episode 38『霧深い街のカーニバル』

 眠れない夜、ベッドで詩を書いていた。

 上空では雷が鳴っている。激しい雨が降りそうで物憂い。ノートから顔を上げるとまばゆい光が目に焼きついた。閃光が走る夜はカーニバルのパレードを思わせる。賑やかな雑踏から離れ、路地裏は霧に覆われている。

 大通りには、霧の中から電飾で飾られたパレード車が現われている。

 電飾は周囲を照らしているようでも十分な明るさではない。夜霧に隠され、多くの怪人物が群衆にまぎれている。

「オヤ、あれは人間じゃないぞ」

 あちこちで悲鳴が上がり、パレードは不穏な空気に包まれる。……私はペンを置いた。

 窓の外では雨が降り始めていた。

 憂鬱な気分はいよいよ頭をもたげてきていた。そのせいだろうか、私は起きたままで夢を見始める。バルコニーでは幼い子供たちの夢が花火をしている。

 突然現れた子供たちが私の家のバルコニーで花火をする訳がないから、夢だということははっきりしている。

 しかし私は起きたままでAR映像のように夢を見ているのだった。このように現実の中に夢が侵入してくることはよくある。

 夢の子供たちに声をかけても返事は無論ない。触ることはできる。夢の私が現れ、夢の手で触るだけだ。その場合は今いる私はここにいるままで、幻の身体が出かけていって触る訳で……。考えている間に朝が訪れていた。

 今日も私は眠れなかった。いや、眠ったのだろうか――。

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