4-2


 ソックスの話を聞いて安心した僕は、フリフリと尻尾しっぽを揺らして、はてな新聞堂へと戻った。玄関をガチャリと開けると、


「マメ!」


 と、僕の名を笑顔で呼んでコマリが駆け寄って来た。

 その背後には、尻尾をパタパタと降ったタマジロー先輩に、デレデレ顔のミケランジェロさんがコマリの姿に見惚みほれている。


 ――そうなのにゃ。


 あれからコマリは、はてな新聞堂へと毎日来ているのだ。

 今や、アシスタント扱い。


 持っている丸トレイには、ミケランジェロさん用のブラックコーヒーと、タマジロー先輩用のブレンドダイエット茶が乗っている。


 コマリが来る様になってから、はてな新聞堂の雰囲気ふんいきはガラリと変わった。


 みんなの机には絵の具で色とりどりにられたペットボトル花瓶かびんには菜の花が入っているし、床に散乱さんらんしていたゴミは綺麗に分別され、キッチンとトイレのカビは無くなった。床の隅にまっていたほこりも居なくなっていて……つまり、はてな新聞堂全体が、とっても綺麗になった。


 そして、窓を見やれば可愛くて完璧かんぺきなコマリ見たさにむらがる、ひまなオス猫達……。


 お姫様だと言っていたけれど、なんでも出来るコマリ。「きびしい花嫁修業で、何でも出来る様になった」んだって。


 ――ただ、はてな語を喋るのだけは、凄く苦手にゃ。


 僕が机に座ると、コマリは僕の大好きなしぼりたてミルクを置いてくれた。そして、とびっきりの笑顔で、最近覚えた言葉を言うのだ。


「マメ、オシゴト、ガンバテ!」


 はてな新聞堂のお外でバタバタとオス猫が倒れる音がした。


 うーん。

 このままだと、はてな島のオス猫がコマリによって全滅ぜんめつしてしまいそうだにゃあ。



 (ΦωΦ)!



 さて。

 本日のお仕事は、来たるキャットタワー創立222周年記念祭のお知らせにゃ!


 僕は記念祭で出店でみせを出す猫の中で、お知らせを出したい猫の記事を書く。記念祭実行委員長はシノおばさんで、色々と詳しい情報を持っているにゃ。


「ミケランジェロさん、記念祭のお知らせを聞きに出かけて来まーす」


 僕はメモ帳やペンなど、必要な道具をかばんに詰めて、ミケランジェロさんに声を掛けた。

 すると今やって来たキュウ☆ニクニクさんにルイボスティーを出していたコマリが、僕に再びって来た。


「イクヨ! イッショ、イクヨ!」

「にゃ……」


 最近のコマリは、僕の仕事について来たがる。そうなると、いろいろと面倒で……。すると、ミケランジェロさんがオホンと咳払せきばらいし、いつもより1オクターブ低いダンディーな声でささやいた。


「コマリちゃん、今日はと一緒に商店街の取材に行かないかい?」


 更に、応接室に居たタマジロー先輩が頭をひょっこりと出して、


「コマリちゃん! おいらと一緒に、風見猫かざみねこさんの所へ行ってお天気を聞きに行こうよ!」


 しかし、コマリは首を振り、僕の腕を掴み、


「マメ、イクヨ!」

「にゃっ……!」


 そうなのだ。

 コマリは僕にすごくなついている。はてな島に来て、初めて見たのが僕だったからだと思うけれど。そんな僕を不思議な程に信頼している。

 

 腕を掴まれた僕を、ギリギリと歯を食いしばり、悔しそうなミケランジェロさんと、タマジロー先輩。


 ニクニクさんには「マメ、お前に【嫉妬しっとされまくりの相】が出ている!」なんて分かりきった事言われて。


 ……うーん。

 はてな新聞堂は綺麗になったけれど、三匹の関係には、ヒビが入って来たにゃあ……。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る