大賢者と丘と庭

「転送の影響を受けていないと良いのだが……。セージやミントは大丈夫だが、他所のプランターに飛び散ると面倒だし、衝撃に弱い子もいるからな。スリヤスは寒い土地にしか育たないから気温が変わってストレスを感じていあないかな……」

 

 ちなみにスリヤスはこの世界にしかない薬草の一種で、高級ポーションの材料に使われる貴重な草だ。


 アルフォードは、菜園の草木を一つ一つ確認する。それは子どもをあやすよりも更に丁寧に。これらは全てアルフォード手ずから育てた草木なのである。大事にせずにはいられようか?


 それをカチュアとエリザが横目にちらちらと見ている。どうにも、うっとうしい。


「そこで遊んでいる暇があるなら食糧を取りに行ってきなさい」


 そう叫ぶと二人は、慌ててかけだした。食糧は魔法倉庫ストレージの中にまだあるが、毎日、保存食ばかり食べていると流石に飽きる。


 アルフォードは一段落すると、この菜園を百倍に広げようと計算を始める。屋敷の庭の一部しか使えなかったのでどうしても手狭だったのだ。ここなら、菜園に温室と冷室を置くことが可能だ。広大な無主の土地である。魔獣さえどうにかすればいくらでも広げることが可能だ。取りあえず土壁で囲った場所をどのように分割するか決める必要があった。


 この一体は菜園区画にするとして、近くに馬小屋を置き、反対側に家畜小屋、水濠にはアヒルを放し飼いにすることにした。それから畑も作る必要がある。現状食糧はどうにかなるとしても自給自足できる様にする必要がある。畑は取りあえず3エーカーもとい1.2ヘクタールあれば十分。ホントは1エーカーもとい40アールで十分だったのだが……取りあえず、菜園区画の残りと畑区画をゴーレムに耕させることにした。ゴレームを利用するので役牛が不要で、その分の飼料が浮く、タンパク源は近くの荒野で獣を狩り、海や川で漁をすれば自給可能。ファーランド南部は暖かいので単位収量も高く設定できる。肥料さえ用意できれば二毛作が可能だ。そのため計算上は王国の10倍の収量が見込める。さらに税金も払わないので余計な作物は不要で全て消費に回せる。余った分は加工品に回せば良い。


 そして収穫時期までにコンバイン型ゴーレムを作成する必要がある。しかし現時点で必要なのはに土木用ゴレームだ。土木用ゴーレムのコアは既に用意してあり、それを起動するだけ。コアは10個用意してあり、計算上は半日もあれば城は完成する。アルフォードは、鞄からコアを取り出すと地面に置き呪文を唱えた。


 すると周りの土がコアの周りにまとわりついて、10体のゴレームが起動する。アースゴーレムのできあがりだ。精神を集中し、ゴーレムをそれぞれの持ち場に移動させる。今回使うゴーレムは自律駆動型ではないので作業には精神集中する必要がある。要するに邪魔するヤツが居ると制御に支障をきたす。あの二人が、どこまで行ったか知らないが面倒な二人がいないので今の状況は行幸なのだ。戻ってこないうちに作業を進めることにする。


 モットの上には館兼物見櫓を配置する。加工済みの木材を組み合わせるだけなので、さほど難しくはない。プラモデルを組み立てるより易しい。ただし飛行魔法と重力魔法をくみあわせた場合の話だ。直方体の三階建てになっており、一階部分が倉庫、二階が広間兼寝室兼調理場兼食堂兼作業場になる。三階は吹き抜けになっており天井から外に出られる。あり合わせの材木を組み合わせたものにすぎないので、機を見て石造りに置き換える予定だ。部屋が一つしかないのは、シングルユースを想定して設計していたからだ。二人もおまけがついてくることなど想定していない。そもそもモット&ベイリーに立てられた館は、広間兼寝室兼調理場兼食堂兼作業場なのが普通で、個室が作られる様になるのは後期になってからなのだ。領主と使用人は同じ空間で住んでいたと言う。同時期のサクソン人やバイキングの家が竪穴式住居の親戚みたいな代物だったと考えれば、この高床式住居はやはり貴族の建物なのだろう。


 それより、どうやって部屋を仕切ろうかと頭を抱えるアルフォードだった。


※※※

 館兼物見櫓を建てると城全体に結界を施すことにする。城壁は地上の敵からの侵入を防げるが空から来る魔物や地中から来る魔物までは排除できない。そのために結界を張る必要がある。これは城の中央に結界用の魔法陣を埋め込み、四方にコアになる魔石を埋め込む必要がある。指南盤で方角を確認すると城の東西南北に印をつける。東西と南北の交点が中央だ。ここに魔法陣を書き込む必要があるのだ。魔法陣の作成には棒と紐を利用する。原始的な道具に見えるが五芒星も六芒星も棒と紐があれば作成可能なのだ。その作成方法は秘術とされているようだが、数学的に計算可能。原理を説明すると図面が大量に必要になるので省略。ちなみに七芒星や十一芒星は棒と紐ではかけないし、ガウスが正十七角形が定規とコンパスだけでかけると証明したのは五芒星から5000年も後の話だ。


 アルフォードは石板に魔法陣を書き上げるとこれを地中に埋め、印を付けたところに魔石を埋め込む。それから上級神聖魔法の結界魔法を発動させる。天災級の魔獣でも十分持ちこたえられる強力な結界だ。これで城の内部は大丈夫だろう。


 それからゴレームに穴を掘らせていた。転生前の記憶に引きずられているのか風呂が無いと落ち着かないのだ。風呂を作る為に穴を掘らせているのである。その後、石を敷き詰め防水し、水車からくみ上げた水を浄水し、魔法で加熱して流し込む機構と排水口をつければ風呂のできあがりである。浄水設備は本来沈殿槽、砂利槽、浄化槽に分けたかったがはスペースが足りないので神聖魔法を応用した簡易浄水を採用することにした。単純にいえば浄化プリュファイの効果のある魔法陣を浄化槽の下に刻みその上に砕いた魔石をまいて置くだけだ。魔法陣が魔石から魔力を吸い込み浄化プリュファイを魔法を定期的に実行する。この方法の問題は、定期的に浄化槽を空にして魔力を失った魔石をと取り除く必要が有る点だ。魔力を失った魔石は逆に魔力を吸い込もうとするので魔法発動の妨害になる。そして加熱の魔法は比較的コストが安い。薪の消費量を考えるとコスパは絶大だ。ただしコスト効率が良い方法は時間をかけて加熱する方法で、火球ファイアボールをぶち込む方法では無い。前者と後者は概ね魔力消費に100倍ほどの差があるのだ。ただ、前者の方法は10時間かけて加熱する必要があるので、魔法使いを長時間拘束しないといけない欠点がある。しかし、アルフォードはこう考えた。人が居ないなら魔道具にやらせてしまえば良いと。そして作られたのが加熱魔道具だ。一見すると給湯器に見えるがあくまでも加熱魔道具だ。この中にパイプで水を通して10時間おくと温度が100℃近くになる。そのままではお風呂には使えないため、放水しながら温度を下げている。一回、沸騰近くまで温度を上げてから温度を下げるのは消毒を考えての事だ。


 排水は下水を通じて川の下流に流れ込む様にしてある。生活排水なども同様に下水に流れ込む様にゴレームに溝を掘らせ、その上に石を敷き詰めた。この仕組みを利用し、給水量と排水量を一致させると24時間、お風呂に湯が供給される。つまり好きなときにお風呂に入れる。


 やはり、ゴーレムは便利だ。念じるだけで動かせるロボットなど前の世界にも存在しないわけだが、このような便利な魔法があるのに作業用ゴーレムが全く発展していないのが不思議なぐらいだ。アルフォードは感慨にふけった。王都ではうかつにゴーレムを作ると軍事魔法の城内使用罪とかでしょっ引かれる可能性があるのでうかつに使えなかったがファーランドは無主の土地だからいくらでも使える。


 この風呂にも敷居が必要になるので、木の板を並べて風呂を半分に仕切ることにする。半分にするとかなり手狭だ。しかし予定と変わってしまったので建材不足が否めない。この調子だと迷いの森まで戻って木を集めてこないと不味いかもしれない。木以外にも部材が色々足りていないので新たに製造する必要がありそうだ。

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