4-7

 

 おがみ続けるタイツさんを余所よそに、ソックスは説明をしてくれた。


「前にさ、ハヤテに燃料ねんりょうで動く乗り物の話を聞いた時、その発動力はつどうりょく原動力げんどうりょくを聞いたことがあるんだ。俺たちの体でいう所の、心臓のことね。とかい島の言葉で、乗り物の心臓をエンジンと言うらしい。たぶん、この船は遥か昔に、とかい島とか別の島から来た船なんだと思う」

「でも、ハヤテは船じゃなくて、兵器だと言っていたよ」

「そうだな、もしかしたらロケットみたいな武器ぶき発射装置はっしゃそうちが、天井の座席へ行けばあるのかも。でも俺は戦いには興味無いから、操縦席側そっちはどうでもいいや」


 と、ご神体……エンジンと周辺だけを観察し続けるソックス。


「……うん! やっぱりこれがあれば、俺の空飛ぶ船が作れるかもしれない!!」


 そう断言だんげんした時、嫌な予感がした。


「もしかして……ご神体をぬすむ気??」

「まさか。このエンジンはこの巨大な船のエンジンだ。俺の一匹乗りの船じゃあデカすぎて無理だ」


 ホッとする僕。


「でも、部品はどっさりと貰う。よーっし、今日から忙しくなるぞー!!」

「だからぁ! 兵器だから、あんまりいじくると危ないんだって!」


「ソラマメ君。危ないと叫んでいるだけの君は、一体どうしたいんだい? はてな島に住む猫全員を避難ひなんさせるの? どこに? 処分するにも、どうやってするんだい? 危ないなら、少し動かしただけで何か起きるかもしれない。ならば、避難するにも処分するにも先に「どう危ないのか」調べる猫が居てもいいと思わないか? 危険を知るのは、安全を知るのと同じくらい大切だ。安心しろ、心配ならハヤテと一緒にやるから」


 うう、口と知能ではソックスに勝てない僕。


 こうなったソックスを止められる猫は居ない。

 そして僕らがこんなにガタガタやっているのに、ご神体エンジンおがみ続けるタイツさんも同じく礼拝れいはいが止まらない。


 ほんとにノンストップ家族だにゃー!



 (ΦωΦ;)&(ΦωΦ)!



 本当にその後、ハヤテも引っ張りこんで来て、ソックスはエンジンの分析ぶんせきを始めた。ハヤテもその無謀むぼうさにビックリしていたが、僕同様に説得させられて、結局は、


「タブン、操縦席の、ボタン、押さない、ダイジョブ」


 と、天井にある操縦席を見上げた。


 ……ってことは……。

 逆を言えば、操縦席のボタンを押すと何かとんでも無い事が起きるって事にゃ。


 確かに、あからさまに1個だけ透明の箱におさまった、でっかい赤いボタンがある。


 まるで【押してください♪】と言わんばかりに……。


 天井までは壁の突起とっきつたをよじ登れば、簡単に行けそうだが……。


 僕は最悪を想像して身をふるわせると、ソックスに「絶対に絶対に、操縦席には行っちゃダメだよ! 行ったら絶交ぜっこう!」とくぎを刺しておいた。

 ソックスもエンジンに夢中で、操縦席には興味が全く無い様子。


 だが、その好奇心こうきしんが急にそちらに向くことがある可能性かのうせい十分じゅうぶんにある。


 だから僕は、親友がキャットタワーに来る時は見張る事にしたのだ!


 熱いうちに書かなくちゃいけないお知らせも二の次、三の次にして!!




 ……。



 ……にゃ?


 なんで、そこまで親友を疑うのかって?


 ……。


 ……ここだけの話……。

 

 みんな、内緒の話だよ?

 周りの大人とかに、絶対言っちゃダメだよ?




 ……僕ね。

 あの、赤くてピカピカのボタンを見ていると……なんだか、押したく……なるのだ。



 いやいや、分かっているよ!

 危ないし、恐ろしいものだって!


 それとは別に、あの綺麗でつるつるのボタンが押したいんにゃ。


 だからソックスだって、急に気が変わることだってあるハズ。


 本能ほんのうに踊らされる、僕の様に。

 でもね、絶対に押さないよ、押さないったら!!



 絶対にね!!


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