Ladies & Gentlemen

ピカ様のショー。

母親視点


 光宙には随分と世話をかけた。私が世話したのと同じくらい世話をしてもらったのかもしれない。情けなくて申し訳なくて嬉しくてありがたい。


 私が病気だと発覚したのはこの子が6歳の頃だった。初めはお客さんに渡すポップコーンをよく落とすようになったことだった。おかしいぞとなって、徐々にできる事ができなくなっていった。いくつかの病院を回ってついにその診断を受けたときはこの世の終わりと思った。唯一の救いは、遺伝子検査をしてこの子には遺伝しなかったことだ。


 サーカス暮らしというのはとにもかくにも元気が必要で、動けない自分がお荷物になっていることが非常に心苦しかった。あるお医者様が非常に親身になってくれ、巡業先々の病院を紹介してくれ相談にものってくれたので随分助かった。

 でもいよいよ数年前に日常生活が難しくなって、故郷である大阪に帰ってきた。


 光宙はカチューシャとのことでネットでいじめられて、お客さんにも心無い言葉を投げかけられたようだ。私のことで心労もあったのだろう。それでも辛い顔せず頑張っていたけれど、やがて落下事故をしてしまった。


 そのため旦那と散々話し合って、光宙と大阪に帰ることにしたのだ。少しサーカスから距離を置いてもいいんじゃないかと。


 だが、サーカスから距離を置いてもやはり私が枷になってしまった。嫌なことを忘れて学校生活を楽しんで欲しかったのだが、朝は登校前に病院に来て、放課後は真っ直ぐに病院に来て。

 バカなことばっかり言って私を笑わせようとするのだった。やがて私は顔の筋肉を動かすのも難しくなったのだけれど、笑わない私をそれでもこの子はずっと笑わせてくれた。


 ある時、スマホのアプリを見せてきた。すごく嬉しそうにしていた。それを使って私を撮ってくれた。こうすると私の顔が笑顔になるのだと。久しぶりに自分の顔も笑ってる顔も見て、本当はこんな顔でいつも笑いたいんだよっていうのが伝わればいいなと、その時は少し泣いてしまった。そして、その時奇跡的に私の顔が少し笑ってくれたらしい。親子で笑いながらヒクヒクと泣いた。


 それから程なくして、私は夫や息子、それにサーカスのみんなに見守られて息を引き取った。とてもとても苦しんだけど、とても幸せな最期で最高の人生だった。



 それでも死んでも死にきれなかった。



 光宙が心配で心配で仕方なかった。



 だからこうして今もまだここにいる。

 のかなぁなんて思ってる。理屈はよく分かりません。ネットで調べろ!



 私が死んだ後、光宙は自分も一緒に死のうとしてるのかってくらい無気力だった。ご飯すらもまともに食べなかったし、何よりそれ以降今に至るまで、一度も笑顔を見せてくれない。おいおいちょっと私のこと好きすぎるでしょマザコンに育てすぎてしまったなどと親バカしてる暇もない。


 だからこうなんかこう、気合いで、ふんってやって囁きかけて幽霊パワーで外に呼び寄せてやった。案外いけるものらしい。そしたら、いつもの公園で姿を見せたのだ。まさか見えるとは思わなかったが、霊感あったのね息子よ。息子は私のことを頭がおかしくなって見えるようになった幻覚と呼ぶが、もしかしたらそうなのかもしれないけど、それでもいい。


 とにかく、このバカ息子はサーカス生まれサーカス育ちのサーカスバカなのだ。身体を動かしてれば元気になるでしょと、私に会いたければこの公園に来なさいと言ってやった。

 そしたらこのマザコン野郎、毎日毎日練習しにきやがんの。いつかサーカスに復帰するかもしれないからとか嘯いちゃって。ならさっさと戻ればいいのに。ほとぼりもそろそろ冷めただろうに。


 でもそれだけじゃ元気にならなかった。公園では少し明るさを取り戻したけれど、跡をつけて(幽霊だから余裕!)家に帰ると陰気な顔でしんみりしてやがる。

 だから夏休みも終わることだし学校に行けとぶん殴ってやった。すり抜けたけど。


 それからは何があったのかどんどん明るくなっていって、いつもの光宙にだんだん戻ってきた。


あともう少し。


あとは笑顔とサーカスが戻れば安心して親離れ、いや、子離れできる。


 2年ぶりくらいにようやく、待ちわびた光宙の舞台の幕が上がる。



 そのはずだったのに、幕しか上がっていない。舞台に一人で立つ光宙は、ただ立ち尽くしているだけだ。お客さんがざわつき始めてしまう。それによって余計に光宙の顔は青ざめ、やがて舞台袖に引っ込んでしまった。


 いてもたってもいられず立ち上がる。

 あんな悪口言う奴らなんか私が悪霊になって呪い殺してやるから、だから心配せずに思いっきり楽しんでいいんだよ。


 幽霊なのをいいことに、ステージの方に歩いていき、舞台袖を覗き込んだ。


 そこには、クラスメイトに心配されている光宙がいて。でもとうの本人は呆然と背景ボードの裏側を見つめている。


 息子は駆け出した。隣の私なんかに気付きもせず、帰ってきてすぐ友達の家に遊びに行くような顔で周りに何かを伝えると走り出した。


 同じものを見てみると、沢山のピカチュウが描かれている。下手なのも上手いのも、カラーも黒線だけなのも、大きいのも小さいのもいろんなところにいる。

 その中の一匹、しっぽがハートマークになっているピカチュウに吹き出しが書かれていた。


『2年B組みんなで最高の舞台(サーカス)にしよう!』

そして小さく

『がんばれ』

と、なんだかすごく気持ちが伝わってくる文字があった。



 ああ、私の役目は終わったんだな。


 嬉しいけど、でも少し寂しいな。


 せめてあともう少しだけ。生きてるときあれだけサボったんだから今くらい頑張ってよ。

 もう少しだけ息子の勇姿を見せて、私の身体。







大人しく座席に戻ってきた。

最初はガチガチだったけど。

ここにいないあの頑張れの子に勇気をもらって

背中を押され、さぁショータイムだ。


 再びあの子は無言で舞台の中央に立っている。だけどもう先ほどとはワケが違う。客席は皆その姿に惹きつけられている。




「レディーーーースエンジェントルマン!」


 一人にスポットライトが当たる。

 どこから持ってきたのか、スーツを羽織ってハットを被っている。

 リングマスターは我が息子。

 それはショーの開幕を告げる案内人。

 


「Smileの花がどうか皆さまの心に咲きますよう今から夢のひとときを提供いたします

私の役目は耕すこと。笑顔の準備体操を一緒にしましょう!」


 スポットライトが消える。

 薄暗闇の中、舞台袖からマットを引っ張り出してきて、それから誰かを連れて来たのが分かる。

 それから数秒。

 照明が一斉に灯る。


 舞台には四人の男の子が。


「「「行ってこい!!!」」」


 三人の手が中央に集められ花開くように、そこに乗っていた息子を高く飛ばしてみせた。


 宙に舞い上がり、横にも縦にも何度も回転して、着地してみせた。


「行くぞ!!!!」


 叫ぶと、音楽が鳴り響く。

 スーツを投げ捨て、飛ばしてくれた男子の一人から帽子を借りると、それを客席に向かって投げ飛ばした。 

 それは弧を描いて投げた人間の手元に戻ってきた。


 それを、カチューシャは睨みつけるように見ていた。でも、その目は濡れていた。

 おかえりバカ、だって。大好きなくせに。

 真っ先に拍手したのはカチューシャだった。大きく腕を伸ばして精いっぱい音を鳴らす。

 続いてうちの旦那が、それよりも一際大きく拍手を打ち鳴らす。

 私だって聞こえもしないだろうけど力いっぱい手を叩く。


 それにつられるように客席から徐々に拍手が集まり、体育館を満たした。


 そのまま、音楽に乗せるように拍手は手拍子に変わっていく。



 サーカスが始まる。

 



───────ここクライマックスなので5000でも1万字でも、ありったけ書くこと。───




 公園のちびっ子、ロコンの弟のタッツーは指笛で応援してくれる。

 ジャグリング、皆が思い思いの玉を投げてくれる。

 ピンポン玉でもジャグリング。今旗も呼ぶ。受け取って投げ返してくれる。次は口からピンポン玉でジャグリング。吹き出して今旗にパスをするが避けられる。傷ついてもう一回とやるが、次はラケットを持っていた今旗がスマッシュを決めてくる。ウケる。

 早着替え。クラス中の男子のTシャツを集めて。最後は裸になって、慌てて服を着ようとして着れなくて一笑い。

 フラフープ

 倒れてくる壁

 どこかのクラスからもらってきてくれた風船でバルーンアート。細長い風船で作った弓を引いて見えない弓矢を撃って、一人が持ってる風船を割る。実際は持ってるやつが針で刺してる。(バレバレでいい)。客席から一人呼んで同じことをさせる。しかし客の撃った弓矢は持ってたやつに当たって死んだふりをされる。怒る。もう一回やれ。次はピカが風船を持つ。もう一回撃つ。倒れてるやつの頭上で割ったからびっくりして起き上がる。

成功。みんな笑いと拍手。


 カチューシャを呼ぶ。

「出演料高いわよ」

「働いて返すよ」

「だったらいいわ」

二人でパフォーマンス。寝転がって足の上に乗せて、その上で倒立したり回転したり。


その他今まで関わり合ったクラスメイトにも手伝ってもらう。


 最後、体育館の後ろの扉からようやくお姫様がやってくる。


安堵。

ラストに帽子をもう一度投げる、が、大きく風が入り込んで落ちてしまった。

それは母親の手に落ちてきた。

「カッコよかったよみつひろ!!」

投げ返す

帽子を受け取ってお辞儀。

ここでピカ初めての笑顔

じゃあ先行ってるね

隣の何かを察した夫と手を繋いでそして消えていった


───────


主人公視点

そして最後、真打ち登場。ようやく深山が帰ってきた。

さて、それでは次を最後に引かせてもらって今度こそ物語を始めましょう。

舞台の名前はシンデレラ。そしてお姫様は今やってきました。

どうぞこちらに。

舞踏会でシンデレラは王子様とダンスを踊ります。こんな風に

「言ってたよな」

「何を」

「空を飛ばせてやるよ」

最後に深山をぶん投げる。

見事キャッチ。お姫様だっこ。

満面の笑顔。

キスのフリ。

「こうして惹かれ合った二人。しかし魔法が解けそうになったシンデレラは逃げてしまいます。ガラスの靴を残して。」


それでは皆さんお楽しみください。

年組シンデレラ新喜劇

一礼。

幕が降りる。

盛大な拍手。

舞台袖でもみくちゃに

「じゃあ行ってくるよ」

こんなに盛り上がってちゃ下手な芝居出来ないね


こうして大成功で幕を閉じた。

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