6-2


 壁を越えた未知みちの世界で、僕は叫ぶ。


「ソックスー! ソックスー!!」


 見回せば、荒野こうやと海流の交じる大河が広がっている。


 そして目の前は「何か」で出来た幅五メートル、距離にしてニ百メートルは続くくぼみの道。


 僕はそのくぼみによって陸地となった場所を、恐る恐る進んでみる。

 ぬちゃっとしたどろの道は足がズブズブと沈んで歩きにくい。 

 途中で、ニャートビウオサメが何体も死んでいた。きっと泳いでいたサメが「何か」に攻撃されたのかもしれない。


 ――僕はソックスを心配しながらも、この壁の穴はソックスが引き起こしたのでは無いか? と思っていた。

 だって、キャットタワーにあんなに興味を持っていたソックスだ。キャットタワーが兵器なのを知るのも、僕とソックスとハヤテだけ。


 ソックスは昨日、テスト飛行が失敗した。

 だから、キャットタワーに新しい部品を盗みに行った時に、欲しい部品が操縦席の方にあって、そこでうっかりボタンを押してしまったのではないか、と……?


 ――いや、そんな事考えちゃいけない。

 どんな結果でも僕はソックスの味方だにゃ!!


 その時、見慣れた青い作務衣さむえが、くぼみの道の終わりに見えた。


「!!」


 僕はそこへと駆け寄ると、すすと泥で汚れて倒れているソックスが居た。


「そ、ソックス!!」


 仰向けに倒れているソックス。

 僕は慌ててソックスに近づいて、腕を取った。

 温かい。それに息もしている。

 それだけで、僕は涙が出そうになる。


「ソックス、ソックス! 起きて!!」


 僕が何度も呼び掛けると、ソックスの垂れ目がパチリと開いた。

 そして、僕を見上げるなり「飛行機、出来た」と言った。


「……ははっ……それ、昨日聞いたよ!」


「あれ……マメ? なんで泣いているの?」


 僕はこぼれる涙をぬぐった。

 ソックスがゆっくりと起き上がり、自分がこんな荒野で寝ているのに驚いた。


「……何だこれ? えー? 俺、昨日は普通に家で寝ていたんだぜ?? ここはどこだ??」

「ソックス、走れる? 急いでいるんだ。走りながら状況を説明するから」

「起きて、いきなりジョギングかよ、俺の心臓エンジンを殺す気か?」

「大丈夫、壁にあんな大穴が空いても死ななかったんだもの、ソックスは無敵だよ!」


 僕はソックスの腕を引っ張り、二匹で走り出した。



 (ΦωΦ)&(ΦωΦ)====3333



「って、事はー! あの赤い芋虫がとかい島の兵隊って事!?」

「そうなんだよー!」


 すぐに状況を理解したソックス。

 背後をチラリと見て、ヒエェ! とスピードアップする。

 僕も、そんなソックスにぴったりと付いて行く。



 それから僕たちは「何か」によって空いた北の壁の大穴まで戻って来た。

 

 ソックスはその穴のあとや、くぼみを見て、


「うーん。こんな大きな穴……どんだけの力を凝縮ぎょうしゅくさせたら出来るんだろう。こんな事に使わずに、何かのエネルギーに変換出来そうな……」

「ちょっと、ソックス! 今は考察こうさつしているひまはないよ! ちなみに、君の家も全壊ぜんかいだからね!」


「えっ!!」


 ソックスは目を大きく見開き「マドンナ……!」とつぶやけば、一目散いちもくさんに家へと駆けて行った。

 僕もその名を聞いて、ドキリとする。

 もはや瓦礫がれきの山となったソックスの家。その隣に作られた飼育小屋だけが無事だなんて訳は、無い。


 先に家までたどり着いたソックス。


 げて、すみになった我が家を見て、息を飲み、茫然ぼうぜんとしていた。

 それから、マドンナの飼育小屋があった辺りを中心に、瓦礫がれきを夢中でき出し始めた。


 しばらくして、瓦礫がれきを掘っていたソックスの手が止まった。


「ソックス……」


 ソックスは、今までに無い、優しい手つきでそれを持ち上げた。

 そこには、すすだらけの鶏が一羽、ソックスの腕にいだかれていた。


 僕はただただ、その場に立ち尽くすソックスに何て声を掛けたら良いのか分からなくて、黙っていた。


 優しくマドンナを抱きしめるソックスの後ろ姿だけで、マドンナの事をとても大事にしていたのが伝わって来た。


 きっと、アズキばあちゃんの所に返そうとしない理由も卵料理にかこつけて、本当はマドンナを飼うのがとても楽しかったのかもしれない。

 立派になっていく飼育小屋を見ていた僕は、そう思った。


「マドンナ……!」


 感極かんきわまったソックスが、黒ずんだマドンナをギュッと抱きしめた時だった。

 

 ぽろん、とソックスの脇腹わきばら辺りから、何かが落っこちた。

 僕はそれを思わずキャッチする。

 

 それは楕円形だえんけいの、大きな大きな卵で……。





「……こけ」


「え?」


「こけ」


「え、う、うそだろ」


「こけ!」


 ソックスの腕に抱かれた、マドンナがプルっと首を振った。

 そして、起き上がると声高こえたからかに叫んだのだった。



「コケッコッコー!!」


「「うっそー!?」」

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