第6話 今日の反省会

 夕日で卵の黄身のような色に染まった俺の自室に辿り着いた俺は、全身の気を抜いた。


「ふわあ、今日も疲れた……」


 制服を洗濯に出し、朝までに乾くように祈りながら部屋着に着替えた俺は自室のベッドにダイブし少々固い枕を掴んで考えを巡らせていたのだ。

 今日もイベント盛りだくさんだった。

 ただし、ブルーになるイベントばかりだが。

 まあ、変化はあるのでバリエーションには飽きない。

 うん、俺は変化なしの日常になりそうになると、無理やり変化をつけに行くからな、って俺ってどんなエンターテイナーなんだよ。

 連中の言っていた金。明日五百円……持って行くまい。「忘れた」と言い張ろう。

 うん、こういう抵抗が明日の変化を、そして未来の変化を産むのだ。

 世界の変化は俺色に染めるためにある。そうだろ? だって、俺の人生だもの。

 と、マークたちには屈しない姿勢を示すというよりも、俺の予想ではきっと大事なのは金額じゃない。

 なじられたらどうする? いや、どうするもなにも『忘れた』だ。わかったな、俺?

 ただの嫌がらせなのだと断じる。

 というわけで、俺は一瞬で懸案事項を闇に葬る。

 俺、考えるな。無駄無駄。自宅にいる時間くらいは嫌なことを考えまい。

 そう決めると、肩に入っていた力が少し和らいだ。

 でも、0.3㎜シャープペンは痛かった。

 父さんの俺へのプレゼントであり、俺のお気に入りになりつつあった金属質なシャープペン。

 あのシルバーの輝き。

 俺は誓う。もし次に手に入れることがあれば、今度は絶対に人に渡さない。

 うん、できるだろうか……ではない。渡さないのだ。なにがあろうと俺はもう、誰かに渡すようなことはしない!

 と、意気込んでみたものの。

 夕日を受けた窓。黄色に赤にと染まる俺。

 世界が赤に染まりゆく。

 綺麗な夕焼けだった。

 でも、俺の人生の夕焼け、そして日没にはまだ遠い。

 俺には素晴らしい未来が待っているはずなんだ。いや、待っている。違う違う。もう今の俺には日々の過酷なをこうして過ごす、鍛錬のおかげで幸せのかけらを受け取る権利が芽生えているに違いない。

 と、思ってみました。

 うん、今日は今日。もう終わったことだ。

 いつまでも後悔し、くよくよする必要はない。

 意のままにならず、失敗を真っすぐ見つめ、ただ、明日以降に同じ間違いをしなければ良い。

 そういうことだろ?

 俺は大きくため息を吐く。

 ああ、でも。願わくは。

 神でも悪魔でも良い、だれか今の俺の境遇を救ってはくれないだろうか。

 頼む、頼むよ!

 俺は枕に顔を押し付け、枕を引き剥がし、部屋の戸に投げた。

 ポンと音がする。

 うん、物に当たってしまった。反省。


「夕飯よ、出て来なさい、公春(きみはる)、翠(すい)!」


 母さんの声がする。

 ゆっくりと立ち上がった俺は枕を回収しベッドに戻すと、扉を開けて夕食の待つ我が家の食卓へと向かったのである。

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