大賢者と聖女

「ところで、リディア様は聖女のギフト持ちだよな。それがなぜ悪役令嬢を自称しているのかな?」


 アルフォードは当初から感じていた違和感を口にしてみた。するとリディアの肩がビクッと震えた。悪役令嬢を自称する割に、まるで小動物らしい動きをする。恐らくそう言うキャラを演じてたのだろう。ロールプレイングの場合、想定した場面での対応力は場数次第だ。それより更に搦め手を繰り出すと大体地が出てくる。どうやら強気の態度の裏側に内面的な不安と弱気があるようだ。


「隠蔽したギフトを見破るとは大賢者と言われるだけはありますね」


「まぁギフトと言うのは契約魔法の一種だからな。そこにある魔力を読み取りさえばギフトなんぞ鑑定しなくてもすぐ分かる。で、リディア様は慈愛の女神との契約されているのが分かるからそこから契約内容を逆算すれば、すぐ分かるな。慈愛の女神との契約で、ここまで強い契約となると聖女、大聖女、神医ぐらいしかあり得ないからな」


「その細かい内容は良いのでギフトは契約魔法と言うのはどういう意味なのでしょうか?」


「何も契約魔法は、下劣な高次元生命体、いやこの世界では神と呼んでいるか……との契約に基づく魔法だぞ。契約魔法と言うからにはそれなりの代償を払う必要があるわけだな。ギフトあるものに義務が着いて回るのはその所為だな」


「でも、それはおかしくないですか?聖女や英雄に義務が着いているのは分かりますが、例えば鑑定に義務があるとは言えないのですが」


「鑑定は知の神の領分だからな。知の神が欲しいのは情報だ。だから鑑定のギフト持ちは情報を収める義務がある。集めた情報は全て知の神の知る事になる訳だ。そう言う仕組みを構築することで知の神は寝ながら世界の情報が集められる仕組みになっているわけだな。その集めた情報を再分配する訳だ。どこかの検索エンジンみたいなシステムだわ鑑定のギフト持ちに情報を集めさせて、その情報を送り返しているだけだものアレ」


 ちなみに知の神の契約魔法は概ね解析済みである。例えば情報属性魔法の情報倉庫データバンクは知の神が鑑定のスキルを使った時に情報を引き出す時に使われているし、呪文詠唱をしたときに術式を引き出すのにもこの仕掛けが使われている。逆に自分の情報倉庫データバンクを作る事が出来れば、オリジナルの魔法を無詠唱で唱えることも可能になるし、鑑定されたくない情報を隠蔽するのにも使える。アルフォードは実際にそうしている。


「混沌の神や道化の神の加護を受けると世の中を混乱させる契約になるからおかしなギフトが時々現れるのはその所為だな」


「その加護はどうやって決まるのでしょうか?」


「それは、星回りとしか良い様がないな。天文の動きで確立が変わるな。後、血筋もかなり影響する。加護持ちは星回り関係なく加護神が補足しやすいから、その子どもとも契約を結び安い訳だな」


「要するにガチャですか」


「ガチャみたいなものだな。まぁ仕組みさえ分かれば自力で作る事も可能な訳だが」


「それではアルフォード様はどのような加護を?」


「加護など無いぞ」


「魔法使い適正の加護が居るのではないのですか?」


「ああ、アレに加護など必要無いぞ。適切な魔力の使い方さえ覚えれば誰でも可能だし、適正盤を光らせるだけなら魔力操作だけ覚えれば十分だろ」


 適正盤と言うのは、元素魔法と神聖魔法の適正を調べるのに使う魔道具の事だ。元素魔法の適正盤には六芒星がかかれており、それぞれ火風水土光闇に対応している。適性検査の時、そのどれかが光れば魔法使い適正があると言う訳だ。ちなみにアルフォードはうっかり全光させてしまったのだが。一方、神聖魔法の適正盤は丸い円が描かれているだけだ。これは属性なるものが存在しないからだ。これもうっかり光らせてしまったのだが。


「あれを光らせるのは最低でも元素魔法には魔法の加護が必要で、神聖魔法は聖職者の加護が必要だと聞きましたが」


「まぁ、加護があれば魔力が上乗せされるからな。その辺りは鍛錬でどうにでもなる」


 転生者同士の話をカチュア達に聞かれても不味いので、カチュアとエリザの二人とはお使いに出すことにした。定番の獣狩りだ。強い魔獣が近くにいないのは気配探知の魔法で確認しているから城の近くでホーン・ラビットを狩るぐらいなら十分いけるだろう。しかし、二人の聖女を見る目が怖い。横目で見ている俺ですら寒気がするぐらいだ。この聖女様はこの二人に何かをしたのだろうか?


「所謂、転生者だろうな。前世の記憶があると言えばある。その中身は意味記憶の比率が高く、エピソード記憶の比率は少ないが、しかし、前世の記憶を無理矢理すり込まれただけの可能性も否定は出来ないと思うが、その場合、転生前の俺と今の俺は同一人物なのか疑わしいと思わないかね。テセウスの船の話は故障したパーツを入れかえていったら元の船の部品が一つも無くなっていたわけだが、それでも同じ船だと言い切れるのかと言うテーゼだが、我々の場合は、パーツだけではなく名前も別物になっているわけだ」


「そういう、哲学的なのは良いから本題に入りましょう」


 どうやらこの俺のウィットに富んだジョークが理解されなかったようだ。残念だ。


「それにしても聖女も転生者だったとはねぇ。しかも悪役令嬢と入れ替わっていたと?」


「王子の結婚相手が実は自分が追放した悪役令嬢だったとか、笑えるでしょ。実はコレ、初めから狙ってやったのよ」


 よく分からないんだが、このノリ……。もしかして、この世界、乙女ゲーと一部かぶっているのか……などと考えるアルフォードであった。


「それで、転生者特典として聖女のギフトを貰ったと言う訳かな?正確にはギフトと言うのは契約魔法だが」


「聖女のギフトはオマケみたいね。そのゲームには聖女と悪役令嬢は実は双子って言う隠し設定があるの。で、悪役令嬢が金髪なのに、聖女は黒髪なので聖女は忌み子として捨てられて、近くの農民に拾われたとか言う設定なのね。だから、髪の毛と眼の色を変えれば、どちらか分からなくなるのよねぇ」


 一卵性双生児で、髪の色が違うって有り得るのかと一瞬思ったが、確率的には有りそうではある。どちらの性質が強く出てくるかが環境に左右される遺伝子も存在しうるか。それよりそのゲームと言うのは★★★★のスピンオフから作られた乙女ゲームの名前だった気がする。だとすると、この世界は★★★★がベースになっている可能性もある訳か……。まぁ★★★★と言うゲームをやったことが無いのでよく分からないが、恐らく他にも居ると思われる転生者はゲームの知識でチートしていそうだ。


「で、それを王立学園に入る前には知っていたわけだな」


「そう記憶が戻ったのは8歳頃だから、先に仕込みをしておいたのよ。金髪に染め上げれば悪徳令嬢ソックリになりすませるからね。それを利用して度々入れ替わったりして遊んでいたのよ。入れ替わって事件をイベントを起こしても、それにあっさり引っかかる王子達ってバカじゃないのと二人で大笑いしてたのよね」


 悪役令嬢による聖女いびりも入れ替わりを利用して自作自演をしていたらしい……。怖いなこの聖女。


「――でもさ、結局は将来の為にお金を稼がないといけないでしょ。なのでスイーツを売って稼いでいたわけよ。でもさぁ、ここのパンって天然酵母じゃないの。だから柔らかいパンが少ないのよねぇ。だから天然酵母に祝福の聖魔法をかけてみたらふわふわになったの、それをベースにしたお菓子をつくって大もうけよ。」


 柔らかいパンに反応したカチュアがこちらを恨めしそうに見つめていたので、にらみ返すとこそこそと帰って行く。


 しかしこの聖女、聖魔法が、微生物に効くこと気がついていたのか。いや知らずにやっている可能性が高いな。先の話題に対するノリの悪さから言っても――などとアルフォードは考えていた。


「まぁ、お金の方はそれでどうにかなったのだけど、時々、お米が食べたくならない?正直ツテを使っても手に入らないのよね」


「米なら、連邦の方で育ているぞ。王国は米栽培に不向きな土地だが、あの辺りは温暖だから米も栽培しているぞ。まぁ、王国は砂糖・香辛料・嗜好品以外の食糧はほとんど輸入してないから知らなくても仕方が無いなぁ」


「そんなの設定に書いてなかったわよ。それで、連邦って言うのはどこにあるの?」


 仕方無いので簡単な地図を書いてやる。連邦は、王国より南西にある国だが、いくつかの国を挟んでいるため王国との貿易はあまり盛んではない。連邦の主要産品は銀と砂糖で、米も輸出するほどは作られていない。南方からの移民が持ちこんだのだったか。協商から取り寄せた地理書の記憶を引っ張り出す。


「まぁ、このあたりだな。協商を介せば手に入るだろうが割高になると思うよ」


「そうありがとう、ところで貴方の本名って、アルフォ=ダクロアじゃないの?姿ソックリだし」


 ふと思いついたかの様に聖女が言う。



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