気になる話

 部屋でユッキーとビール飲んどってんけど、


「なんか気になるね」

「ああ、ちょっとしたミステリーみたいなもんや」


 フェリーでの話やねん。まず気になったのは男の方。つうても男が気になったんやのうて、乗ってるバイクが気になったんや。乗船前にコトリらの少し前に並んどってんけど、


「マットの二五〇CCだものね」


 そうは走っとらへんし、バイク好きやったらすぐに目に留まるで。コトリも実際に走っとるのを見るのは初めてやった。順番が来てフェリーに乗り込んで行ったんやけど、マットがバイクを駐めたんは近かってん。順番からしたらそうなるんやが、


「ヤーさんがツーリングなんかするのかと思ったよ」

「そやな。どんなに良う見ても、暴走族の元総長ぐらいや」


 メットを取った男の顔はそれぐらい迫力あってんよ。厳ついと言うか、強面と言うかで、その男の顔見た他のライダーも係員もビビってたのがわかったもんな。それぐらいインパクトがあったからすぐに覚えてもたんや。


 フェリーは九時半に出航したら、翌朝に下船するまでメシ食うぐらいしかやることがあらへんねん。四国や九州へのフェリーやったらすぐに夜が来て寝るだけやねんけど、今回のフェリーは夜までは長いんよ。


 とりあえずメシ食って、ユッキーと船内をブラブラしとった。そのうち潮風でもあたりに行こうかって話になって、デッキのドアのとこまで来た時やってん。


「オープンデッキで女の子がヤンキーにからまれてるのが見えたのよね」


 あれはヤンキーとしか言いようのない若い男の三人組やった。そりゃ金髪パーマのピアス入りまくりやったからな。困っとるのなら助けたらなあかんぐらいに思とってんけんど、


「女の子がヤンキー連中を突き飛ばして、その隙にドアから入って来たのよね」


 女の子の後をヤンキー連中が追っかけたから、コトリらも気になって追いかけたんよ。そしたらカフェの手前ぐらいでヤンキー連中が青い顔して逃げるように走って来よった。なにがあったんか興味引くやんか。


「カフェに行ったら美女と野獣がテーブル囲んで座ってた」


 美女とはさっきの女の子、野獣とはマットの男や。あん時は野獣の女にヤンキー連中が手を出して追い返されたと思ったんやが、


「よく考えると不自然な点が多いのよね」


 と言うのも野獣はフェリーに乗り込んだ時にはどう見てもソロツーやってん。女の影なんてどこにもあらへんかった。美女が野獣の女ならバイクのはずやんか、乗船時点で一緒やないのは不自然過ぎるやろ。


「そうなのよ。当たり前だけど二人でマスツーなら、敦賀のフェリーターミナルまでマスツーで来るはずだもの。わたしたちが乗り込む時も女のライダーは見当たらなかったじゃない」


 少なくと野獣の近くには影も形もあらへんかった。そうなると乗船してから知り合ったことになるけど、


「それも不自然よ。もし知り合うとしたらランチしかないけど、そこで知り合ったら、あの時間帯に別行動をするわけなじゃない」


 そうやねんよ。旅先でナンパはようあるけど、女がナンパを受けたら、まずすることは互いにもっと知り合おうとするはずやねん。平たく言えば話をするんよ。フェリーの中やから、時間もスペースもなんぼでもあるねん。


 あれは三時頃やったから、野獣がカフェにいるのはわかるねん。そやけど美女がなんでオープンデッキにおらなあかんねんって話になるんよ。その時間帯ならおしゃべりタイムしかあらへんやろ。


 次に美女と野獣を見たのは夕食のレストランやった。レストランやったけどあれも不自然なとこがあった。つうのも野獣が先にレストランに来とってん。少し遅れて美女が入って来たんやけど、


「あれはどう見ても、美女が野獣を偶然見つけて一緒になっただよ」


 コトリにもそう見えた。どう見ても待ち合わせてに見えんかった。それだけやあらへん。一緒に食べる姿がなんかよそよそしかったんよ。


「まさかと思うけど、美女と野獣はカフェで一緒になったけど、あの後にすぐ別れたんじゃない」


 ユッキーの説やったら、二人の態度はある程度説明は出来るんや。カフェで偶然一緒になったものの、それきりで終わり、夕食のレストランでまた見つけたから一緒になったや。


「これもあんまり説明になってないよ。どうしてヤンキー連中は追い払われたのよ。あれは野獣にビビって逃げ出した以外に考えられないじゃないの」


 そこなんよな。わかっている事実は野獣はソロツーやった。美女はヤンキー連中に絡まれてカフェに逃げ込んだ。ヤンキー連中は野獣に追い払われた。そうなると、美女はカフェで出会った野獣に助けを求めたになるけど、


「それが一番合理的な説明になるけど、あの短時間だよ」


 そうやねんよな。カフェで何が起こってんやろか。翌朝には秋田で下船したんやけど、


「あれでわかることは・・・」


 野獣もコトリらと同じぐらいに下船したんやけど、美女の方が先に下りて待ってたんよ。それから親しげに話をしてマスツーで行ってもたんや。コトリらはセリオスのうどんそば自動販売機を探しに行ったからそれっきり。



 ここも誤解せんといてや。成人してる男と女が引っ付くのはなんの問題もあらへん。ましてや旅先や。そこで恋が芽生えてもなんの不思議もあらへんのよ。コトリもそれを期待してツーリングに来とる。


「賞味期限切れよ」

「うるさいわ」


 そやからフェリーで男と女が出会って、ソロツーの予定がカップルのマスツーになってまうのは羨ましいぐらいや。


「コトリには縁が無いけどね」

「ユッキーも他人の事を言えんやろ」


 気になるのはカフェでの馴れ初めもそうやけど、組み合わせのバランスや。いくら見た目やないつうても、野獣の見た目は別格や。もちろん本性は知る由もあらへんけど、突然の出会いで一目惚れされるタイプやあらへん。


「そうだよね。ああいうタイプは最初は怖がられて、時間が経つうちに性格の良さを見つけ出されて好意を持って行くパターンになるものね」


 もちろん何事にも例外があって、野獣タイプが好きな女もおる。そやな極道の妻に憧れる女もおるからな。他やったら地位とか財産目当てや。男をATMと割り切れるタイプやな。


「地位と財産はないと思うよ。どう見ても初対面だよ」


 それと美女の方もや。あれってどう見ても可憐なお嬢さんタイプや。見ただけで上品さがわかるぐらいやねん。あんなタイプがツーリング、それもソロツーするなんて信じられへんぐらいや。もちろん見ただけで本性なんかわからんけどな。それよりなにより、


「ユッキー、見たことがある気がするんやけど」

「コトリもそうなの。でも誰だったかが思い出せなくて」


 人の恋路を邪魔する気はあらへんけど、なんか妙に気になる二人やった。


「どこかで会えるかな?」


 秋田からのツーリングやけど、そりゃ、どこ目指そうが自由や。そやけどある程度のロング・ツーリングを計画するんやったら、秋田、青森、岩手の三県を巡るコースになる。そやな、八甲田から十和田湖と八幡平と田沢湖をメインに持ってくる感じや。これを青森から北回りにするか、秋田から南回りにする選択があるんやけど、


「とりあえず北に向かったね」


 たぶんやけど男鹿半島にまず行ったぐらいは考えられるんや。


「男鹿半島は行ったと思うし寒風山もセットで間違いないと思うよ。だけど・・・」


 コトリらは津軽半島の竜飛岬を目指したけど、能代から大館に抜ける選択もあるし、


「弘前も多いんじゃない」


 弘前から青森もあるやろし、八甲田山を目指すのもポピュラーやもんな。そうなったらまず会えんやろ。別にだからどうしたの話やないけど、


「今回はまだ出会いがないのよね」

「なんでやろ」

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