第29話 過去編 源翁心昭 可毗禮山 其八

 九尾の狐の支配から逃れたおりんは、五平の腕の中で眠りに落ちた。五平はおりんの首を持ち上げたまま、手拭いでおりんの頬を伝った涙を拭いている。

 そのおりんの寝顔は、あの鬼のような形相で攻撃してきた少女と同一人物とはとても思えない屈託ないものであった。それを見ながら、ここで万が一にもおりんに何かあってはいけないと、私は極めて冷静に現状を分析する。

 普通に考えれば、おりんは、今たまたま九尾の狐の支配から解き放たれた状態であり、状態としては極めて危険で、何らかの手を打たなければならない状況だと思える。

「五平どの。妹さんをそこに寝かせてください。もう少しきちんと診なければなりません」

「は、はい」

 五平は、寝転がっても痛くならいよう少し深い草むらにおりんを寝かせ、苦しくならないように膝枕をした。

 私も何かあってもすぐに対処できるよう、袋からお札を一枚と自作の木彫り人形を一つ出した。木彫り人形は、私が道中簡易的に作ったものなので、本当に人の形をしているだけの人形だ。


 さて、あの九尾の狐がおりんに何もしていないとは思えない。一番まずいのは彼女に呪をかけている事だ。いや、十中八九かけているはずだ。何しろこのおりんは、九尾の狐の依代に選ばれた人間なのだ。


 源翁はおりんをじっと見た。今のところ表面上変わったところはない。おりんは寝息を立てて目を瞑っている。

 それでも、私は彼女は意識を失っているだけで、九尾の狐の影響下にあるのだと思う。恐らく九尾の狐は、おりんが私に負けるという想定はしていなかったはずだ。自分が手を下すまでもなく敵を駆逐してくれると考えていたならば、おりんにはかなり強い呪がかかっている事が想定される。


 その呪を確実に取り除こう。源翁は心に深く誓った。逆に言えば今この瞬間をおいてしかおりんを解放する機会はない。


 右手をおりんの頭の辺りにかざし、私も目を瞑った。こうしておりんに気を送る事で、何か有害なものがおりんの中にいないかを確かめる。どれだけ小さくとも、今の私なら見抜ける自信はある。

 まずは頭の天辺から。ここにはいない。次いで首。ここにもいない。さて、問題はここからだ。心の臓。つまり胸の辺りに何かいると、実はこれが非常にまずい。頭もそうなのだが、心の中心を呪に巣食われると、呪を剥がしにくいのだ。そして、ここが肝なのだが、呪を剥がし損ねると最悪の場合死に至ってしまう。状況なってしまう。


 私は掌を胸の辺りにかざした。


 いた。ここにいた。黒い何かが、おりんの胸の辺りにいる。

 私はより多くの気を送り込んでその詳細を調べた。黒い何かは、九尾の狐の魂の一部のようだ。それがおりんの心の臓にくっついていて離れそうもない。無理に剥がそうとすると、心の臓が耐えきれなくなる。従って、これを無理に剥がす訳にはいかない。

 展開としては最悪の部類だ。源翁は、一瞬天を仰いだ。

 それでも、どうすべきかを必死に考える。手元にあるのは、お札と木彫りの人形。そして、近くに九尾の狐がいる以上、今すぐにでもこの状況を打破しなくてはならない。


 源翁がおりんに手をかざしながら渋い形相をしている。

 普段ほとんど表情を崩さない源翁が、このような表情をしているのだから当然良からぬことがあるのだろうと、五平は平常心を失いかけた。それでも、自分が取り乱したところで事態は改善しないと思い直し、悪い予感を何とか心に押し留めて、源翁からおりんへと目線を下ろした。

 おりんは、相変わらずスースーと寝息を立てて横になっている。

 さっきまでのおりんは、何かに魅入られたように全くの別人だったが、この安らかな寝顔は元のおりんだ。しかし、源翁の表情を見れば、まだ一難ありそうに感じるのだ。おりんは、どうなってしまうのか…五平は居ても立ってもいられず、もう一度源翁の方を見上げた。すると、目を瞑っていた源翁がゆっくりと目を開けた。


 心配そうな顔をこちらに向けている五平が、源翁の目に入った。


 この五平の顔を見るに、私は相当困った顔をしていたのだろう。もう少し冷静な表情をすべきだったと反省しつつ、源翁は五平に分かった事を詳しく説明することにした。

「五平どの。今の状況を説明します。妹さんの魂に九尾の狐の魂がくっついてしまっています。これを無理に剥がすと妹さんの魂が持ちません。そこで、一案あるのですが、聞いていただけますか?」

「はい。もちろんです。お願いします」

 五平にはどうする事もできないので、兎に角源翁の話を聞くしかない。

「今のままですと、次に妹さんが目を覚ました時、先ほどのように私たちを攻撃してきます。これは、九尾の狐の魂が妹さんの心に巣食っているからです。たった一つ解決する方法があるとすれば、私が九尾の狐を倒す事です。それしかありません。しかしながら、その途中で妹さんの目が覚めてしまった場合、それがうまくいかなくなることも考えられます。そこで、一つ提案があります」

「な、なんでしょう?」

 思わず五平は拳に力を入れた。

 心構えを見たい源翁も、五平の顔をじっと見る。青白顔をして、唇が震えていたが、五平の目には力があった。私の言葉の衝撃をなんとか受け止めようとする意思を感じる。

「まず、この木彫りの人形に、九尾の狐の魂がくっついた妹さんの魂を封じます。そうすれば、妹さんはこの状態で目覚める事はありません。ただ、再び妹さんの身体に魂を入れなければずっとこのまま———そう。未来永劫ずっと寝たままです。そして、ここからが重要です。私が九尾の狐を祓うと、妹さんの魂にくっついていた九尾の狐の魂が剥がれます。その状態になった妹さんの魂を妹さんの身体に戻します。そうすれば、妹さんは元に戻ります」

「ほ、本当ですか?」

 五平に選択の余地はなかった。そうしてもらうしかないし、鬼の形相で訳の分からない術を使うおりんには戻ってほしくはなかった。源翁は信用できる。生きて再びおりんに会えるのなら、この僧にかけてみようと思えた。

「では、お願いします。おりんは私が責任を持って面倒見ます。ですから、一旦おりんの魂を抜いてください」

 五平は深々と頭を下げた。おりんの頭を包んでいる手の小刻みな震えが止まらない。

 本当のところ、五平の心の片隅には、おりんが一生寝たままになるかもしれない事に対して蟠りがあった。しかし、源翁が九尾の狐に勝てなければ、日本は闇に沈む。そうなれば同じ事だろう。そう思うと、その蟠りもスッと消えた。

 源翁は五平の心の変化を感じた。そして、自分を信じてくれた五平に感謝をした。

「承知しました。このやり方は私が九尾の狐を倒して初めて成立するやり方です。この機会を逃せば、妹さんは、九尾の狐の支配下に置かれ、九尾の狐の依代になってしまう可能性が高いと思います。現状こうするのが得策だと理解して下さい。

 では、そのまま妹さんを抱きかかえていて下さい」

「はい」

 木彫りの人形をおりんの前に置き、源翁は悪魔祓いの経を唱えた。

 経が進むにつれて、おりんの顔が苦しそうに歪む。五平は早く終わってくれと願いながら、おりんを強く抱きしめた。しばらくすると、おりんが痙攣し始めた。歯を食いしばって何かに耐えている。

 

 悪魔祓いの経が効いていると感じた源翁は、唱える速さを増し、より強く声を張った。


 私はしばらく経を唱え続けた。すると、おりんの心が揺れるのを感じた。これは、おりんの心の臓に張り付いた呪と彼女の魂が、彼女の身体から分離し始めた事を意味する。

 来た!と思い、経を最後まで言い切ると、私は丹田で練ってきた気を発して「はっ!!」と叫んだ。同時に両手をおりんの胸の辺りに翳す。両掌から出した退魔の術式の乗った気が、おりんの心の臓に染み込んでいく。おりんの胸の辺りに私の気が行き渡ると、とうとうおりんの中から何かが飛び出した。

 それを見た私は、瞬時にその何かを目の前の木彫りの人形へと飛び込ませた。

 五平が「ひっ!」と言っている間に、おりんの力が完全に抜けた。手はだらりを下がり、全体重を五平に預けた。

 私はすぐさま木彫りの人形を拾い上げ、手に持ったお札をその人形に貼り付けた。


 おりんの魂と九尾の狐の呪の気を、木彫りの人形の中に感じる。なんとかうまくいったようだ。


 源翁は、額に滲む汗を袖で拭いた。

「ふう。これで妹さんの魂はこの人形に入りました。私が九尾の狐を倒した暁には、九尾の狐の呪は消えます。そして、純粋なおりんの魂をまた本人に入れ直します。若し、九尾の狐を祓ったものの、私が力尽きて五平どのの元へと戻らなかった場合は、この人形を持って能登の總持寺に妹さんを連れて行って下さい。そこにいる僧達が妹さんの魂を元に戻してくれるでしょう」

 私が相打ちになる事は想定しておかなければならない。しかし、私が負けた場合の話はしない。日本古来からの言霊信仰もあるが、おりんが九尾の狐と同体になる事を意味しているからだ。そうなれば、おりんはおろか、日本という国そのものが危機に瀕する事になる。

「では、九尾の狐の元に参りましょう」

 私がそう言うと、「分かりました」と言って、五平はおりんをおぶった。

「もう少し進むと高台が見えます。お堂はそこに造られています」

「では、あと少し案内お願いします」

 五平は吹っ切れた顔をして、「もちろんです!」と言ってくれた。


 私たちが暫く山道を歩くと、林の向こうに高台が見えてきた。その高台には、ここに来てからずっと感じていた九尾の狐の闇が充満しているのを感じる。 


 ああ、あそこに九尾の狐がいるのだなと、当たり前の事を私は思った。


 世界で最も優れた生物に会いたいという単純な願望もあるが、何より私たちに残された時間の少なさが気になる。だから、私はすぐにでも九尾の狐と相対したかった。自分の身体の事もある。ここまで致命傷になりそうな傷を何度も負い、一時は目も喉も使い物にならなくなった。今でも裂傷は治りきらず満身創痍だ。

 しかし、本物の九尾の狐は魂の状態だ。それを考えれば、私の負った傷や疲労はまるで関係ない戦いになるはずだ。


 そして現状、戦いの神様は、九尾の狐に微笑んでいない。


 何故なら、九尾の狐がおりんに憑依していなかったからだ。完全体の九尾の狐には、どんな策を弄しても勝てる見込みはない。しかし、今なら見込みはある。

 逆におりんは私たちの勝利の神となっているなどと思いながら、私は五平の背中に顔を埋めるおりんを見た。

 おりんは、ぐったりとしているが、時折見える頬は赤みを取り戻していた。あとは私が瑞々しい魂を戻すだけだと励みになる。


 そして、とうとう私たちは高台の下に来た。


 高台に着く前にも襲撃があるのではいかと、怪異に警戒して備えていたが、結局、目ぼしい怪異は現れなかった。要するに、九尾の狐も私に興味を持ってくれたのだろう。つまらない怪異に私を殺させるよりも、自ら殺したいと思っているのかもしれない。

 高台の下には、五平のいる集落以外では見られなかった人の手の入った山道があった。その山道の周囲は、草や木や石が綺麗に取り除かれ、道はぬかるんでも滑らないように土が固められていた。驚くのは、山道だけでなくその周囲さえも手入れされていた事だ。

 山道の両脇は、見栄えがいいように刈り取られ、季節の花が咲いている花壇すらあった。今、その花壇には薄雪草が白い花を咲かせている。土の道の先は石段が真っ直ぐ伸び、石段の両脇には、誰が点けたか一段ごとに篝火が焚かれていた。

 これだけ見ると、どこかの由緒正しい神社に来ているような気分になる。

 五平はここを見慣れているからか、私とは違う驚きを口にした。

「か、篝火があります。こ、こんなところに人が?」と、五平は首をひねった。

「この篝火は妹さんが点けたものでしょう。そして、海燕という修験がこの辺りの整備をしてくれたのですね。彼は自然を愛していたようです」

 源翁は花壇に手を合わせた。薄雪草の綺麗な花が風に揺れ、重苦しい私の心を軽くしてくれた。


「ここから先は私が先を歩きます」

 私は覚悟を決め、五平の前に出て、ゆっくりと石段を上がった。おりんを背負った五平も唇を噛みながらそれに続いた。

 階段を上がる度に、黒い気の威圧感が増していく。まだ何も見てもいないのに押し潰されそうな気分になる。二百年前の『獣狩り』たちは、これよりも数段凄い気を持つ九尾の狐に立ち向かい、見事打ち破ったのだ。その強さはやはり私の想像を遥かに超えている。

 身体が震え、ビリビリと肌が痺れる。上にいるのは、間違いなく、世界の破壊者と言うに相応しい九尾の狐だ。


 とうとう、私たちは階段を上がり終えた。


 目の前には、ここが山の上とは思えない平地があった。あの集落よりも広いかもしれない。

 石段から先には、雑草ひとつ生えていない平坦な土の広場で、銀杏、桜、クヌギ等々の木が高台の端に植えられていた。木に囲まれた無人島とでも言えば良いのかもしれない。確かに、この場所は断絶された世界を感じる。修験が世間を離れて修行をするには、とっておきの環境であると思える。


 そして、あれがそのお堂か。と、私はしばし奥にあるお堂を眺めた。


 縦横に三十尺ほどの平地の奥には、こぢんまりとした木造のお堂が鎮座していた。

 お堂は海燕一人で造ったにしてはきちんとした造りで、あれなら雨も風も防げるし、火を焚けば寒さも防げるだろう。よくも海燕は、たった一人でこのような山の上に平地を作り、これほど立派なお堂を建てたものだと感心する。彼は相当の手練だったという事だ。

 そのお堂の入り口の前にも、左右に篝火が焚かれ、炎がゆらゆらと揺れている。まだ日があり明るいというのに、炎がある事で何故かお堂の周りだけ夜の雰囲気が漂っている。怪異は夜にこそ力を発揮できる。九尾の狐ほどの怪異になれば関係ないだろうが、それでも夜を感じるようにしておきたいのかもしれない。


 お堂の中には、もう口では言い表せないほど禍々しくて大きい黒い気の塊がある。


 私は恐怖を半減させようとして、自分に言い聞かせるように五平に声をかけた。

「五平どの。九尾の狐は確実にあのお堂にいます。若し、私が朝までに戻らなかった場合、九尾の狐が復活したと考えて下さい。昼になったらこの山を降り、九尾の狐が日本中を戦火に巻き込むと、この山の外に暮らす人々に伝えてください。そうすれば、その報がすぐに全国に広まりましょう」

「分かりまし…いえ、絶対にそんな事にはなりません。源翁さまはここまで死なずに来れました。だから大丈夫です。私は源翁さまがお堂を出てくるまで、この場で待ちます」

「ありがたい言葉頂戴します」

 実際、ここまで来れたのは奇跡ではあるし、五平たちに助けられたからでもある。散々怪我も負わされ、もう駄目かと思った事も一度や二度ではない。それでもここに辿り着いた。私は、この幸運に感謝し、人生最後の究極の祓いを完成させようとお堂に手を合わせた。

 そして、顔を上げ、五平と向き合った。

「あそこの木の下で待っていて下さい。そして、私が朝までに戻らなかった際は、先ほど言った通りの事をすぐに実行して下さい」

「…分かりました」

 そう言うと、五平は高台の端に立っている銀杏の木へと、おりんを背負って歩いて行った。私もその後をついて行き、銀杏の木の周りに結界を張った。これで怪異が五平を襲うことはないだろう。

 懐から出した数珠を握り、後ろを振り向くと、お堂の禍々しい空気が濃くなっている。闇が支配するお堂は、九尾の狐の邪気で黒く見える程で、まるで別世界のようだ。早く来いと言っているのだろう。

 私は覚悟を決め、お堂へと足を踏み出した。

「ご武運を」

 後ろから五平の声が聞こえた。

 私はもう後ろを振り返らず、「有り難くお言葉頂戴します」と言って歩みを進めた。


 ここから先は、現世とも黄泉ともつかぬ世界になる。常識は一切通じない。


 かつて越後国で鬼と化した怨霊を祓った時も、私は彼等の世界へと引きずり込まれた。そこから生還して学んだ事は、最後まで自分を信じ抜くことが何よりも大切だという事だ。鬼に惑わされ、怪異に左右された仲間たちは、例外なくその世界で散った。大きな怪異は必ず自分の世界を持っている。その世界の中で、私は悲しい別れを何度もしてきた。

 その経験があるからこそ、これから誘われる世界でも、私は戦える。

 私は数々の怪異から自分を守り、支え続けてくれた数珠を更に握り込み、今回も頼むぞと念じた。不思議とこの数珠なら守ってくれそうな気がする。この数珠をくれた僧が美人の尼僧だったからかもしれない。

 

 お堂まであと数歩という場所まで来た。


 森の匂いはかき消され、闇の匂いが濃い。そして、闇の匂いはどこか腐臭めいていて気分が悪くなる。怪異の敵は人間だけだ。他の動物を脅したところで面白くないし、恐怖を無常の喜びと感じる怪異にとって、人間が恐怖してこそ自分達の存在意義が出るからだ。だから、闇の匂いは人間にとって嫌な匂いになるのだ。


 とうとう私はお堂の前に立った。


 すると、私を待っていたとでもいうように、お堂の引き戸がゆっくりと開いた。

 中に入れということだ。九尾の狐が外へと出てくるつもりは毛頭ないようで、中で勝負をつけようと言うことらしい。当然私もそのつもりではあったが、やれやれと言いたくなる。

 私は、その誘いに乗って、ゆっくりとお堂へと入った。

 腐臭じみた匂いが一気に増した。鼻が曲がりそうになったが、終わってから数日経った戦場の匂いに比べればまだ我慢できると、そう思い込む事にした。

 中は灯りがなく、明かり取りの窓も無いので非常に薄暗い。そして、どこを見ても誰もいなかった。やはり、九尾の狐に実態はなく、魂の状態なのだろう。

 お堂は狭いものの、床も壁も丁寧に皮を剥いてあり、棘を気にする事なく過ごせる造りだった。入り口から十三、四尺離れた最奥には、二段の平板で作られた祭壇があり、上段の真ん中には、注連縄を巻かれた大きな黒い岩が鎮座していた。海燕がここに運んだのだろう。恐らく彼は、賀毗禮山の祭神の依代としてこの岩を選んだのだ。修験は山の神様を非常に大事にするので、神道式に祀ったようだ。下段には、山菜と木の実、見たことのない赤い花が供えられていた。かなり新鮮なので、これはおりんが摂ってきた物だろう。

 突如、この祭壇の前にとてつもなく暗い存在が蠢いた。とうとう奴が来たのだ。そして、後ろで扉が静かに閉まった。それはつまり、現世との境界が締められた事を意味する。もう後戻りはできない。ほとんど真っ暗で何も見えないが、強烈な闇の力がすぐそこにあるのだけは分かる。


 あの九尾の狐が私の前にいる。

 

 全てはここからだと、私は手印を作り、一歩を踏み出した。

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