第2話 初恋

あれから数ヶ月が経った。

まぁやんと龍弥は親友と呼べるまでになった。

学園の庭では、まぁやんと龍弥がトレーニングをしていた。

「龍、そういう時はもっとこうだ!」

「そっか!こうか!」

喧嘩のトレーニングであった。

「いいか!4~5人に囲まれたら、まず一番強そうなやつに先手をかけるんだ!そうすると周りのやつらが怯む!」

「オッケー!さすがだな!まぁやん」

するとみさき先生が近づいてきて

「あんた達!トレーニングってそっちかい!」

と大きな声で咎めた。

「だってよ!暇なんだもん!」

まぁやんが戯けて言った。

「暇なら手伝っておくれよ!」

「わかったよ…」

渋々学園の中に二人とも入っていった。

「龍、俺は紗奈さんのとこに行ってくるから、お前は食堂の片付けな!」

そういうとまぁやんはそそくさと裏手に消えて行った。

「チッずるい奴め!」

龍弥は渋々食堂に行った。

裏手では紗奈さんが洗濯物を干していた。

「紗奈さん!手伝おうか?」

まぁやんが紗奈さんに話しかけた。

「ほんとぉ?助かるわぁ。じゃあこれ干して?」

「りょーかい」

まぁやんは大きなシーツを広げて干した。

「これでいい?」

「もうちょっと伸ばして干して?ここを…」

すると紗奈さんがつまづいて転びそうになった。

「あぶな!」

咄嗟にまぁやんが紗奈さんを抱きとめた。

まぁやんの上に紗奈さんが覆いかぶさるように倒れた。

「まっまぁやん!大丈夫?」

まぁやんの体は少し擦りむいただけだった。

「大丈夫!紗奈さんは?怪我ない?」

「わたしは大丈夫…って血が出てるしょ?」

まぁたんの肘から少し血が滲んでいた。

「こんなん、怪我のうちに入らな…」

次の瞬間、紗奈さんがまぁやんの擦りむいた傷を舐めてくれた。

「さ、紗奈…さん?」

まぁやんはドキっとした。

「あっ、ごめんね。逆に汚いよね…」

「いやいや、汚いわけないよ…ただ…ちょっと…」

紗奈さんがまぁやんの顔を覗き込むように

「ちょっと?なぁに?」

まぁやんのドキドキは最高潮に高まって、もうどうしていいかわからなかった。

「いや、なんでもない。俺行くね」

その場から逃げようとした時、紗奈さんがまぁやんの手を引っ張って、抱きしめた。

「え…紗奈さん?…どうしたの?」

紗奈さんがまぁやんの耳元でこう呟いた。

「まぁやん、庇ってくれてありがとう…これくらいしかしてあげられないけど…」

っと言って、まぁやんの耳にキスをしてくれた。

「は…はひ…」

まぁやんの右の耳に、紗奈さんの舌の感触が伝わってきた。

「あ…さ…紗奈…さん…」

その間、まぁやんはもう何がなんだかわからない様子で、紗奈さんのシャンプーのいい香りを感じていた。

「うふ?内緒だよ。わたしとまぁやんだけの秘密」

そう言って紗奈さんはその場を離れた。

まぁやんはしばらくその場から動けず、放心状態だった。

あまりに戻りが遅いので、龍弥が様子を見にきた。

まぁやんが地面に座り込み、ぼぉーっとしていた。

「おい!まぁやん!何やってんだ!」

「あぁ…龍か…」

「何が龍かだよ!何してんだよ!」

「なぁ…龍…」

「あん?なんだよ?」

「俺…紗奈さんに本気で惚れちゃった…」

「馬鹿かお前は!相手は大学生だぞ」

「うん…でも…紗奈さん…あんな…」

「おいおい!何があった?話してみ!」

まぁやんは龍弥に今起きた出来事を話した。

「マジか!お前絶対それ、脈ありだぜ!」

龍弥がまぁやんを焚きつけた。

「そっかな?それなら、俺アタックする!」

「よし!その域だ!そしたら部屋で作戦会議だ!」

ウブな二人は、その日遅くまで告白作戦会議をした。


「なぁ、お前はまだ無いよな…」

「なにが?」

龍弥の問いに怪訝な表情をした。

「何がって…経験だよ。大人の」

それを聞いたまぁやんは

「ばっ!ばか!あるわけないだろ?」

「だよな!じゃあ、初めては紗奈さんか?」

「龍!お前馬鹿か!」

まぁやんは顔を赤らめて否定した。

「まぁまぁ。それにしてもよ、大人の経験ってどんなんなんだ?」

龍弥はまぁやんに尋ねた。

「経験のない俺に聞くかね?」

「だな。じゃあ、わからないことは勉強しようぜ」

そういうと、ふたりで外に出て行った。

ふたりが向かったのは本屋さんであった。

本屋さんの大人の本が並んでる棚の近くで、二人右往左往していた。

「龍、お前が言い出しっぺだろ?お前が買ってこいよ」

「まぁやんの勉強のためだろ?お前が行けよ」

お互い、初めての大人の世界の入り口で、入るに入れなかった。

「あれ?まぁやんに龍弥くん?」

後ろから聞き覚えのある声が…紗奈さんであった。

「どしたの?こんなところで?」

ふたりともビクッとして振り返った。

「や…やぁ、紗奈さん。奇遇だね…」

ぎこちない返事をして、引き攣った笑顔を振りまいた。

ふと紗奈さんが、ふたりの後方に視線をずらした。

「あー!もしかして…ふたりとも…」

ふたりの立っていた場所が悪かった。大人の書籍の目の前であった。

「いや!これは違うんだよ!」

龍弥が慌てふためいて言い訳をしようとする。

「何も、気にしないで。これぐらいの男の子なら当たり前なんだから…ふふ!」

すると今まで黙ってたまぁやんが龍弥の腕を掴んで

「龍!いくぞ!」

っとその場から逃げるように去って行った。

「あっ!ちょっと」

紗奈さんの声を無視して走って逃げ出した。

しばらく走ったのち龍弥が

「待って!ストップ!」

ふたりともとまって息切れを整えた。

「はぁ、はぁ、いやー焦ったなー」

龍弥が笑いながらまぁやんに言うと

「……」

まぁやんは無言であった。

「どうした?何むすっとしてるんだよ?」

まぁやんは近くにあった電柱に向かって拳を叩きつけた!

「おい!何やってんだ!」

慌てて龍弥がまぁやんを制止した。

「くそ…なんだよ…男の子って…馬鹿にしやがって…」

「はぁ?それで怒ってるのか…しゃーねーだろ?彼女にとっては俺らはまだ子供なんだから…」

まぁやんは地面を蹴りつけた。

「わかってるよ!そんなこと。でもよ…」

まぁやんはひとりの男として見て欲しかったのだろう。

それが本人の口から『男の子』というワードが出たのがショックだったようだ。

「…まぁやん…帰ろうぜ…な…」

龍弥がまぁやんの肩を組み、タバコを差し出した。

まぁやんはそのタバコを咥え、龍弥も同じくタバコを咥えた。そして龍弥のジッポでふたりで火をつけた。

「ふぅ~…なぁまぁやん、紗奈さんの事、許してやれよ。悪気は全くなかったんだし」

「わーてるよ!ちょっとショックだっただけだ…」

龍弥がまぁやんの肩を『ポンポン』っと2回軽く叩いて、ふたりは帰路についた。


それから、まぁやんは意図的に紗奈さんを避けるようになった。

その態度は、すぐに紗奈さんも気づくようになった。

「まぁやん。最近どうしたの?何か私を避けてない」

「別に…」

思春期のせいもあるのか。頭ではわかっているけど、いざ目の前に本人がいると、そっけない態度をとってしまう。

紗奈さんも原因が自分にあるのではと考えるようになった。

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