第13話 夕食

生命力供給装置を手に入れた後、自室で魔法の検証&練習をしていた。


…魔法や魔装は理論さえ覚えてしまえば、プログラミングの要領で自由に組み立てられる。さらに、魔法陣の展開や魔装の顕現に使う魔法文字には”漢字”が使える。“漢字”と“奴隷生活を耐え抜いた経験”が私のアドバンテージ。…


“トントンッ―


「どうぞ。」


屋敷のメイドが扉を開き入室してきた。


「シーラお嬢様。夕飯の準備が整いました。食堂へおいでください。」


…これでご飯が不味かったら、ここにいる価値はもはや無い。…


新たな決意を胸に食堂へと向かう。


………

……


食堂に入ると、3モドキ(父、母、弟)がすでに椅子に座っていた。


メイドに誘導されて席につくと、兄モドキがこちらを睨みながら口を開く。


「おいッ!貴様ッ!俺様になにか言うことはないのかッ!」


兄モドキの言葉など耳に入らないくらい食欲を誘う香りが部屋中に漂っていた。


…この匂いはビーフシチュー?香ばしい小麦とバターの匂いもする…。焼きたてのパンか?…


「話を聞いているのかッ!!!」


“ブンッ―


激昂した兄モドキが、手元に置いてあった食事用のナイフを投擲した。


…オーラが纏っていないのなら、防御する必要もない。…


“キンッ―カラン―カラン―


ナイフは、私の常時纏っているオーラに弾かれ、床に落ちた。


渾身の力を込めて投擲したナイフが、まるで埃でも払うかのように軽く弾かれたのを見て、兄モドキはさらに激昂した。


「くぅッ!身体強化スキルがちょっと使えるからといって調子に乗りやがってッ!俺様は王族なんだぞッ!」


…この状況はどう考えてもコイツに非があるはずなのに誰も注意しようとすらしない。無能すぎて王宮から払い下げられたからといっても”元”第三王子だから、親モドキ達も何も言えないのか、それとも私の立場が想像以上に低いのか。…


「無視をするなぁぁぁッ!」


”ガタンッ―タッタッタッ…


兄モドキが急に立ち上がり、給仕達が作業をしている方へと駆け寄る。


…まさかッ!?コイツ!食糧を人質にする気かッ!?チィィィッ!!!どこまで卑劣なんだッ!!クズめッ!…


右手を兄モドキの足下に向けて魔法陣を展開する。


闇魔法

―“十露盤板”―


“漢字”によって描かれた魔法陣が輝き始め、兄モドキの周囲に重力波が発生する。


ジジッ…ジジッ…ジジッ…―


「な、なんだ?これはッ?…ッ!!!か、体が重いッ!うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!」


兄モドキに何倍もの重力がかかり、その場に正座したような状態になっていた。


「グアァァァァァァッ!」


父親モドキをはじめとした食堂にいた人間が、兄モドキがその場に座り込みただ悲鳴を上げている唖然と光景を眺めていた。


「み、見たこともない魔法文字で描かれた魔法陣に…、見たこともない魔法…。」


…“漢字”で闇魔法を補強すれば、重力を操ることもできる。…


「うわぁぁッ!いだいッ!うぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…うギャァァァ…お前らぁぁぁぁッ!俺を助けろぉぉぉぉぉ…ウギャぁぁぁぁぁぁぁッ!


兄モドキの悲鳴が大きくなる。


…遠目からは正座しているだけにしか見えないけど、自分の体重よりも重いものを乗せられて相当苦しい状態。でも、断末魔をあげるには早すぎる。…


空間魔法

―“ディメンションヴェール”―


兄モドキの周囲に真空で出来た異空間の膜を張り、断末魔をかき消した。


「「「……………。」」」


…何とか食事を守った。…


食卓は静寂に包まれ、食事を守った私は何事もなかったかのように目を閉じてことのなり行きを見守る態勢に入った。


「「「……………。」」」


ようやく思考を回復した父親モドキが激昂した。


「シーラッ!何をやっているのだッ!!早く魔法を解けッ!」


…食事を守る使命は果たしたから、解除してあげるか。…


“パチンッ―


私が指を鳴らすと重力魔法と空間魔法が解除された。


「プハァッ!…はぁ…はぁ…はぁ…………」


兄モドキは肩で息をしながら疲労困憊の様子で、その場に仰向けになった。


「「「ご無事でございますか?」」」


そして、親モドキ達が兄モドキに駆け寄っていく。


…これは夕飯どころじゃないな。…


闇魔法

―“神隠乃衣”―


私は闇魔法で姿を消すと、ゆっくりと立ち上がり、気付かれないようにそっと食堂の扉を開いた。


…ふふ。今日の夕食(ビーフシチューとバターロール)は根こそぎいただく。…


重力魔法と空間魔法が解除したときに、こっそり次元収納で回収した夕食と共に、私は食堂を後にした。


…結果オーライとしておこう。…

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る