女神の選択肢

女神エルカレナは、

「貴方には3つの選択肢が用意されています。」

指で3を作りながら話し始めた。

「聞かせてくれ。」


コクリと笑顔で頷き、指で1を作り前に出しながら、

「1つ目は記憶をすべて消去し、本来あるべき輪廻転生をします。レインが救った世界でレインとはまったく別の人として転生します。

この場合、レインへのお礼として女神の加護が与えられます。

非常にハイスペックな存在として産まれますので、よほど大きな過ちを犯さない限り、幸せな人生が送れるでしょう。」

「幸せだが、俺という人格は失われるわけか。」

「その通りです。

本来の輪廻転生で、産まれた時の能力や環境が非常に優遇されている。

そういう選択肢です。」

「なるほど。」



少し間を開けて、指を2に変えた。

「2つ目は、異世界での転生です。

貴方が今までいた世界にかなり似たルールの世界での転生です。

この場合、レインの能力や記憶など全てを引き継いで、産まれます。

身体もこちらで用意しますので、成長後の見た目も同じになります。

更に女神の加護を与えます。

今の状態を引き継いで、更にパワーアップするイメージです。」

「破格な条件だな。」

「はい。ただし、再び『勇者』として産まれますので、魔王討伐をして頂きます。」

「却下だ!」

「しかし、今度の魔王はレインが先ほど倒したデスガーランドよりも格下です。負けはしないと」

「却下だ!俺はもう『勇者』はしない!

それは決定事項だ!」


もう二度と勇者なんてやってたまるか!

どんだけ良い条件を出されても、もう嫌なんだ!


「私としては一押しだったのですが。」

「くどいぞ!次に行ってくれ。」


魔王討伐をさせるために破格の条件で転生させるということなんだろう。



「わかりました。」

女神エルカレナは残念そうに肩を落とす。

指で3を作って、

「3つ目ですが、こちらも異世界転生になります。

ただし、2つ目と異なるのは、こちらが用意した身体ではなく、死んだ直後の身体に魂が入ります。」

「じゃあ、老衰で亡くなったじいさんに転生して、すぐに死ぬ可能性もあるのか。」


「それはありません。

転生先には幾つかの条件があります。

まず、若さ。新しい魂を受け入れられる柔軟さが必要です。

次に亡くなってすぐであり、身体が健在であること。

そして、レインの魂と相性が良いこと。

以上の条件を満たした身体からランダムに選ばれます。」

「なら。それほど悪くは無さそうだな。」

「運次第です。

大きな病に冒された寝たきりの少女になる可能性もあるんですよ。

若くして亡くなり、身体に大きなそんなに損傷がないということは、病が死因の可能性は少なからずあります。

性別は判断基準にならないので、また男になる可能性は五分五分ですね。」

「なるほど、運任せで、俺の希望と大きく異なる可能性も高いということか。」


「はい、その通りです。さらに欠点があります。それは身体に残った魂の残滓の影響を受けるということです。

レインの魂と身体に残った魂の残滓が溶け合い、変質してしまいます。

レインとは似て非なる存在になります。

レイン自身が変質しているので、どこがどう変わったかもわからないでしょう。」

「なるほど身体の元の持ち主の影響も受けてしまうということか。」


「そうです。さらにもう1つ欠点があります。すでに存在する身体に入るため、女神の加護を与えることがほぼできません。」

「女神様のサポートも無しということか。」


「私も立場上、この選択肢も紹介しますが、お薦めはしません。」


なるほど。

女神の意思に従う『2』は破格の好条件。

『1』は自然の摂理に従うだけだから、デメリットは無く、楽しい人生が送れる。

『3』は運次第。しかも輪廻転生の摂理に背く行為だから、明確なデメリットがある。


よし!

結論は出た。

「俺は、3を選ぶ。

デメリットは十分理解した。

だが、俺は俺として、『勇者』ではない人生をやり直したいんだ!

失敗したっていい!

世界の存亡をかけた人生じゃない、

自分の未来だけをかけた人生を歩みたいんだ!」

「貴方の決断を尊重します。」


女神エルカレナがそう言うと俺の身体が不意に輝いた。

「肉体が無い状態ですので、満足な加護は与えられませんが、ほんの少しだけ、魂に加護を与えました。

レイン、貴方のこれからの人生に幸多からんことを祈ります。」

「ありがとう。女神エルカレナ様。」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る