第5章 なんだか、おかしいにゃ……

5-1


 明日はついにキャットタワー創立222年記念祭だー!!


 僕はいつも通り、鶏を返す説得せっとくをするためにソックスの家へと向かっていた。


 最近の日課として、出勤前にソックスの家に訪れる僕。

 いつもは朝早いから、とても静かな町並みなんだけど、今日に限って早起きの猫がとっても多く、みんな興奮気味こうふんぎみでフギャーフギャー! とたけびを上げていた。

 でも、僕は全然気にしなかった。


 ――みんなにも、生理現象せいりげんしょうってあると思うのにゃ。


 生理現象ってのは、生きていると自然にやっちゃう行動だにゃ。

 お芋を食べると自然とオナラがプーって出ちゃうみたいな。


 猫にだって、もちろんある。

 猫は月に一度や二度や三度くらいは、たけびを上げたくなる日がある。だから、ちょっとくらいうるさくても、気にしないで上げて欲しいのにゃ。


 うるさい外野をよそに、ソックスの家に辿り着く。

 勝手に丸太小屋へ入ると徹夜てつやしていたらしいソックスが、発明品に寄りかかって眠っていた。


 赤いカラーコーンの船首に、トタン板やアクリル板、ペットボトルなどなど、とかい島の素材を使って完成した空飛ぶ船が、ソックスの胸に大事そうに包まれていた。


「ソックス、ソックス、起きて。完成したの?」


 僕はソックスの肩を揺すって起こす。

 するとソックスはゆっくりと目を覚まし、それから僕を見上げ、その寝ぼけまなこで言った。


「……飛行機、出来た」



 (ΦωΦ)&(ΦωΦ)!



「今日は午後一ごごいちに、はてな丘に運んでテスト飛行をする」


 山盛りの白米に、れたての生卵をポトンと落とす。

 ぽっちりとお醤油しょうゆを垂らし、黄身きみはしで突いてとろっ〜とほかほかご飯に流すと、その金色のお米を口へとっ込み、もぐもぐと咀嚼そしゃくするソックス。


「もう飛ばすの?(美味おいしそうだにゃ!)」


 かっかっか、とリズムよく卵かけご飯を食べるソックス。

 追い醤油をぽっちりと垂らす。

 

 ……僕だったら、海苔のりとかゴマ油とか追加するにゃあ……。


「明日の祭りまでには完成させて、みんなを驚かせたいからな!」

「頑張ってね」

「はてな丘で飛ばすから、マメも見に来いよ」

「……う、うん(食べたいにゃ~。でも今日のお昼ごはんは、にゃん太郎食堂のレトルトご飯「まんまねこ」買っちゃったにゃ……)」


「…………そんなにヨダレを垂らしても、卵かけご飯はやらねーからな」

「にゃ?」


 ソックスに指摘してきされて、初めて気が付く。


「あにゃー!? なんだ、これ!?」


 気が付けば、僕のあごから下はヨダレでびちょびちょだった。

 あわててハンカチでヨダレをぬぐう。


「……それで、今日も何しに来たの?」

「もう! 僕が君の家に来る理由なんて、一つでしょ!?」


 ソックスは上目遣うわめづかいで考え込み、


「ああ、マドンナの事?」

「とぼけないでよ! 毎日来ているじゃん!!」


 マドンナとは、ソックスが鶏に勝手に名付けてしまった名前だ。


 ――全く、ばあちゃんがどんだけ心配していると思っているのだろうか。

 そんなばあちゃんを不憫ふびんに思っていたら、僕は急に名案が浮かんだのだ。


「僕、思いついたんだけど」

「んにゃ?」

「一度、マドンナを返すでしょ?」

「ふんふん」

「それでさ、マドンナにヒヨコを産んでもらえばいいんじゃないの?!」

「ふんふん。……それで? そのヒヨコが大きくなるまでの間の、俺の卵は?」

「……にゃ?」

「そのマドンナのヒヨコがオスだったら?」

「にゃにゃっ!?」

「はい、却下きゃっか~。もっと、良い案を考えて来て下さい~」


 と、ソックスに家から締め出された僕。


 僕は肩を落として、マドンナの入っている飼育小屋を見る。

 小屋は増築ぞうちくされ、どんどんと広くなり、快適かいてきな暮らしをしているマドンナ。


 ……口ではああ言っているけれど、ソックスがマドンナを大事にしているのは分かる。


 すでに顔見知りとなった僕に、柵越さくごしに近づいてくるマドンナ。


 すると、僕は気が付いた。


「あれ、マドンナの目……。赤っぽい?」


 充血じゅうけつ、というよりも、絵の具でった様に綺麗な赤い色をしていた。

 僕はソックスにマドンナの目の事を伝えた。

 すると、ソックスは僕に言ったのだ。


「アズキばあちゃんに、目が赤い時はどうしたらいいか、聞いてこい」


 にゃ、にゃ、にゃにーーーー!!??


「聞いてきてくれたら、明日の卵かけご飯をご馳走ちそうしてやる」


「やります」

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