薫灼の都クレイズと古の龍

旧都の龍

 それは今からそれほど遠くない昔の話。火山と鍛治が有名な薫灼の都クレイズに一翼の龍が現れて都を襲いました。

 クレイズ側の必死の抵抗を受けて何とか撃退した龍は近くの鉱山に逃げ仰せ、そこへ住み着き始めました。けれど、鉱夫や商人などの鉱山で仕事をしていた人達はたまったものではありません。すぐにでも鉱山から追い出そうと考えますが、撃退ですら大変だった龍を再び相手にしようとする者は多くはありませんでした。なので、そこで仕事をしていた者は仕方なく他の鉱山に移るか別の場所で仕事をするなどをして、龍の一件は一度は収束しました。

 そして月日は流れたある日、一人の旅人が龍の住む鉱山から一つの鉱石を持ち帰って来ました。その鉱石は今までの鉱石には無い特性を持っており、その鉱石に目を付けた鍛治師や商人が鉱石に大きな価値を付けたことで、傭兵や旅人などがその鉱石を採りに龍の住む鉱山へ向かいました。ですが、龍の縄張りを荒らして相応の報いを受けた者は少なくありませんでした。それでも、その鉱石がもたらす富が人々を惹きつけ鉱山に入る人は後を絶ちませんでした。

 希少な鉱石が採れる事と多数の死者が出た事によって、都中で龍の討伐を求める声が上がり始めました。それを受けたクレイズを束ねる貴族長は、大規模な討伐隊を編成して龍の討伐に向かう事にしました。

 そして、激闘の末に討伐隊は龍を討ち果たすことに成功し、安全になった鉱山に大勢の人々が富を求めて殺到するかと思われました。しかし、貴族長によって鉱山には多数の兵士が配置されて立ち入り禁止となり、許可が無いものは入ることすら出来なくなってしまいました。けれど、それでも入ろうとする人々は後を絶ちませんでした。

 そのうち、鉱山を解放しようと声を上げる者たちが現れ始めました。その者達は徐々に仲間を増やして行き、ついには鉱山にいる兵士達より遥かに大勢の人々が集まりました。

 こうなると、声を上げるより手を上げる方が話が早くなります。解放者達は兵士を倒して鉱山を取り戻そうと龍の住んでいた鉱山へと向かいました。そうして、再びこの鉱山で戦いが始まってしまいました。人数では圧倒的に不利な兵士達でしたが、全員が寵愛能力持ちなので一方的な戦いにはならず両者は犠牲を出しながら、戦いは加熱して行きました。

 兵士側のクレイズの援軍が来る頃には戦いは収束していて、兵士側が半分程が生き残り、解放者側は七割程の犠牲を出して残りは逃げるか捕まるかしていました。こうして、龍の住んでいた鉱山の戦いは兵士側の勝利で終わりました。

 そしてまた時が流れ、その鉱山に立ち入る事が出来る人々が少しだけ増えたことによって、鉱山の近くが小さな町になり始めていました。この場所は戦いが起きた場所クレイズの貴族長は防備に徹底して力を入れていて、鉱石による収入の半分をこの町に防衛費に費やしていました。そのせいか鉱山付近の町はクレイズの都より堅固な守りとなっていました。

 そんなある日、クレイズの都に再び龍が現れ、クレイズを襲いました。その龍は以前に現れた龍より遥かに強く、クレイズの兵士達は必死に抵抗するものの、圧倒的過ぎるその力に太刀打ちが出来ませんでした。それを受けた、クレイズの貴族長は都を捨てる判断をして住民を都から避難させました。そして、龍は破壊の限りを尽くした後に都から飛び立ち、次の町に向かいました。

 しかし、次に向かった町の防備はクレイズよりも厚く、その守りを崩し切れない内にとある旅人から手痛い反撃を受けた龍は薫灼の都クレイズに逃げ帰って行きました。そして、龍はそのクレイズを住処とし始め、誰にも倒されずに今へと至ります。



――――――――――――――


 

「これが過去にクレイズに起きた話になるわ」


 薫灼の都クレイズに向かうサキ達は岩山の途中にある丁度いい窪地で休憩をしていた。


「へえー。でも、龍なんて本当に実在するの?」


 サキの口から語られた話をヨゾラは御伽噺と似たものと思っているらしく、あまり信じていないようだ。

 

「当時はいたらしいけど、今もクレイズの旧都にいるとは限らないわね。その辺の真否は着いてから分かることよ」


 サキの言葉に少しだけ残念そうにしたヨゾラだったが、すぐに切り替えて今後の予定をサキに確認した。


「ということは、クレイズの都に行ってから旧都に行くことになるのかな?」


「そうなるわね。ほら、そろそろ休憩も終わりにして先に進むわよ」


「はーい」


 そう言うと二人はクレイズに向かうべく、再び歩み始めたのであった。

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