第7話

 最寄り駅までアーケードな商店街が通じており、日差しが出始める朝に日陰を探して歩く手間が省けるからという理由で桂花はこのアパートを選んだ。

 商店街で商いを営む人たちの平均年齢は高く、それに比例して起床してから開店時間まで余裕があるのに彼らはすでにシャッターを開けてのんびりとした空気の道を築いていた。


 おはようございます


 のほほんとした青果店の老人に挨拶がわりの会釈をすると老人は笑顔で手をふり返し、淡いオレンジを漂わせる。

「お は よ う」

 口をゆっくりと大きく動かして挨拶をしてくる人にも桂花は会釈をしたり、手話で挨拶をしてくる人には手話で返したりとしてやっと商店街を抜けた時には、時間に余裕をもって家を後にしたにもかかわらずギリギリの時間で最寄り駅に着いていた。


 お昼ご飯代浮いちゃったー


 手には商店街でもらった袋が持たれており、中には冷めても美味しいともっぱら噂の惣菜やパンが入っていた。

 ホームでしばらく待っていると電光掲示板がチカチカと文字を点滅させながら車両の到着を告げ、しばらくしてホームの向こうに見えていた広告板を遮るようにして電車が到着した。

 ドアの脇に立ち、降りる人がいなくなってから桂花は反対のドア近くのポジションへ流れるようにつく。


 今日はどんな人がいるかな


 ドアが閉まる微細な振動の後、徐々に右へと通り過ぎる風景を見ながら桂花は胸を躍らせた。

 洗濯物を干す人、自転車を悠々と漕ぎながらこっちに手を振ってくる学生、ママチャリの後部座席に子供を乗せて全力疾走をする女性──と後ろから何かを持って追いかけている男性。

 最寄り駅に到着し、さまざまな色と形が舞う改札から大学へと向かいながら桂花は思う。


 今日は喜びが多かったかな


 車窓から見えた人々も橙や藍、桃色などさまざまな色を発し、それらは全て満開の花のような形をとっていた。

 改札と外を行き交う人々の頭上にも同様、花弁の形も大きさも何一つ同じ形のない花がふわふわと浮いていた。

その中で、桂花は見慣れた色合いの花が目に映った。


あ、昨日の人だ


授業が終わった後に会話(?)をした生徒のことを思い出し、人混みの間から見える長髪をゴムでまとめた少し華奢な印象を持たせるに後ろ姿に、桂花はなんとなく予想外だと思った。

桂花は話しかけようと思い、彼女に近づきながらも、どうやって会話を成立させようかと迷った。

そんな時、二人の間にあった人混みがタイミングよく解消されていき、桂花は彼女の持っている物に目が行く。


白杖……?

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