旅立ち

 カタリナがエレナと再開した日の午後、四人は昨日カタリナとヨゾラが寄っていたお店で食事を摂っていた。円形のテーブルにカタリナとサキが向かい合い、サキの右側にヨゾラがいる座り方だった。


「はい。カタリナちゃん、あーん」


 ヨゾラは再びカタリナと食べ合いをするために、今度はフォークに刺さった肉の欠片を食べさせようとしていた。


「だから、食べませんって」


 そして、またもやヨゾラの誘いを断るカタリナだったが、今度は別の方からも食事が差し出された。


「はい、どうぞ。召し上がってくださいな」


 そう言ってフォークに巻いた緑色のパスタをカタリナに差し出すヴィオラ。しかし、それにも口をつけようとはしなかった。


「二人でやっていたらどうです?」


「その味のパスタ好きじゃないんだよね」


わたくしも味が濃い料理はあまり得意ではありませんわ」


「なら、大人しく食べてください」


 素っ気ないカタリナに少し不服そうなヨゾラとヴィオラ。そんな中でもサキは我関せずと言わんばかりに、黙々と料理を食べていた。

 そんなサキの様子を見たカタリナはふと気になったことがあった。


「そういえば、ヨゾラ君達がこのアデリアを立つのはいつになるのですか?」


「今日だよ」


 カタリナはヨゾラに衝撃的なことを言われたが、サキはその言葉をすぐに訂正した。


「予定が色々と変わったから明日にすることにしたわ」


「へー、そうなの?」


「そうよ」


 そして、カタリナは本当に聞きたいことは言い出せずにいた。そんな様子を見かねたヴィオラがサキに質問をした。


「では、次にアデリアに来るのはいつになりますの?」


「それは分からないわ。けど、エレナの言葉もあるから遠くない内にまた来ることにはなりそうね」


「それなら、今度はわたくしの家に泊まって行ってくださると嬉しいですわ」


「あんな廃れた屋敷で寝泊まりするのはごめんだわ」


「あそこではないですわよ!」


 ヴィオラは一旦口元を拭き、食事をしているカタリナ手を無理矢理取ってそこにキスをした。カタリナは訳が分からずに赤面した。


「いきなり、何するんですか!?」


 そんなカタリナとは対照的に、ヴィオラは当然のことのように振る舞っていた。

 

わたくしの今の主人はカタリナですわ。ですから、次もカタリナさんの家に泊まって行ってくださる?」


 サキはあまり驚いた様子はなかったが、ヨゾラはとても驚いたため何か言いたそうにしていたが口を挟むことになるのでやめておいた。


「宿泊代が浮くからいいわよ」


「その代わり、わたくしの主人にエレナさんを会わせて欲しいですわ」


「それはカタリナ次第ね。私は拒む相手は呼べないもの」


「ですって。ちゃんと聞いていましたの?」


「聞いてましたよ。要はエレナ先輩の遺言を守ってちゃんと皇妃候補をすればいいのですね?」


「その通りよ。エレナを失望させないで頂戴ね」


「そんなことは分かっていますよ」


 話しておきたいことが話し終わったため、聞きたいことが色々あったヨゾラは口を開いた。


「カタリナちゃんって僕よりヴィオラちゃんの方を選んだんだ」


「ヨゾラ君もうちに来たければ来てもいいですよ」


「いや、とても遠慮しておくよ」


 根掘り葉掘り聞こうとしたヨゾラだったがカタリナに鼻っ柱が折られて何も聞く気が無くなってしまった。その後、ヴィオラがその経緯を説明して食事会は終了した。



―――――――――――――――



 その日の夕方頃、サキとヨゾラはアデリアを出ようと門の前まで歩いていた。


「普通に今日出るって言えば良くなかった?」

 

「見送りとかされても面倒なだけだわ。それに、カタリナが会いたいのは私じゃなくてエレナよ。今、寵愛能力が切れるのは色々と大変だわ」


「え、じゃあ呼ぶの不味かったじゃん」


 門の前に着くとカタリナとヴィオラが待っていた。サキは大きな溜め息を吐いた。


「何も言わずに出るなんて水臭いですわ」

 

「そうですよ。本官達がしっかりと見送りますよ」


 そんな様子のカタリナとヴィオラにサキは再び溜め息を吐いた。しかし、溜め息を吐きながらも少し嬉しそうなことにヨゾラは気づいた。


「貴族って思ったより暇なのね」


「明日からそれはそれは忙しくなりますけどね」

 

 カタリナの強い語気は自身の上司に向けられていた。そして、初っ端から仕事の話をされて少し凹んでいた。


「休みになりませんかね」


「しっかりと働いて、わたくしを養ってもらわないと困りますわ」


「そうでした。無駄な食い扶持が一人増えていましたね」


「無駄とは失礼ですわ! わたくしを雇えることはとても光栄なことだと思うといいですわ」


「そんなことを言ってると追い出しますよ」


「それは勘弁して欲しいですわー!」


 二人の漫才を横にサキは通り過ぎようとするが、ヨゾラが進行方向に先回りしてサキの足を止めさせた。


「ほら、挨拶して」


「二人共、次に会う時にはもっと立派になっていることを願うわ」


「貴女も今度会うのが棺桶だったら承知しませんよ」


「善処するわ」


 サキはカタリナの手を右手で握り合った。


「さようなら」

 

「また会うのを楽しみにしてますよ」


 そう言ってお互いに手を離した。

 そして、サキは振り返らずに門へと向かって行った。ヨゾラは後ろを向いて手を軽く振っていた。


「行ってしまいましたわね」


「本官達も帰りますよ」


「帰りに晩御飯の買い物をしたいですわ」


「何故、それを本官に言うのですか?」


「お金を出して欲しいですわ」


「……仕方ないですね」


「感謝致しますわ」


 そうして、昨日まで戦っていた二人は高い建物が並ぶこの街の中を仲良く歩いて帰って行った。

 

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