第41話 愛娘

舞華の一周忌法要が終わり、その夜…

『ピーンポーン』

「はーい」

「沙也加です」

「どうぞ」

舞華の幼馴染で一番仲の良かった沙也加がまぁやん宅を訪問した。

なにやら大きな荷物を持って。

沙也加は舞華の仏壇に手を合わせて、

「まぁやんさん、ごめんなさい。忙しい時に」

「ううん。来てくれてありがとう。あいつも喜んでいるよ」

「あの…それで…相談なんですけど…」

「うん。なんかあった?」

沙也加は少し大きめなカバン…みたいなものを開けて、中から子猫を取り出した。

「ね!猫!」

「はい…この仔を…まぁやんさんに引き取ってもらえないかと思いまして…」

「どうしたの?その子猫」

「実はですね…」


2年前…

「舞華、結婚おめでとう!」

「沙也加。ありがとう」

舞華と沙也加は、舞華の結婚祝いにと、プレゼントを渡すため、カフェで待ち合わせしていた。

「舞華、ところで子供は?」

舞華は幼い頃から、結婚したら子供2人は欲しいという話を沙也加にしていた。

「子供かぁ…欲しいよね…」

「やっぱ、身体のこと?」

「うん…まぁやんも欲しいと言ってたんだけど、お医者さんに聞いたら、難しいんじゃないかって…」

「そっか…でもさ、子供が全てじゃないでしょ?」

「そうだけどね…」

「舞華!そうやって落ち込まない!あんたの取り柄は常に前向きでしょう?」

「そうなの?ふふ!なーんかさ、沙也加の前だったら甘えられるからさぁ」

「まぁ…甘えられるのは…悪くない…」

『あはははは!』

「舞華、子供がダメだとしても、今はペットを家族としてるところも多いよ。わんちゃんとかネコちゃんとか」

「わんちゃんかネコちゃんねー。まぁやん、賛成してくれるだろうか」

「まぁやんさんなら、きっとわかってくれるよ」

「うん…どっちかって言うと、ネコちゃんがいいかな」

「あんた、昔からネコ好きだったもんね」

「うん!ネコ好きぃー。うちのマンション、ペットOKなんだよ。だから将来的にネコちゃん欲しいなぁ」


「舞華が…そんな事を?」

「えぇ。自分の身体が出産に耐えられないから、それならペットを子供代わりとしてって話をしてました」

「そうなんだ…あいつ、俺には言わないで…」

「きっと、言おうとしてたと思いますよ」

沙也加は子猫を抱きながら話した。

沙也加が連れてきた子猫は、生後1年くらいのハチワレ模様で、白と虎柄の子猫であった。

「それで?そのネコは?」

「この仔は…実は舞華が亡くなって7回忌法要の日なんですが…」

「うん」

「私が家に帰ると、部屋のドアの前で、震えていたんです」

「部屋の前で?」

「そうなんです。そして手を差し出したら、顔を擦り付けて来て、甘えてきたんですよ。それ見てたら、舞華となんか似てるなって思って」

「甘え上手なところとか?」

「そうなんです!それで私が保護して、とりあえずご飯と病院にも連れてって、ワクチンとかしてあげたんですけど、もしかしたら、舞華の生まれ変わり?かなって思っちゃって…」

「なるほど」

「舞華の生まれ変わりなら、やっぱりまぁやんさんに引き取ってもらいたいと思って、今日は来ました」

まぁやんは沙也加から子猫を渡してもらい、抱っこをした。

まぁやんに対しても、顔を擦り付けてきて、ゴロゴロと甘えだした。

「あれ?私にはあまりゴロゴロしないのに」

「はは!…可愛いな…」

「ですよね。私のアパート、ペット禁止なので育てられないんです。だからもし、まぁやんさんが良ければ」

「…うん!わかった!俺が育てよう」

「ほんとですか!ありがとうございます」

「早速明日、色々揃えてくるよ」

「きっとこの子も嬉しいと思います」

「沙也加ちゃん、晩飯まだだろ?食っていきなよ」

「え…でも…」

「簡単なものだけど、舞華が好きだったもの作ってあげるよ」

「ありがとうございます!じゃあお言葉に甘えて」

「そうだ!名前決めないとな…」

「名前はまぁやんさんが!」

「ん〜……みりん…」

「え!みりん?」

「そ!みりん!響き良くない?」

「え…えぇ。可愛い名前ですね」

(舞華が生きてたらなんて言うかな…ふふふ)

「ん?なんか言った?」

「いえ!何も」

「じゃ、今から晩飯作るから。ちょっと待ってて?」

「はい…ありがとうございます」

その日は、まぁやんと沙也加とみりんとで、楽しく食事が出来た。

いつもはまぁやんひとりだったから、今日この日は寂しさがなくなった。


「ミャー…ミャー」

まぁやんの朝は、みりんが起こしてくれる様になった。

「んー…おはよ…みりん」

「ミャー」

「ご飯かい?ちょっと待ってよ」

このやりとりが朝のルーティンになっていた。

まぁやんはこの頃、マンションを購入していた。

中古で程度が良く、手頃な値段だったので、思い切って購入した。

そしてリフォームして、綺麗になったマンションへ引っ越しをした。

「舞華!憧れのマンションだぞ!お前の夢だったもんな」

舞華は生前、いつかはマイホームが欲しいねっという話で、マンションに憧れていた。

リフォームしたマンションは、さながらモデルルームのように綺麗だった。

みりんが来てからは、新たにキャットウォークを作って、みりんが遊べるようにした。

数日後、恋が遊びにきた。

「ちょっとまぁ兄!なんで引っ越すって言ってくれなかったの?」

「あぁ、悪い!色々とバタバタしててな!急に決まったもんだから…」

「もう!言ってくれれば色々手伝ったのに!」

そこで恋はみりんに気がついた。

「あ!え!にゃんこがいるよ!」

みりんはキャットウォークの上から様子を伺っていた。

「あぁ。みりんっていうんだ。可愛いだろー」

「可愛い!まぁ兄がにゃんこだなんて」

「いいだろ!みりん。おいでぇ〜」

甘い声でまぁやんが呼ぶと、みりんは恐る恐るまぁやんのところに来て、肩に乗ってきた。

「やだー可愛すぎる!わたし抱っこできるかな」

「どうだろ?抱いてみるか?」

「うん!」

まぁやんはみりんを抱っこして恋に渡した。

恋がみりんを撫でると、ゴロゴロと甘えてきた。

「はぁ〜癒されるぅ〜」

「舞華の幼馴染の沙也加ちゃんから引き取ったんだ」

「沙也加さんから?どして?」

まぁやんは沙也加から聞いた話を恋に聞かせた。

「確かに…まい姉の生まれ変わりかもね」

「だからな、みりんを舞華と俺の子供として育てるつもりで引き取ったんだ」

「まぁ兄…」

みりんを愛でるまぁやんを見て、恋はますますまぁやんに想いを募らせていった…



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