の言葉だと思うんだけど……」

「知らないね。そういうのはお前の先輩の方が詳しいんじゃないの?」


 確かに、ミケランジェロさんの方が知っているかもしれない。

 後で聞いてみよう。


 でも、魂がはみ出ているミケランジェロさんに分かるかなぁ……?



 (ΦωΦ;)&(ΦωΦ;)〜〜〜



 はてな丘は、はてな町の市街地やキャットタワーを一望出来る急斜面の丘。


 丘の上には石造りの大きな一軒家があり、ゴミ拾いボランティアのワンダフルさんが住んでいるのにゃ。


 僕とソックスがヒーヒー言いながら、重たい飛行機を丘の上まで運んでいると、ワンダフルさんが見かねて、手伝ってくれた。


「おお、これは重いワン。これは大変だワン!」


 と、軽々と台車を押すワンダフルさん。

 ……本当に、重いのかにゃ?


「ねえ、ワンダフルさん」

「わん?」

「ワンダフルさんは、にゃんデーって知っている?」


 ワンダフルさんの手がピタッと、一瞬止まった。それから、何事も無かったかの様に再び動き出す。


「……知らないワン」

「本当に?」

「知らないワン」

「本当に、本当に、本当に??」

「知らないったら、知らないワン、ぜんぜーん知らないワォーン!」


 ワンダフルさんも、はてな島に長く住むおじさんだから、何か知っていると思ったんだ。言動げんどうあやしすぎる。


 それから、僕とワンダフルさんの「本当に?」「知らないワン!」の掛け合いがずっと続き、気が付けば、はてな丘のてっぺんまで来ていた。

 

 ――不思議なもので、途中から掛け合いに集中していたおかげで、全然疲れないで丘を登って来れた。集中していると疲れにくい。

 これもよくある、不思議な現象だにゃー。


 僕は一向に口を割らないワンダフルさんをあきらめ、ソックスの飛行テストのお手伝いをする。ソックスはいつもの背負った布袋から、いつぞやの黄色いヘルメットを出して来た。二つ。


 ……二つ?


「ほい、マメの分」


 そのうちの一つを、当然の様に手渡してくるソックス。僕はその良い思い出のない木製のヘルメットとソックスを交互こうごに見た。


「ど、どういう事にゃ?」

「どうもこうも、ソラマメ君、君も立派りっぱ乗組員クルーって事だよ」

「……ひえっ!」

「俺は天才だから、二匹乗り飛行機を作ったのだ!!」

「ひええ!!」


 僕はもう一度、完成された飛行機をチラリと見た。


 赤いカラーコーンの船首、トタン板やアクリル板をつなげて作られた大きな羽とボディ。その中に、キャットタワーで盗んだ部品が詰まっている様だ。ペットボトルを繋げて作られた椅子の座席が、確かに縦に二つあった。



 こ、こんなん、飛ぶわけないじゃん!!


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