2-8


 あせっている様子のコマリ。

 ミケランジェロさんは、ゆったりと僕らの所へやって来て、外の状況じょうきょうを見ると「なんだ、向こうからお迎えが来たじゃないか! 良かったな!」と、僕の背中をバンバンと叩いた。


 しかし。


 コマリの不安そうな表情と、ハヤテの緊張気味きんちょうぎみの顔つきで、外に居る兵隊さんが二匹の味方では無い事は、一目瞭然いちもくりょうぜんだった。


「返してこ…「オマメ、イヤ!!」」


 ミケランジェロさんの言葉にかぶせて、またあのセリフを言うコマリ。

 僕の腕を必死とつかみながら。


「✕✕✕! ✕✕✕✕✕!!」


 ハヤテも何かをうったえている。

 懸命けんめいに、兵隊に見つかりたくない気持ちは伝わって来た。

 

 それを感じ取ったソックスは、


「……じゃあ、俺とマメで様子を見てくるか?」


 と、僕の肩をポンと叩いた。


「そんな回りくどい事せずに、二匹を連れて……」

「僕がお世話をするので、返すかどうか、僕が決めます!」


 ミケランジェロさんをだまらせるために、少し強めに言った。

 ビックリして、口があんぐりしているミケランジェロさん。

 

 ……本当はまだお世話する事にモヤモヤしている。

 でも、怖がっているコマリを見ていたら、僕は兵隊さんに引き渡すのは駄目だめだと思ったんだ。


 もし、返す時が来たとしても今じゃない。


 僕は不安がるコマリに「静かにしててね」と言い、口に指を当てた。

 コマリは、こくこくと頷いた。


「お、俺は知らねーからな! 怖い目にあっても、助けないぞ!」


 僕に怒られたミケランジェロさんは、自分の回転椅子に座り、ぷん! とねてしまった。


「タマジロー先輩、二匹をかくまっていてくれますか?」

「え? わ、分かったよー」


 事情が良く分かっていないタマジロー先輩に二匹を預けて、僕とソックスは外へと飛び出して行った。



 !(ΦωΦ)&(ΦωΦ)!



 外の原っぱには、近所の猫達がたくさん集まっていた。

 はてな島の住人は、めずらしいで立ちの三匹の猫を、一歩引いた場所から眺めている。

 三匹の猫は青い目をしたおじさんで、ハヤテと同じ兵隊さんの格好していたのだ。

 ただ、ハヤテは青い服だけど、三匹のおじさん猫はみんな赤い服だ。

 しかしデザインはまるっきり一緒。

 間違いなく、とかい島の猫だ。


 三匹は三角形の頂点に立つ形で立ち、その先頭に立つ猫が叫んだ。


「ワレワレ、サガシテイル! ワレワレ、サガシテイル!」


 立派な分厚ぶあつ猫髭ねこひげをピーンと水平に伸ばしたげ茶の猫が、片言カタコトだけど、僕らの言葉をしゃべった。


「ワレワレ、ネコ、サガシテイル! ネコ、ニゲタ、サガシテイル!!」


「「……」」


 思わずソックスと顔を見合わせた。


 ソックスが無言で親指を立てて、後ろを指差し、戻ろうとジェスチャーした。

 はてな新聞堂に入らずに裏手うらてに回ると「よいしょ」とソックスがずっと背負せおっていた布袋ぬのぶくろを地面に置いた。


「……こんな事もあろうかと思って、俺はこんな物を用意して来た」


 中から、木製もくせいの黄色いヘルメットと、ころころマーケットで手に入る透明の筒に羽が付いた形の物が出て来た。

 透明の筒の中には、少量の水が入っている。筒のおしりの部分からひもつながっていて、それが大きな注射器ちゅうしゃきの形をした空気入れとつながっていた。


 ソックスはその羽のついた透明の筒を、転がっていたレンガに立てかけた。

 それから、僕の頭に黄色いヘルメットを乗せた。


「ソックス、なにこれ?」

「ソックス様の発明品だ!」

「??」


 見てろよ、とソックスは空気入れをシュシュッとピストンさせた。

 筒が大きくでもなるのかな? と思ったけれど、まったく大きくならず。

 失敗しっぱいかにゃ? どこかから、空気が抜けているのかな? と思ってたら。


 にゃんと!

 プシューーー!! という音を立てて、飛んだのだ。

 距離きょりにして、約二十メートルくらいだろうか。


 な、なんで空を飛ぶの!?

 そして、なんで僕は水にれてびちょびちょなのか?

 ……あ、筒の中の水がれたのか。飛んでいった筒は、まだソックスの布袋の中に大量に入っていた。


「すごいだろ?」

「……うん! すごい、すごいぞ! カッコイイぞ、武器ぶきみたいだ!」

「遠い国の猫達は、こういうのを『ロケット』って言うんだって。だから、俺はこれを『ロケット』と名付ける」

「『ロケット』!」

「いいか。兵隊が何か変な動きをしたら、俺が戦うんだ!」


「…………にゃ? 僕?」


「ああ、この島でたたかえる猫なんていない。だから俺たちがこれで戦うんだ」


 ソックスも黄色いヘルメットをかぶった。

 作務衣さむえにヘルメット。

 変な組み合わせ。


「行くぞ、マメ!」

 

 ソックスは『ロケット』を片手に、とかい島の兵隊さんが居るねこだかりに向かった。

 呆然ぼうぜんと立ちすくむ僕は「え? え? なんで僕も戦うの??」

と呟いていると「早く来いよー! ノロマー!」とソックスにうながされた。

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