2-12



「……あ、でもこいつらさぁ、はてな島の言葉が通じないんだよね。ばあちゃん大丈夫かな??」


 ソックスがそう言うと、アズキばあちゃんは無言むごんつえをつきながら、家の中へと入って行ってしまった。

 

 三分後。


 戻って来たばあちゃんは、ページ数が少ないペラペラの本をソックスに差し出した。

 何やら表紙ひょうしには『はじめまして! とかい島はてな島の文字』と書かれていて、青い目の子猫と黒い目の子猫が手をつないでいる絵が書いてある。


「トカイ文字とハテナ文字のあいうえお表だ。これを勉強した事があるから、大丈夫だ」


「ほえ!?」


「二つの島の言葉は、基本的に同じ文字を使う。ただ、羅列順られつじゅんが違うだけ」


 ……にゃ、にゃにを言っているのか、僕には全然分からない……。


 ネギも同様に。

 でもソックスは理解した様で、本の中にあった五十音表を開いてうなづいている。


「ソックス~、どういう意味?」

「ふんふん、なるほど。例えば、ハテナ文字で『あいうえお』は……トカイ文字では『イロハニホ』だ」

「にゃあ?」

「ハテナ文字で、『家』の読み方は『いえ』。トカイ文字では『ロニ』って事。二つとも、五十音順で二番目と四番目の文字を使っているんだ」

「にゃ、にゃあ……?」

「『青い』なら、トカイ文字は『イホロ』。『青い家』は『イロホロニ』」


「おお、ソックス。飲み込みが速いな」


 関心するアズキばあちゃん。そして、全然飲み込めない僕とネギ。


「よし、これでコマリ達とも意志疎通いしそつうが出来そうだ!……でもばあちゃんは、この本をどこで手に入れたの?」


 ソックスは本の出所でどころが気になるらしい。

 

 確かにそうだ。

 はてな島ととかい島との交流こうりゅうまったく無いのに、こんな都合の良い本がアズキばあちゃんの家にあるなんて。

 ばあちゃんは「昔にころころマーケットで買った」と言うが、ソックスはうたがいのをじーっと向けた。三分も。


 ――しかし、サングラスを掛けたばあちゃんの心の内は、上からのぞいても、下から見上げたりしても読めなかった。


 逆にばあちゃんのサングラスにハエが止まった事でブフーっ! と吹き出し笑いをしてしまい、ソックスが負けて終わった。

 勝ったばあちゃんは、


「さあ、さっさと帰った帰った。あたしゃ、鶏の世話があるんだ」


 と、いつもの猫を追い払うセリフをいて、僕らを遠ざけようとする。

 そして帰ろうとした時、僕はもう一つの大事なことを思い出した。


「ばあちゃん、もう一つ忘れていた! とかい島の猫ってあばれるかもしれないんだって!」

「はあ?」

 

 それから「とある猫族の習性」の本の事を話し出すと、説明せつめい途中とちゅうなのに「ああ、それは問題ない」とばあちゃんは、僕の話をさえぎった。

 そして「それは、とかい島の猫の事では無い」と言う。


「じゃあ、どこの猫なの?」


 とソックスがたずねねれば、


、一生かかってもお目にかかれない猫族の事だ」


 と、言った。



 (ΦωΦ;)&(ΦωΦ)♪〜〜



 はてな交番前こうばんまえでシロネギと別れ、僕とソックスは、はてな新聞堂へと戻った。


 僕らが現れると「無事だったか〜い!?」とるタマジロー先輩。それから、仕事に夢中むちゅうりして、実は心配で心配でソワソワしていたミケランジェロさん(タマジロー先輩談)が、無茶むちゃな事をした僕らをしかりつつも、根掘ねほ葉掘はほり、兵隊さんの事を聞いてきた。

 きっと明日の一面にするのだろう。



 一通り、お説教せっきょうも終えた後。


 ずっと話が終わるのを待っていたコマリが心配そうな顔して「マメ、✕✕✕?」と尋ねてきた。


 すると、ソックスが「えーっと」と五十音表を調べて「【ダロヲ゛キハミ】と言ってみて」と言う。


ダロヲ゛キハミだいじょうぶ!」

「マメ!? ダロヲ゛キハミ? ✕✕✕✕?!」


 すごく安心した顔をするコマリ。ハヤテもソックスの持つ本に気が付いた。

 ソックスは再び調べて、


マスアチ翻訳ヅトミ出来る」と言うと二匹は顔を見合わせてとても嬉しそうな顔をした。



 ――それから。


 僕は新聞作りを後回しにしていたを払う時が来た。


 ミケランジェロさんにも、『とある猫族の習性』がとかい島の猫の話では無いとアズキばあちゃんが言っていた事を伝えると、拍子抜ひょうしぬけするぐらい、すんなりと信じてくれた。


 ――というか、どうやら僕らが兵隊さんと戦っている間にコマリがとっても可愛かわいい事に気が付いて、じょういたみたいなんだよね。


 可愛いって、こわいにてるんだにゃあ……。


 僕がお知らせの記事を書くのに苦労くろうしている間、ソックスとハヤテは翻訳ほんやくの本を使って、応接室でずっとたどたどしく会話かいわをしていた。


 一方、コマリは翻訳ほんやくには興味きょうみがない様子で、僕の新聞作りを見学していた。


 ……でも、僕はこんな風に見守られながら仕事なんてした事なんて無かったから、なんだか緊張きんちょうしてたくさんのミスをした。


 木箱ゲラが出来上がると、コマリも手伝いたい! と僕の腕を引っ張るので、木箱ゲラに黒インクの付いたローラーを転がす作業さぎょうをやってもらった。

 

 真っ白なドレスが、インクで黒くなっていたけれど(いいのかにゃ?)、とにかく楽しそうで、乾燥棚かんそうだなに干した100枚の新聞を何度も何度もながめては、とても満足まんぞくげだった。

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