第二章 弟子強化

第20話 その後

 エルフの国での事件から、数日が経過した。真・呪詛王バルカンの襲来は、呪詛王ダイダロスの15周年討伐記念に現れた事もあってかなりの大事でなったみたいだった。


 


 エルフの国の一部は魔族の侵攻によって、破壊されていたりしたのが未だに修復できていないらしい。だが、不幸は過ぎ去れば特に問題にはなっていない。


 


 魔王も倒された事だしねー、俺が倒し続けてきた事もあっていつものこと。という事になる。


 


 しかし、一つ面白いうわさが……『銀色の戦士』である。俺は全然気づかなかったが一瞬だけ見たと言う人がぽつぽつ確認できたらしい。


 


 一瞬でどっかに飛んでったから詳しく知る人が居ないけど、そう言うのも居たらしい。本当に全然知らないし、興味も無いけど。


 


 マジでさ、魔王もそうだけど次から次へと新しいのが増えてくるよな……個人的な考えとして、魔王は一人いたら三十人いると思えというのがある。


 


 次から次へと新しい存在が噂になるのは慣れっこなので銀色の戦士もその内、30人くらい出てくるかもね。


 


 


 あ、そう言えばリンとも話したな。仮面をつけながら、俺様キャラで勇者ダンとして話してたら、なんかニヤニヤしてるのがちょっと気になった。深く考えてもしょうがないかもしれないけど……


 


 


「ダン、そろそろお弟子さんの修行に行く時間じゃないの?」


「あー、はい」


「行く前にご飯ちゃんと食べていきなさいよ」


 


 


 寝間着から着替えながら考え事をしていると、母親から部屋越しに声をかけられたので適当に返事をしながら部屋を出る。そのまま食卓につくと両親も既に座っていた。


 


 


「そう言えばダン、お弟子さんは最近どうなんだい? 確か、ウィルとか言う子とか居たんだったと思うけど」


 


 


 最近、俺が考えていたどうやって弟子を成長をさせるか。という事について父親から聞かれる。


 


「ぼちぼち、かな」


「ぼちぼち……まぁ、頑張ってるみたいだから、応援はしてるけど。早く後継者が見つかると良いんだがな」


 


 


 早く後継者を育てる。そう最初は思っていた。しかし、今回の魔王と戦って思ったのだ。


 


 早く育てる……これが達成できるのはいつになるのか。勇者の後継として世間に出すのは大分遅くなるのではないかと。


 


 今のウィルに、または他の弟子にも言えるが、ウィル達に今回の魔王を倒せるのかと聞かれたらNOと答えるだろう。どうあがいても無理だろう。俺ならいくらでも倒せるけど。


 


 成長はしている、思ったよりも成長は早い。しかし、このペースではかなりの時間がかかる。もっと早く強くなって欲しいとは思う。


 


 俺が彼等にしていたのは実践訓練が多めだった。実戦的な修行をすれば強くなると思っていたからだ。


 


 さーて、どうするかなー。もっと、変わった事をした方がいいのだろうか。


 


 


「まぁ、意外と適当でも良いのかもしれないわね。ダンは意外と勘で動くところもあるから」


「勘か……」


「そうよ。昔から、勘みたいなので家飛び出したりしてたこともあるわ」


 


 


 勘で変わったことやらせてみるか? 俺は昔からノートを取って強さへの道筋を取ってきた。前世の知識を使ってそれなりの行動を心がけて来た行為をなぜしようと思ったのかと聞かれたら勘だ。


 


 


 ……前世での知識もどこまで本来正しかったのかも分からないし、専門的な知識もなかったし、勘で文字の羅列を描いてそれなりに頑張っていたと解釈できる。


 


 


「ダンが出てった時は寂しかったし、心配したな。母さんも本当に心配してた。特にダンは無茶してるって噂で聞いてたからね」


「まぁ、でもその無茶がダンを強くしたのかしら? 親としては止めて欲しかったけど」


 


 


 俺を目指すなら常時無理をさせるべきか……。まぁ、後ろからカバーすれば少し無理させても問題ないか?


 


 


「そう言えば、弟子とはどんな感じなんだい? 関係性と言うか」


「関係性はそれなりに良好だと思うけど」


「そうかい? まぁ、偶には良い格好は見せておくべきかもだろうね。父さんもギルド職員として長く働いているが後輩には良い格好を沢山見せている。そうすると信頼してもらえるんだ」


「ふーん」


「あんまり口で指図ばかりすると裏で悪口言われたり、気づいたら尊敬が消えてたりするんだ」


「マジか……」


 


 


 折角そろえた七人の弟子が気付いたら離れていくとは嫌だ。押し付ける人柱を離したくない。ここまで揃えて育てたから辞められるのは非常に勿体ない。


 


 偶にはちゃんと凄い場面を見せてやるべきか。勘、僅かに無茶させる、師匠として尊敬をさせる。いつもと同じことばかりしても劇的な変化はないのかもしれないな。年の功、親としての何気ない言葉を少し修行に反映してみるか。


 


 


 ◆◆


 


 


 


「勇者さま、僕もっと強くなりたいです」


 


 ウィルと修行をしていると彼がそんなことを言って来た。


 


「今まで、それよりももっと強く、激しく、高みにもっと上りたい。修行の回数が増やせないなら、もっと厳しく、して欲しいです」


 


 


 丁度いい、父と母に言われた事を試してみようかと俺は思った。そもそも俺に指導者としての器量が元からあったのか、分からない。案外適当に、思い付きでやることで良い事があるかもしれない……、かもしれない……。うん、まぁ、何かあったら介入してすげぇ師匠面してやるか。


 


「実は最近、幼馴染のメンメンが魔法を使い初めまして……既に二階梯使えます」


「ほう」


 


 マジか、割とすごいな。ウィルの幼馴染。


 


「エルフの国で僕が回復魔法を使えると言ったらしいのですが……それがきっかけらしいです」


「そうか」


「でも、そもそも僕はそんなことを言った記憶もなく……更に僕は知らないはずの人の名前も知っていたとかで……いえ、そんなことはどうでもよかったです。兎に角、強く、なりたいです! もっと、あの国で四天王、魔族を見て今までの僕では何も成しえないと確信しました。だから、誰よりも強くしてください!!」


 


 


 良い度胸だ。少し、無茶ぶりをしてみるか。獅子は我が子を谷に落とすとか言う言葉もあるし。


 


 


「よし、では今日の訓練は……ギルドに行って、その日発注されている任務から、最も強いモンスターを討伐をして貰おうか」


「……分かりました」


「偶には俺が教えなくてもいいだろう。自分で俺が何を課しているのか考えてみろ」


 


 


 結構無茶ぶりしているけど……、ウィルは大丈夫だろうか。一応、心配なので鉄仮面を外して彼の後を追う。ポポの町に到着するとギルドで彼は任務を選んでいるようだった。


 


「リザードマンの討伐……」


 


 


 いや、それは無理だろう。俺は思わず、心の中で突っ込んでしまった。絶対無理。今のウィルには絶対に無理だ。


 


 リザードマンは1メートル半の巨体を持っているデカイトカゲのイメージ。だが、知能が高く、剣と盾を持っている。二つの武器は人間から奪ったのを使っている場合は、何らかの自然現象で発生した天然の武器を使っている場合、または自身で自然を加工をして作っている場合がある。偶に素手の奴も居るが、大体なんか持っている。


 


 あのモンスターは頭が切れるし、戦いをかなり理解している。その上で単純に強い。明らかに領分を超えてしまっている。


 


 無茶ぶりをしてしまった俺の責任でもあるかもな。これは後ろからコッソリ現れて、凄い師匠ムーブで尊敬される路線で行くとしよう。


 


 ウィルは依頼を受けて、走り出した。近くにある林にて個体が確認されたと言う事だが……あ、居た。


 


 リザードマンをウィルも俺も発見。しかも、持っているのが魔剣、更には普通のモンスターよりも強個体の赤色のリザードマン。


 


 


 ウィルは臨戦態勢に入る。俺もいつでも助けられるように待機する。さてさて、ウィルがどこまで喰い下がれるか……


 


 あ、ウィルが吹っ飛ばされた! 助けないと……


 


 


「まだ、まだ」


 


 


  どうやら、まだ行けるらしい……、もう少し様子見するか。また吹っ飛ばされる。今度は木の幹に背中をぶつける。これは流石に助けないと……


 


 


 


「まだまだ!! 僕は諦めないぞ!」


 


 


 そ、そうか……どうやらまだまだ闘志は死んでいないらしい。もう少し裏で様子見するか……。


 


 見ていると、ウィルの剣とリザードマンの剣が交差する。しかし、相手の剣は魔剣、普通の剣とは違う。魔法や特殊な効力が付与されている。だから、拮抗はせずに今度は剣が破壊される。


 


 


 これは流石に助太刀に……


 


「うぉぉぉぉぉぉぉ!!!」


 


 


 まだ、行けるのか……、そうか……。あんなに咆哮されたらまた見守るしかないな。


 


 


 ウィルはそのまま魔剣を持つ手を掴んでそれをリザードマンの首元に刺す。グシャっと音がして、生臭い匂いがして、血が彼の体に降りかかる。


 


 


「はぁはぁ」


 


 


 大分疲れてるな。しかし、これでリザードマンは倒せて……


 


 


「ぎゃややあああああああああああ!!」


 


 


 倒せてないようだった。辛うじて喉を斬られても生きていたリザードマンがウィルに襲い掛かる。これは流石に助け……


 


 


「うぉぉぉぉぉ!!!!!!」


 


 


 魔剣を奪い取って、リザードマンに彼は止めを刺した。


 


 


「か、勝った……僕は……。本当にギリギリだった。まさか勇者様は紙一重の存在と僕を戦わせたのか……」


 


 


 いや、勝つんかい。負けると思ってた……。ウィルが色々言っているが正直勝てるとは微塵も思っていなかったから素直に驚きしかない。


 


 


「ギリギリの戦い、寸分たがわぬ実力差の極限の戦いを再現することで高い経験値を……」


 


 


 そう言う事にしておこうかな。正直十割負けると思ってたぁぁ。


 


 


 ウィルは血だらけのままギルドに帰還をした。


 


「きゃあああああ!!」


「うわぁあぁあああ”””」


 


 リザードマンの返り血をどっぷり浴びているウィルを見て、町の人たちは酷く怯えていた。まぁ確かに見た目えげつないけどさ……


 


 


「あの、そのお帰りなさい……」


「ただいま戻りました。依頼完了です。その魔剣を持っていたのですが……」


「それはウィルさんがドロップしたので使っていただいても宜しいかと、それより返り血を洗い流された方が……」


「あ、そうですね……すいません」


「まぁ、それは後でして頂くとして……ウィルさんは先日ホワイトゴイガーを討伐、更には今回はリザードマンも討伐されていらっしゃるので……冒険者のランクが一気にFから、Dに昇格します! これは凄い事なんです! こんなに速くランクが二つも上がるのは今まで類を見ません!」


「お、おー! ありがとうございます!」


「はい、返り血を洗ったら手続きがあるのでまた、ここにいらしてください」


「はい!」


 


 


 あ、一気にランク二つ上がったんだ、おめでとう。周りの冒険者とかも凄い驚いている。


 


「マジか」


「魔剣を持ったリザードマンまで討伐するのか」


「俺は分かってたぜ、アイツが凄まじく成長するのは」


 


 


 鉄仮面を外してウィルの話をこっそり盗み聞きをしていると、肩をポンポンと叩かれた。振り返ると、このギルドの、ギルマスであるトールが居た。


 


「私には最初から分かっていたよ、ウィルと言う少年が大器晩成型であると言う事が」


「あ、そうですか」


「いやはや、思い出すよ。勇者ダンが冒険者登録をした時の事を……。もしかしたら……ウィルと言う少年は勇者ダンを超えるかもしれないね」


「なるほど」


「君も彼に負けないように頑張ってくれたまえ。週一のギルド活動では中々ランクは上がらないぞ」


 


 


 まぁ、弟子の修行で週七の内六日が潰れるからね。しかも、偶に騎士の学校にも非常勤だし……週一しかバンとしては行動が出来ないんだよ。


 


 


「ウィルに教えを乞うのも悪くないだろう、才能ある子に色々と聞くのをお勧めする」


「なるほど」


「それと、今度、七聖剣が主催の戦士トーナメントと言う催しがある。これで優勝をすれば、なんと七聖剣の一人と戦う権利が与えられるのだ。参加はしなくとも見るだけでも勉強になるから、是非行ってみると言い」


「あ、はい」


「では、私はこれで……君も頑張ってくれよ」


「はい」


 


 


 


 ウィルに教えを乞うって……俺が教えてるんだけど……否定する必要も無いか。ただ、戦士トーナメントは興味あるから行くだけ行ってみようかな。どうせ、ウィルもユージンも参加するだろうし。


 

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