第6話 天使?悪魔?


「...様、ダリア様!」


そういわれたところで、私は目を覚ました。


「もうすぐ会議ですよ!まさか忘れていませんよね?」

「え、もうそんな時間なの?教えてくれてありがとう。」


私の側近、リアトリスが会議の時間を教えに来てくれた。


私たち神は、地球の人間を見守るという使命を持っている。

私、ダリアは、神の中でもトップクラスの家の長女だ。小さい時から期待されながら育てられてきたけど、まだいまいち神の常識なんてわかっていない。まだまだ未熟な私に、使用人兼護衛のリアトリスがついてくれることになった。おかげで楽しい毎日を送れている。


この日は、今自分が見守っている人間、または見始めた人間についての情報交換の会議が行われる日だった。

私は、言われるまでもなくリクト――佐々木陸斗を見守っている。もともと私は、さっきも言った通りとてつもなくお嬢様待遇を受けて生きてきた。だからこそ、いじめられながら過ごしている人間に興味があった。どれだけ不幸な生活を送っているのだろうと。

いざふたを開けてみると、全てをあきらめたような眼をしているリクトがいた。

最初見た時、驚きを隠せなかった。人間を見守るのが使命、なんていいつつ、そんな人間がいるということを言っていた家族や友達はいなかった。



********



森島凛による殺人事件の後の話だが、辰夫さんが犯人の父親を問い詰めていた。その結果、案外有力な情報が手に入った。


まず、(当たり前と言っては何だが、)もう父親を更生することは不可能だと思ったほうがいいらしい。洗脳されきっていて、もう間もなく廃人になってしまうそうだ。


次に、辰夫さんが何とか構成しようと模索しながら話しかけると、逆上して暴れだしたそうだ。その時、「グリーム様!グリーム様!!我らを救いたまえ!!」とずっと叫んでいたとのことだ。おそらくこれがあがめられている神の名前だと仮定し、一人しか言っていなかったことも考慮すると、唯一神があがめられているということが考えられる。


また、辰夫さんがうまく誘導した結果、組織(教団)の名前が、「オラクル・スリーブズ」だということが分かった。直訳で「神託の奴隷」。


とりあえず、父親については辰夫さんに任せていいとのことなので、遠慮なく任せてしまおう。



********



KNIGHT of WANDS:正位置



事件発生から一週間。俺は特に何も変わりなく生活していた。いつものように親にはほぼ殺人未遂のような虐待を受け続け、学校では先生にも見限られながら、特に聞く必要もない英語の授業を聞き流していた。

...ただ、一つ変わったことといえば、


『ねえリクト、人間ってみんなこんなに最低な奴ばっかりなの?』

『もしかして、リクトの両親がリクトのことを引き取ったのって虐待するためだったりしない!?』

『リクトは確かに一人かもしれないけど、お隣にかわいい彩花ちゃんがいるんだから、少しは頼ってあげなさいよ。』


と、こんな感じで神様がものすごくおせっかいを焼くようになった。俺からすると迷惑でしかない。というか、そもそも俺に話しかけていいのは事件が起こった時だけだと最初に言ったはずだ。そういうと、神様は


『い、いや~、こっちにも役割があると言いますか...やっぱり普段の生活も見たくって。もちろん踏み込んだプライベートには関与しないわよ。だけど、人間ってどいう言う生活をしているのか気になるから...ダメ?』


なんかそれっぽい理由を並べてうまくはぐらかしているようにしか見えなかったが、神様にも言いにくいことぐらいあるだろうと、無理やり結論付けるしかなかった。


(別に嫌だと言っているわけではないが、神なんていうよくわからないものとずっと話し続けるのも気が引ける。人間の生活を見たいなんて急に言われても、俺はどう考えたって普通の人間じゃない。もう少し神様の理由を教えてくれないと納得できないぞ。)


俺は前々から気になっていた、神様が”俺”を見ようとする理由を探ってみた。


『.....そうよね。言いたいことはもちろんわかるわ。なら――』


神様はそういうと、一拍おいて話し続けた。


『今度、私以上に話の分かる神に会わせてあげるわ!』



********



特になんの新しい情報もないまま学校を終え、帰宅する途中で彩花が息を切らせながらこちらに向かっているが見えた。


「おーい、陸斗くーん!」

「どうした?何かあったか?」


彩花は息を整えながら、まっすぐ俺のほうを見ていった。


「この後時間ある?あるならついてきてほしいところがあるんだけど...」

「かまわないが、そんな急ぎの用事なのか?」


比較的温厚の部類に入るであろう彩花が、まあまあ取り乱している姿はあまり見たことがなかった。


「それが、どうやら命を狙われているっていう人がいて.....」


その言葉に、俺は神託が絡んでいるという勝手な予想をした。



********



彩花に連れられてやってきたところは、さほど遠くないところにある立派な邸宅だ。その表札には、洋風な感じで「光野」と書いてあった。


「ごめんください。私、一ノ瀬彩花です。」

「はい、どうぞお入りください。」


訪問の許可が下りると、俺たちはリビングに通された。この辺にこんな豪華な洋風建築の邸宅があることは知らなかった。


「お久しぶりです、彩花さん。そして初めまして、佐々木陸斗さん。」


声をかけてきたのは、おそらくこの家の主の娘だろう。見た感じ小学生か中学生に見える。


「ええ、ひさしぶり、雪。今日はもちろん空もいるでしょ?」

「はい、兄さんももうすぐ来ると思います。」


話を聞く限り、この女の子が光野雪だろう。そして、そのお兄さんに当たる光野空がいるそうだが――


「ただいま。あれ、彩花さんもう来ていたのですね。」

「うん、空も久しぶりだね!」


帰ってきた光野空は、雪にそっくりな男の子だった。


高級そうな紅茶と簡単なお茶菓子の用意が終わり運ばれたところで、俺たちは向かい合ってリビングのソファに腰を掛けた。


「それで、あなたが佐々木陸斗さんですね。」

「はい。彩花とは幼馴染で...お二人は?」

「俺は光野空(みつのそら)です。雪の双子の兄で、水咲町中学校の中学一年生です。」

「そして私が、光野雪(みつのゆき)です。兄さんの双子の妹で、同じく水咲町中学校の中学一年生です。」

(顔が似ていたのは、双子だったからか。)


それにしても、水咲町中学校みずさきまちちゅうがっこうとは。あの学校は水沢町の中でもとても有名な私立校だ。あそこに通えるくらいの金があるなら、この邸宅も納得できる。


「この二人とは、私のお父さんを通して知り合ったの。」


どうやら、辰夫さんが仕事先で光野兄妹の父親に知り合ったらしい。それをきっかけに彩花とも知り合いになって、今はだいぶ仲良しだとのことだ。


「それで...佐々木さん。俺たちがここに呼んだのは、あなたがとても高い推理力を持っていると聞いたからです。」

「実は、私たちは暗殺されそうなのです。」                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    


彩花がさっき言っていた話が嘘ではなさそうなことを確認して、俺は二人に続きを話すように促した。


「今から一週間前、私たちにこんな手紙が届きました。」


【パンジー,ビオラの天使 二人の悪魔を打ち落とせ

               われらの神に栄光あれ 大1106回目の神託】


その手紙は、どこからどう見ても見たことのある形式の文が書かれている紙だった。


「この手紙が送られてきてから、あと2通の手紙が送られてきています。一つは俺たちを狙っているという手紙。もう一つは俺たちの次のコンサートは失敗するという内容の手紙です。」


空は手紙を机に広げながら説明した。


「お二人はコンサートをやっているんですか。」

「はい、私たちは兄妹でフルート奏者なんです。」

「もともと光野家は両親が音楽家なの。父親が同じくフルート奏者、母親が作曲家なんだよ。」


彩花と光野家が知り合った時も、家族四人でやった演奏パーティーの時らしい。


「次のコンサートは二週間後です。それに加えて、次のコンサートは秋葉交響楽団あきはこうきょうがくだんとのコラボ演奏会です。そんな大切なものなのに...私たちのせいで台無しにしたくありません!」


秋葉交響楽団といえば、水沢市の隣である秋葉市のオーケストラだ。俺は音楽はそんなに詳しくないが、そんな俺でも「超有名なオーケストラ」ということは誰もが知っている。


「俺たちはこのことを彩花さんに相談したとき、佐々木さんを紹介されました。そこで、公演の本番までに脅迫犯を捕まえてほしいのです。」


空と雪は、ものすごく真剣な顔でそう言った。


(俺個人としても、神託の紙についてはずっと気になっていた。あの紙がまたここにあるということは、何か大掛かりな事件が起きるのかもしれない。また、ここで「オラクル・スリーブズ」についてもわかるのであれば、断る理由はない。それに――)


空も雪も、とてもまっすぐな目をしていた。あれだけ決意が固まっている眼をするのは、それだけの理由があるということだ。


(このままではほとんどわからないが、俺が断るという選択肢がないと信じ切っているような眼をしているのには、何か理由があるはずだ。)


いろいろ考えを巡らせた陸斗は、二人をまっすぐ見ながら答えた。


「...分かりました。個人的な興味もありますし、何より、俺からも聞きたいことがあります。できる限りですが、サポートします。」



#2 Two messengers of god

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