はじめての魔獣狩り

第16話 六属性のハイエルフ

 碧眼の瞳を受け継いだ私は、祖父母のように強い精霊魔法を砲撃できるようになるということで、最近はばぁばの指導のもとで精霊の守護を張ったまま遠隔属性射撃をする訓練が中心になっていた。剣や弓の鍛錬が一段落ついたのかわからないけれど、魔法の射程が伸びれば弓の射程も自然と伸びるということでバランス良く伸ばすのがいいのだとか。


 パァン! パァン! パァン! パァン! パァン! パァン!


「はい、次は六属性並列斉射」


 パァン! ×6


 精霊魔法だからかもしれないけれど、2km先の的でも簡単に六射皆中してしまう。確かに弓と組み合わせれば、命中率も格段に上がるのかもしれないと一人で納得していると、


「フィスは他の属性に比べて楽と感じる属性はないのかしら?」


 と、六射均等な的中跡を見てばぁばが尋ねてくる。

 楽と言われてもピンとこなかったので、風、火、水、土、光、闇について、しゅぽぽぽぉーとそれぞれの属性の霊弾を浮かべ、回転させて頭上げ弾けさせる。その結果、まったく差を感じないかったので特にないみたいと答えた。

 生まれた時から付き従ってくれている六属性の精霊も中級精霊並みに成長しており、それぞれ均等に精霊波長強度を感じる。


「フィスの歳になれば普通は差が顕著に出てくる頃なのだけれど、ここまでくると得意属性は無しということになるのかしら」

「得意属性? そんなものがあるの?」

「カイルが風、ばぁばが火をよく使うでしょう。基本的には一つに絞って極めることになるのよ」


 なんということでしょう、私は何一つ極めることができないのかしら。


「ちょっと一属性ごとに全力でばぁばに撃ち込んでみなさい」

「えぇ~! 大丈夫なの?」

「全然平気よ」


 どうやら今の私の精霊では、ばぁばの精霊の守りを突破できないらしい。それなら、と気合を入れなおして精霊の砲撃を全力で全属性を順番に六連射した。そんな力を込めた砲撃だったけれど、微動だにせず受け止めたばぁばは頬に手をあてるようにして考え込んでいた。


「まさか……ちょっと六属性全てを一つに収束するように全力で撃ってみなさい」


 言われるままに六属性収束砲撃をすると、いつもと違って霊弾が虹色に輝いた。着弾しても相変わらず全く効いていない様子には変わらなかったけれど、満面の笑顔を浮かべている。


「わかったわ、フィスはなのね」


 得意でもばぁばには全く効かないのだけど……。

 そんな考えが伝わったのか、歳を経た大精霊と生まれて間もない中級精霊では属性に関わらず比較にならないと教えられた。物理だけでなく魔法もいつになったら大人になるのかわからないパターンなのね。それはさておき、


「全部得意ならどうするの?」


 どうするのかしらと、ばぁばもわからない様子でいた。結局、あとでじぃじと相談することになった。


 ◇


「全属性極めるのじゃ」


 エルフは脳筋だった!

 それは冗談として、じぃじの話によると複合属性魔法は単属性より強力になるそうだ。例えば火を風で燃え上がらせたり、風と土と水の組み合わせで雷を発生させたりできるそうだ。


「火と風の相性はじぃじとばぁばの話でわかるけれど、雷なんて発生させられるのかしら」


 そう思って風と土と水の霊弾を発生させて融合させてみると霊弾が雷球に変化してバリバリと物凄い音がしはじめた。


「あぶないわ……」


 慌てて魔力を解いて雷球を霧散させると冷や汗が出た。こんなの水場で発生させたら集団感電死してしまうわ。複合魔法が強力そうなのはわかったけれど、ばぁばの話では一つを極めたエルフと全部を極めたエルフでは同じ単属性で勝負したら勝てなくなるのではないかしら?


「同じ属性で勝負する必要はないじゃろ」


 基本的に風は火に、火は水に、水は土に、土は風に弱いのだから弱点を突けばいいらしい。でも光と闇はどうなるのかしら? そう問うと、闇は光に弱く、光同士であれば、光と闇の複合魔法で虚無を放てばよいとのことだった。どうやら光と闇の属性を合わせると消滅魔法になるらしい。そうすると、単属性で一番弱点がないのは光なのかしら?


「今後の訓練じゃが、大体、全力の七割くらいの精霊力を起きている間ずっと維持して過ごし、それが当たり前になり、寝ても覚めても常態化するようにするのが基本じゃ」


 どれ、基準となる七割の強さを測ってやろうと、じぃじは私の肩に手を置いて、精霊に魔力を込めるように伝えた。


「うぅ〜ん、えい! これくらいかな?」

「……まだ三割くらいじゃ」

「えぇ! おかしいわね」


 そう言ってうんうん唸る私を見て、ばぁばは予備動作なく近づいてきたかと思うと、


「胸元じゃなくてここで魔力を回転させるのよ」


 へその下をグニっと押し込んだ。


「ふぎゃ!」


 と思わず変な声が出てしまったが、押し込まれた場所で集中させるように魔力を回転させると、私を中心にブワッと周囲の草が精霊の圧力で押し広げられた。


「おぉ、いいぞ。五割、六割……今が七割じゃ」

「もの凄く楽に精霊力を高められるようになった気がするわ!」

「フィスは小さい頃に魔法の基礎をスキップさせ過ぎたわね」


 魔力の込めの変な癖が取れるまで、十年くらいそうしていなさいと宣うスパルタ気味のばぁば。こんなに精霊力を上げた状態でいて干からびないかしらと心配すると、肩から手を離したじぃじが、「大丈夫じゃ、問題ない」といって笑った。


「……そう、余裕過ぎるぐらいじゃ」


 呟く様にばぁばに囁くじぃじの言葉は、しかし、私の耳には入らなかった。


 ◇


「ファールよ! わしらの孫娘は天才じゃぞ!」


 フィスリールは属性精霊のどれもが均等でありながら、同じ年頃のエルフの得意属性の精霊の精霊力を軽く凌駕していた。しかも七割の精霊力を長時間維持してケロッとしているのだ。


「まさか最初から精霊力を維持していられるとは思わなかったわね。冗談だったのよ?」


 そう言うファールは最初は十分や二十分で音を上げると思っていた。年若いエルフには、瞬発力ではなく持久力こそが足りないことを自覚させる。そう、あれは成人が近づいた魔力の強いエルフに課せられる恒例教導だったのだ。

 しかし、フィスリールは何時間しても精霊力の維持を止める素振りを見せない。


「実はの、三割の魔力で既に要求以上じゃった」


 直接接触したことで魔力経路を流れる限界に対しての流量を測ることができた。要求以上の流量でありながら、全くキャパシティに到達していなかったのだ。


「その三割の魔力で虹色砲撃エレメンタル・バスターを撃ったのよ? 喜びに震えたわ」


 虹色砲撃エレメンタル・バスターは、全属性を全くに合わせた魔力を込めることで初めて撃てる熟練エルフの集団複合魔法だった。それを属性間調整を意識せず撃てると言うことはつまり、フィスリールに苦手な属性は無く、全ての属性を極められることを意味していた。ハイエルフの先祖返りは伊達ではなかったのだ。

 しかし、伸びるものはとことんまで伸ばすのがエルフ流だ。それらをフィスリールに伝える気は微塵もなかった。自覚ないまま、とことんまで鍛えるのじゃ。


「こうなると、精霊の守りを維持させたまま魔獣でも狩らせるしかないわね」


 平時で問題なく戦闘待機時を基準とした七割の精霊力を維持できるのであれば、今度は戦時で問題なく維持させるまでだった。


「まだスタンピードの時期には早かろう」

「あちらから来ないと言うのなら、こちらから行けばいいのよ」

「それもそうじゃのぅ」


 こうしてフィスリールの特訓メニューが本人の知らぬ間に検討されていった。


 ◇


「まだフィスには早いのでは……」

「どこの世界に未成年のエルフを連れて魔獣の巣に突入する祖父母がいますか!」


 娘が妙に精霊力を高めた状態を常時維持するようになったかと思ったら、成人前の魔法教導が始まって数日もしないうちに最終教導でも行かない場所に孫娘と突入すると言うのだ。尋常じゃないスピードで進行する私の魔術訓練に、両親ともが猛烈に反対する。


「そんなに心配なら全員で行けばいいじゃない」


 ばぁばの提案にお父さんとお母さんはキョトンとして目を見合わせると、それもそうかと剣と弓を取り、準備完了とばかりに私の前に隊列を取った。


「「さあ、出発だ」よ!」


 どうやら家族で魔獣狩ピクニックりに行くことになった様です。

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