第22話 弓引月の夜

まぁやんは焚き火にあたってゆったりしていた。

周りはみんな、テントで就寝していた。

タバコに火をつけて

「ふぅ〜…」と煙を吐き出した。

空を見上げると、綺麗な三日月が雲の隙間から顔を出した。

「今日は楽しかったなぁ」

ぼそっと独り言を言った。

その声が聞こえたのか、恋がテントから出てきた。

「あれ?まぁ兄。寝れないの?」

「ん?いや…ちょっとぼぉーっとしてた」

「ふぅ〜ん」

恋がまぁやんのところに来て

「隣…いい?」

「あぁ。いいよ」

恋がまぁやんの隣にちょこんと座った。

「何か、今日ちゃんと話すの初めてみたい」

「そっか?まぁ、賑やかだったからな」

「まぁ兄、お仕事はどう?」

「そうだな。大変だけど、なんとかやってるよ」

「そっか…東京…遠いもんね…」

「そうだなぁ」

「まぁ兄となかなか会えないから…ちょっと寂しい」

恋は少し照れながらそう言った。

「こら!いつまで甘えてるんだ!」

まぁやんは恋の頭を軽くコツンっとした。

「違うよ!甘えてなんて…ないもん」

「なぁ、恋。俺さぁ、あの事件の時に恋が捕まったってなった時…めちゃくちゃ不安になったよ」

「え?」

「だからよぉ、もう俺を心配させるなよ」

そう言って、まぁやんは恋の頭を抱き寄せた。

恋の心臓がドクドクと速まった。

そして、恥ずかしい反面すごく嬉しかった。

「まぁ兄?」

「ん?なんだ?」

「わたしね?まぁ兄のこと…好きだよ」

「そっか。俺も恋が好きだぞ!こんな可愛い妹だから、大事にしないとな」

「妹…そっか。うん!そうだよね…」

「それよか、恋。見てみろ。あの月」

恋はまぁやんと空を見上げた。

「きれいな三日月だねぇ〜」

「あれな、弓引月とも言うんだ」

「弓引月?」

「ほら、何か武士が弓を引いてる様に見えるだろ?」

「なるほど」

「ああいうのは、東京じゃ見られないからな」

恋はまぁやんに肩抱かれながら、月を見上げていた。

またしばらく会えなくなるけど、今日のこの温もりを大切にしていこうと思った。

「わたし、東京の大学目指そうかな?」

「え!東京の?」

「そしたらまぁ兄ともたくさん会えるでしょ?」

「動機が不純だぞ…」

「えへへ…冗談だよー」

「ったく。ほら、そろそろ寝なさい」

「はーい」

恋はテントの中に入って眠りについた。

(わたしね?まぁ兄のこと…好きだよ)

まぁやんの心の中に、恋が言ったこの言葉が頭から離れなかった。

「まさか…いや、そんなはずないよな」

あの時、実はまぁやんも心臓の高鳴りを覚えていた。

その後も気になってしまい、まぁやんは寝付けなかった。


翌朝、小鳥の囀りでみんなが目をさました。

「んー!はぁ…何か目覚めの気分いいなぁ」

「やっぱ自然だからだね」

すると龍弥はすでに起きてて、コーヒーを淹れていた。

「おはよ!目覚めのコーヒーだ」

その隣には美紀がいた。

「恋!おっはよ!」

「美紀。朝から随分テンション高いね」

「そっそぉ?そんなことないよ」

「怪しい…」

「ほ…ほら、あれだよ。大自然で目覚めスッキリだし、キャンプって楽しいなぁってね」

「あーやーしい!」

「…恋、ちょっときて」

美紀は恋を引っ張ってその場を離れた。

「美紀?」

美紀は周りをしきりに警戒してから

「いい!恋だけに言うからね!他言無用だよ」

「ごくり!」

「私、龍弥さんと付き合う事になりました」

「キャー!ほんと?」

「声でかいって」

「ごめん…でもなんで?どうして?」

美紀は昨日の夜の出来事を赤裸々に語り出した。

「龍兄、やるな…美紀の気持ちに気づいているとは。その反面、まぁ兄はさぁ…そう言う事に鈍感なんだ…」

「えぇ?まぁやんさんに言ったの?恋の気持ち」

「う…うん。流れでね。好きだよって」

「したら?」

「したっけね、俺も好きだよ、妹として。だって…」

「あちゃー。そっか…。あっ!そうだ。わたし達の事、まだまぁやんさんに内緒でお願いします」

「なんで?」

「龍弥さんからのお願い。自分から言うまで内緒にしといてって」

「わかったよ」

恋は美紀の恋が成就したことがすごく嬉しかった。

ふたりでみんながいるところに戻ると、龍弥が

「恋、ほら!コーヒーだ!」

と淹れたてのコーヒーを差し出して来た。

「ありがとう!龍兄!」

と言って恋はマジマジと龍弥の顔を覗き込んだ。

「な…なんだよ…」

「えへへへ…なんでもなーい」

「美紀のやつ…喋るの早いな…」

とぶつぶつ呟いていた。


そしてみんな帰路に着いた。

学園に到着して解散となる時に麻衣子がまぁやんに

「まぁやんさん、連絡先教えて?」

っと詰め寄った。

まぁやんはあまり気乗りはしてなかったが、電話番号とメールアドレスを教えた。

「相談したい事あったら連絡しますから。じゃあね!」

と言って帰っていった。

「まぁ兄、連絡先教えたの?」

「あぁ、恋の友達だしな。無下には断れないだろ」

「ごめんね…」

「何でお前が謝るんだよ。気にするな」

「うん…」

恋は嫉妬にも似た感情を覚えた。

(やっぱりわたしはまぁ兄に恋してる)

恋のまぁやんへの気持ちは確信に変わった。

だが、今まで『兄』として接して来た気持ちが邪魔をして、素直に受け入れることが難しかった。

まぁやんへの愛が、兄としてなのか、想い人としてなのか…葛藤が続いた。

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