どうやら日沖さんと僕の夢は繋がっているらしい

鹿ノ倉いるか

第1話 夢の中の日沖さん

 目の前に現れたドラゴンは学校の校舎よりも少し高いくらいの巨体である。

 しかも炎を吐いて辺りを焼き付くしていくのだから、みんな悲鳴を上げて逃げていた。


 しかし僕は怯まない。

 なぜならこれは夢だから。

 僕が寝ている間に見ている夢だ。

 夢ならばなんだって出来るし、怯える必要もない。


 美術室に隠してあった秘剣『ウロボロス』を手に取り、ドラゴンへと飛び掛かった。


「くらえ、化け物!」


 巨体の上をピョンピョンと飛び回り、弱点である眉間に剣を突き刺す。


「ヴヌオォオオオ!」


 ドラゴンは咆哮を上げ、仰け反った。

 僕はドラゴンの顔から一旦飛び降りて体勢を整える。


 襲いくるドラゴンに電撃魔法を使ったり、弓矢で目を射貫いたりと攻撃の手を休めず攻め続けていた。

 ほぼオープンワールドアクションゲームをしている感覚だ。


「きゃああっ!」


 悲鳴が聞こえて振り返ると、グラウンドで女子生徒がドラゴンの尻尾に押し潰されそうになっていた。


「あっ!?」


 あれはうちのクラスの日沖ひおき鏡華きょうかさんか!?

 学校でNo.1と評される美少女である。


「まずい!」


 たとえ夢でも同級生が殺されるのは嫌だ。

 慌てて駆け寄り、彼女に覆い被さる。


鰐淵わにぶちくんっ!」

「安心しろ。僕が君を守る」

「は、はい! ありがとうございます」

堅守衝撃ガードインパクト!」


 呪文を唱えると光の壁が出来てドラゴンの尻尾を跳ね返した。

 すぐさま大きくジャンプし、ドラゴンの心臓に秘剣ウロボロスを突き刺す。

 ドラゴンは天を仰いで咆哮し、そのまま絶命した。


「大丈夫?」


 慌てて日沖さんに駆け寄る。

 呆然としていた彼女だったが、次第に表情が安堵で和らいでいった。

 夢のわりにリアクションが妙に生々しい。


「もう心配はいらないよ」


 そう伝えると彼女は恥じらうように微笑んで、僕にこう言った。


「いつまで寝てるの! 遅刻するよ! 起きろー!」

「え?」

「お兄ちゃん! 遅刻するよ!」


 目を覚ますと小学五年生の妹の舞衣が僕の上に跨がって騒いでいた。


「なんだよ。いいところだったのに」

「なにぶつぶつ言ってるの! 毎朝起こされるまで寝ないでよね!」


 現実の僕は普通の高校二年生。

 学力も普通、顔も普通、運動神経も普通。

 名前だけ鰐淵空也くうやとちょっとカッコいい、どこにでもいる平凡な男だ。


 今日も寝不足なまま学校に行き、ぼんやり過ごしていた。


(それにしても今日の夢の日沖さんは、なんだかちょっとリアルだったな)


 彼女はうちの学校では知らない人がいないほどの有名人だ。

 頭がよくて上品でおまけに超がつくほどの美少女。

 更には家は大変な資産家らしく、広大な敷地面積の家に住んでいるらしい。


 当然多くの男性が憧れる存在だが、控えめな性格なのでほとんど男子とは会話をしない。

 無理やり仲良くなろうとしても、周りの女子たちに守られているので近付くことさえ出来ないそうだ。


 当然僕も日常会話などはしたことがない。

 あまりに遠い存在過ぎるので意識したことすらなかった。


(なぜそんな日沖さんの夢をあんなにリアルに見たのだろう?)


 体育の時間。

 僕ら男子はバスケをしており、女子はバレーをしていた。

 ネット越しだがすぐ側に日沖さんがいる。

 髪をひと括りにしたその姿も凛々しくて可愛かった。

 夢の中とはいえ、彼女を守ったことがなんだか誇らしくさえ感じられる。


 彼女に見惚れていたそのとき、コントロールミスをしたバスケットボールがネット傍に立っていた日沖さんに向かって飛んでくる。


堅守衝撃ガードインパクト!」


 夢のことを思い出していたので、ついそう叫びながら慌てて日沖さんをガードしていた。

 もちろん現実の僕は魔法など使えず、ボールは僕の頭を直撃する。


 一瞬意識が飛び、そのまま派手にスッ転んだ。


「大丈夫!?」

「うわっ、膝から血が出てるよ!」


 女子が大袈裟に心配するのが恥ずかしくなる。


「平気だよ、これくらい」


 僕は逃げるようにさっさと一人で保健室へと向かう。

 体育館を出る間際振り返ると、日沖さんが驚いた顔をして僕を見詰めていた。


 怪我の手当てをし終えたあと、「一応休んでなさい」と先生がいうのでそのままベッドで休ませてもらう。

 寝不足だったからラッキーだ。



 ──どれくらい寝ていたのだろう。

 気がつけば吹奏楽部がパート練習する中途半端な音色が聞こえていた。

 ふと人の気配を感じて視線を向けると──


「へ? 日沖さん?」

「あ、起こしちゃいましたか? すいません」


 なぜ彼女が保健室に!?

 わかった。これは夢だ。そうに違いない。


「先ほどはありがとうございました。お怪我は大丈夫ですか?」

「あー、あれならなんの問題もないよ。日沖さんこそ大丈夫だったかな?」


 夢だと思ったので格好つけて思いっきり傷口を叩くと、息が止まるほどの激痛が走った。


「痛たたたた!」

「大丈夫ですか!?」


 どうやらこれは夢じゃない。

 学校ナンバーワンの美少女が僕を心配して保健室に来てくれたらしい。

 しかも二人っきりだ。


「あのっ……先ほどの、その……」

「なに?」


 モジモジしていた日沖さんだが、急に意を決した顔になり、僕をじっと見詰めてくる。


「鰐淵くん、夢の中でも私を助けてくれました、よね?」

「えっ!?」

「す、すすすいません、おかしなこと言って! 忘れてください!」


 日沖さんは顔を真っ赤にして手をブンブン振る。


「もしかして、ドラゴンの尻尾攻撃のこと?」


 恐る恐る伝えると、日沖さんは目を真ん丸にしてコクコクと頷いた。


「さっき体育館で助けて下さったときに、『ガードインパクト』って仰られてましたよね? 夢の中でも同じことを仰っていたので、もしかしてと思いまして」

「うそ……そんなことってあるの?」


 驚いたことに、僕と日沖さんの夢は繋がっていた。



 ────────────────────



 今回のテーマは『夢が繋がっている二人』です!

 毎夜二人はいろんな夢を見て、その世界が繋がっています。

 冒険の世界、探偵の世界、脱出ゲームの世界、和風ファンタジーの世界、ときにはちょっとエッチな世界も!?


 オムニバス的にいろんなシチュエーションに飛び回り、二人の距離が近づいていく物語となっております!


 もちろん夢以外の現実世界パートもあり、夢で絆を強くした二人が現実でも惹かれ合っていくシーンも!


 そんな二人の可愛く不思議な世界をお楽しみください!




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