14.思ってた女子学生生活と違うんですけど! お願いだから放っておいてください!

「見て、アイリーン様よ」


「いつ見ても素敵ね」


「キース王太子殿下から熱烈なアプローチを日々受けていらっしゃるらしいわよ?」


「きゃあ! うらやましいわ! 毎日千本の薔薇が届くって噂よね!」


見られている……。あと、千本はない、千本は。せいぜい100本で……。


「それにクライブ副騎士団長様にも守られて……。本当に騎士とお姫様みたいね。小説のワンシーンみたいだわ!」


「姫と騎士の叶わぬ恋? 三角関係? きゃあ! 何だか私興奮してきましたわ!」


「甘い甘い。バスク様だってアイリーン様をお慕いされているともっぱらの噂よ!」


「まぁ、でもご姉弟きょうだいなのでしょう?」


「義理だから全然オッケーですわ!」


「それはオッケーですわね! ああ、禁断の四角関係ですね! 本当に羨ましいわ!」


私は全然嬉しくないんですけど⁉ ていうか、お願いだから代わってくださいませ!


私は通学路で遠巻きに見られたり、きゃあきゃあと言われながら、その中心を歩いていた。


なぜか私が歩くと、他の女子学生の御令嬢たちがきゃいきゃいとはやし立てるのだ。


その理由は……。私はギロっと、隣を睨む。すると、


「どうされましたか、アイリーン。不機嫌そうですが。でも、その睨んだ顔も素敵ですよ」


美しい金髪と碧眼で彫像のように整った甘いマスク、そして目じりを優し気に下げながら、その男性は言った。


ドキリ!


って、いやいやいやいや! 騙されませんから! 誰のせいで不機嫌だと思っているんですか! この将来浮気する腹黒王太子め!


私は(いつも通り)キース殿下に意思が伝わらないと知ると、今度はその奥の男性を睨んだ。


「ふっ、怖い顔も可憐ですね。大丈夫ですよ。そのように緊張する必要はありません。どんな敵でも私が一掃しますから」


そう銀色の髪を短くカットしたパープル色の神秘的な瞳をした男性はさわやかに言う。


敵はあなたなんですけど⁉ という叫び声を、衆人環視であることをギリギリで思い出して耐える。若干ひきつった笑みが漏れているのはご愛敬ということで。


と、そこに反対側の男性から声がかかった。


「やれやれ、王太子殿下とクライブ副騎士団長がいらっしゃるから、周囲が騒がしくなってしまっているんですよ。アイリーン姉さんのお世話は僕がしますから、超ご多忙のはずのお二人はご公務に戻られた方がいいんじゃないでしょうか?」


ニコリ、とあどけない顔をした美少年が言った。ルビーのような艶やかな色合いのくせっ毛がチャーミングだ。


「いえいえ弟君・・。やはり私の婚約者ですからね。に面倒をみさせるというわけには行きませんよ。何せ私の婚約者ですからね」


「殿下のおっしゃられる通りですよ、バスク君。断られていますが・・・・・・・・まだ婚約を依頼中の状態ですからね。ところで、それに比べて私は実際に彼女の危機を救っている。ですので、何があってもまた私が彼女の剣となり盾となりましょう」


そして、全員が顔を見合わせた後、


「「「はっはっはっはっは」」」


朗らかに笑う。っていうか、怖いんですけど! 全員が笑顔なのだが、なぜか空間がバチバチバチと音が鳴るように緊張感に満ちていて怖いんですけど⁉


っていうか、バスク、あなたも原因の一人っぽいから! 他人事じゃないんですからね⁉


あー、もう!


「お願いだから一人にしてくださいませ! うわあああああああああああああん!!」


もはや我慢の限界!


私は衆人環視の中ということにも関わらず、涙をちょちょ切れさせながら駆け出したのだった。


「まぁ、痴情のもつれかしら⁉」


「朝から修羅場ですのね⁉ ド修羅場なのですわね⁉」


「羨ましいですわ! まるで戯曲ラブロマンスの一節のようですわ!」


ていうか、他の令嬢たちも相当、頭ピンク色過ぎませんか⁉


私の人生は娯楽じゃないんですよ⁉


ともかく私は彼らを振り切るように逃げ出したのでした。


「お願いですから、普通の女子学生生活を送らせてください!」


そう声を上げながら。


「あっ、アイリーン! そっちは立ち入り禁止ですよ⁉ その森は入り組んでいてっ……!」


後ろから何かを叫ぶ殿下の声が聞こえましたが、私は捕まってなるものかと全力で走ったのでした。


広大な学院の一角を占める森の中へと。

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