第38話 家族の愛

「なぁ、こんな人見なかった?」

「さぁ、見かけないなぁ」

「ども、すんません」

龍弥はまぁやんを探していた。

まぁやんが皆の前から姿を消して3ヶ月。

一向に見つけることが出来なかった。

「あいつ…どこ行っちまったんだ…」

龍弥は心配になった。まさかとは思うが、最悪のシナリオが頭をよぎってしまう。

「警察に行っても大して相手してくれないし」

そして同じく、恋もまぁやんを探していた。

恋と美紀は手分けして、まぁやんが行きそうな場所を探していた。

「どうしよう‥まぁ兄…」

「恋!しっかりしな!こんな時あんたがしっかりしないでどうすんの!」

「美紀…」

「舞華さんに託されたんでしょ?まぁやんさんの事!だったらあんたが前向いて行かなきゃ」

「うん…ありがとう美紀」

「どういたしまして。さ!探すよ」

「うん!」

捜索してひと月が経過した。

龍弥はもう疲労が限界だった。

「仕方ない…あいつに協力してもらおう」

龍弥はS市に向かった。

「こちらでお待ちください」

「ども…何度来ても緊張するぜ…」

「よう!龍じゃねぇか!久しいな」

「雷斗!すまん!助けてくれ!」

「あん?どした?」

………

「そっか…まぁやんが…」

「あいつ、相当ヤバい状況だったんだ…俺ももっと側にいてやればって後悔してる…」

「龍。もう済んじまった事言っても始まらんだろ?」

「うっ…そうだな」

「いやよぉ、俺も舞華さんが亡くなったって聞いて、めちゃくちゃショックだったよ。いい人だったもんな…俺も葬儀行きたかったんだが、まぁ、俺が行くと…色々あるから…あえて行かなかったんだ」

「気ぃ使わせたな。すまん!」

「落ち着いたら、個人的に線香上げに行こうと思ってたんだが…今はそんな事より、まぁやんの奴を見つけないとな…」

「もしかしたらあいつ、このS市に来てるかもしれないんだ。だから、雷斗!力貸してくれ!」

「わかった。うちの人間使って探させる」

「恩にきる」

「見つけたらどうする?」

「行動を監視してくれ。報告くれたら俺が行く」

「…わかった…」


龍弥は許せなかった。まぁやんに対しても…

自分に対しても…

なぜあいつは俺を頼らなかったのか…

なぜ俺はあいつを支えきれなかったのか…

あいつは今、何を思って生きているんだろう…

そして数週間が経ったある日…

☎︎「龍!まぁやんが見つかった!」

龍弥は慌ててS市に向かった。

雷斗の事務所に行って、写真を確認した。

以前のまぁやんとはかけ離れ過ぎている風貌であった。

髪は伸び、髭を生やし、身なりもボロボロ…

「最近、この界隈で妙な噂があってな…」

「妙な噂?」

「見たことのない、ホームレスっぽい奴が現れて、あるバーに毎日通っているんだって。でも羽振りはいいんだ。ホテルに泊まってるみたいだし、金もきちんと支払っている。そして、チンピラ相手に喧嘩もしてたみたいだ」

「それが…まぁやんなのか?」

「あぁ…しかもそのバーな、前にまぁやんに俺が教えたんだ。舞華ちゃんとデートしたいからどっかいいバーないかって」

「じゃあ、あいつは…そのバーにいるんか?」

「あぁ、今日もウチのもん張り付かせてるから、間違いない。行くか?」

「……いや…2日待ってくれんか」

「いいけど…なんでだ?」

「…恋も…連れてくる…」

「恋ちゃん?」

「あぁ!あいつも家族だ。康二はちょっと遠慮しといたほうが良さそうだ。報告はするがな」

「…悪りぃな!俺がこんなんだから…」

「何言ってんだ。お前のおかげだ!マジで感謝する」

「いいって事よ。じゃあ見張ってるから。恋ちゃん来たら教えてくれ」

「わかった」

龍弥は恋に連絡を取り、恋もすぐにS市に到着した。

「龍兄!まぁ兄は!?どこなの?」

「落ち着け!こっちだ」

龍弥は恋を連れて歩き出した。

「龍兄?どこ行くの?」

「……」

龍弥は恋の問いかけには答えなかった。

そしてあるバーにたどり着いた。

「龍兄…ここって…」

「恋…今のあいつを見て…驚くなよ」

「え?どういう事?」

龍弥はバーに入っていった。

「いらっしゃいませ…」

ジャズが流れる普通のこじんまりとしたバー。

カウンター席とちょっとしたテーブル席があるような店内。そしてカウンターにひとりの客がいた。

その客は髪の毛は伸びきってボサボサ。服もボロボロだが見覚えのある服…横顔を見ると髭もボーボーと伸びていた。

「探したぞ…まぁやん…」

「えぇ〜!まぁ兄!?」

恋は驚いた。無理もない。当時の面影なんて全く感じない、しかも覇気もない…

「あぁ…龍か…久しぶりだな?お前も飲むか?」

「まぁ兄」

「恋…一緒にどうだ?」

まぁやんは生きる屍となっていた。

「くっ!お前…俺たちがどんだけ心配したか…」

「心配?ククク…冗談だろ?もう俺はどうでもいいんだよ…俺のせいで妻が死んだんだ。俺が気づかなかったせいでな」

「違う!まいまいはなぁ…」

「違わねぇよ。あいつは…俺が殺した…」

まぁやんの精神は崩壊していた。もう何がなんだかわからず、ただ自分のせいで舞華が死んだと思っている」

「テメェ…いい加減に…」

「恋…お前も恨んでんだろ?俺の事。だから探さなかったんだよなぁ?俺の事」

「まぁ兄…どうして?どうしてそんな事言うの?わたし…どんだけ心配したか…必死に探したよ…」

「もう俺はひとりだ…元々ひとりだったんだよな…」

すると龍弥はまぁやんの襟首を掴まえて

「おい!こっちこい!」

と言って、まぁやんを外に出した。

「何しやがる!離せよ!」

カウンターの上に1万円札を置き、

「こいつの飲み代だ。釣りはいらない!」

そう言ってまぁやんを外に連れ出した。

龍弥は路地裏にまぁやんを連れて行き、投げ飛ばした。

「いっつぅ…なんだよ…龍…」

「俺が眼を覚まさせてやる」

龍弥はまぁやんに向かって走って向かい、蹴りを喰らわした。

「ぐはっ!やめてくれよ…」

「情けねぇ声出してんじゃねぇ!かかってこいよ」

龍弥は挑発するが、まぁやんには響かなかった。

「龍…頼むからほっといてくれよ…」

「いーや!ほっとかねぇ!テメェは俺がぶっ飛ばす!」

まぁやんの襟首を掴んで無理矢理立たせると、顔面を勢いよく殴った!

「ぶっ!ふふ…ふふふ…気が済んだか…」

「まだまだだ!」

龍弥はまぁやんの顔面を殴り続けた。

恋が止めに入る!

「ちょっと!龍兄!やりすぎだって!」

「ウッセー!!恋、どいてろ!」

振り上げた拳がまぁやんの横顔を捉えた。

「ぐふっ!はぁ…はぁ…いてぇ…」

「どうだ!痛いだろ!お前は生きてるんだ!戻ってこいや!」

「龍…おま…」

「ふん!情けねぇ!舞華もこんな男を夫にして、さぞ後悔してんじゃねぇか?」

「……」

「舞華も舞華だぜ!あいつも男を見る目がねぇ、くそ女だったよ!」

「…な…なんだと?」

「聞こえなかったのかよ?クソ女って言ったんだよ」

その言葉を聞いた瞬間、さっきまで倒れていたまぁやんがゆっくり立ちあがった…

「龍…取り消せ…今の言葉…取り消せ…」

「誰が…弱虫のいう事なんて聞くかよ!悔しかったらかかって…」

と次の瞬間、まぁやんが龍弥に向かって浴びせ蹴りを見舞った!

まぁやんのかかとが龍弥の後頭部に決まった。

「ぐわ!」

「例えテメェでもな…舞華を侮辱することは…死んだ舞華を冒涜することは…許さん!」

「やっと…来たか…」

龍弥はニヤッと笑って嬉しそうだった。

「ほら!まぁやん!来いよ!タイマンだ!」

龍弥が走って殴りかかった。

しかしまぁやんはそれを交わしつつ後回し蹴りを繰り出した。

だが間一髪のところで龍弥が腕で防御した。

「ちっ!さすがだな!龍」

「テメェの動きなんざ、わかるんだよ」

ふたりはそのまま殴り合った。

恋はそれを遠くから呆然と見ていた。

止めようとの意思が自然と湧かなかった。

「なんか…懐かしい…気が…する…」

幼い頃、学園の庭でよくふたりはこんな風に喧嘩のやり方を練習していた。

ふたりを見ていると、学生時代の頃のふたりとダブって見えた。

殴り合いはしばらく続いたが…終わりの時が来た。

まぁやんのハイキックが龍弥の側頭部を捉えた。

そしてその勢いをそのまま浴びせ蹴りに利用して叩き込んだ。

「ぐぶ…あ…」

龍弥は倒れた

「はぁ…はぁ…俺も…だ…め…」

続けてまぁやんも倒れた。

「まぁ兄!龍兄!」

恋はまずまぁやんへ駆け寄った。

「まぁ兄!しっかり!」

「あ…み…水…もって…き…て」

「わかった!」

恋は先程のバーに戻り、水のペットボトルを譲ってもらった。

「まぁ兄!水だよ」

まぁやんは勢いよく水を飲んだ…

「龍!生きてっか?」

「う…つぅ〜!あい!ったー」

「ほら!水だ」

龍弥も勢いよく水を飲んだ。

「かー!生き返る!」

「お前…やられ過ぎ」

「お前はやりすぎ」

『はぁーはははは!』

ふたりは肩を組んで笑い合った。

そしてゆっくり立ち上がって、恋の元に歩いてきた。

「ちょっと!いい加減にしてよね!わたしがどんだけ心配したか!」

「悪りぃ悪りぃ!こいつ治すのこれっきゃねぇと思ってなぁ」

まぁやんはそのまま恋に向かって

「恋…心配かけて…すまん!」

「まぁ兄…どんだけ心配したか…もう絶対居なくならないでね!約束できる?」

「わかった。約束する。もうお前らのところから居なくなったりしないよ」

恋は涙を流した。

「ちょっ!恋…泣くなよ…」

「だって…」

まぁやんは恋の頭を撫でた。

「ほんとごめんな…」

「うん…」

「よーし!帰るか!まぁやんには罰として、みんなに寿司を奢る!回らない寿司な!」

「…よし!この怪我治ったら!みんなで寿司だ」

「やったー!」

龍弥はポケットからセブンスターを出して、まぁやんにさし出した。

まぁやんは一本取り出して咥え、龍弥にも一本差し出した。

そして龍弥がジッポを取り出して火をつけて、ふたり同時にタバコに火をつけた。

「ふぅー。うめぇな」

「あぁ…」

「わたしも仲間に入れて!」

「お前…タバコ吸わんだろ?」

「ちーがーう!まぁ兄と龍兄の間に入るの」

「わかったよ」

恋を真ん中にして、龍弥とまぁやんは3人並んで肩を組んだ。

「コリャ…病院行った方がいいな」

「…かも…な」

「ほっんとふたりとも…やりすぎなんだって」

『ふふふ…あははははは!』

まぁやんは数ヶ月ぶりに笑った気がした。

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