Black Ops

@force16

プロローグ

「もっとも立派な武器はもっとも大きな悪をなす。知恵深き人は武器に頼ることはしない。彼は平和を尊ぶ。彼は勝っても喜ぶことをしない。戦勝を喜ぶことは殺人を喜ぶことを意味する。殺人を喜ぶような人は、人生の目的に達することはできない」

ー古代中国の思想家、老子より。


イラク、バービル県の郊外。

舗装された道路を走る黒塗りのBMWの中に様々な人間がいる。

テレビの洋楽を聴いてノっている男、退屈そうに座席で足を伸ばす男、スマホでネットニュースを見る少女、そして物静かにその場を観察する俺。

人種、国籍、年齢、性別も違う彼らだが、共通してある装備をしている。

作業員でも警察でも軍隊でもない、しかし戦闘に適した装備を身に付けている。

俺も私服にボディーアーマー、装備ベストを着ていて、ベストやベルトには色んな装備品がある。

両手には世界で有名な突撃銃アサルトライフル、M4A1を握っている。

銃には2~4可変スコープ、サプレッサー、レーザー照準器、フラッシュライト、そしてM203単発式グレネードランチャーをハンドガードの下部に装着している。

他のメンバーの似たようなアタッチメントを着けた銃を持っている。

腰のホルスターにはオーストリア製のG17自動拳銃。

こっちにはレーザー照準器しかアタッチメントを着けていないが、一応サプレッサーを用意してある。

今回は突入があるのでM870を持ち込んでいる。短縮されたポンプ式ショットガンで、シェルホルダーには色んな散弾をはめ込んでいる。

手榴弾は通常のM67プラググレネード、スモークグレネード。M203用にグレネード弾も持っている。

「おい、いつまでエゴサしてるんだ。ラビット」

兎のコードネームで呼ぶと、ラビットはスマホを俺に見せた。

コイツ、スマホでデザートの写真を見てやがる。

「甘党がデザートばっかり食ってたら太るぞ」

「太らない体質なんで問題ないでーす」

中指を立てながら俺の指摘を軽く返すラビット。

Tシャツの上に女性用のアーマーを着け、頭に兎の軍用ヘッドセットを着けている。

ラビットの武器はPDWのP90だ。5.7ミリの専用弾を使う。

かなりSFみたいな見た目で、マガジンは上部に装填される。弾が排出される時は下から出る。

ホロサイト、サプレッサー、レーザー照準器をP90に装着している。

ホルスターにはFive Seven自動拳銃。P90と同じ弾を使う。

「ジョーカーも何か暇潰ししないと、いざ任務だという時に本領発揮できないよ」

「うるさい、さっさと任務終わりに食うデザートを考えてな」

ジョーカー、それが俺のコードネームだ。

この部隊は本名で呼ばず、互いにコードネームで呼び合う。

隣のラビットもそうだし、ドライバーのウッドやシムもそうだ。

これから特殊任務を行い、誰かの汚れ仕事を行うのだ。

秘密主義の俺達はどんな情報も秘匿する。それがプロってものだろ?


今日は月明かりがあって多少は助かる。しかしそれは敵にも見えるって事だ。

1時間後、何もない路肩で車が停まり、俺達は車から降りた。

既に他の仲間が待機していた。頼れる仲間達が俺達と合流する。

俺はこの部隊の長に話しかけた。

「ジョーカー、待ってたぞ」

「文句ならウッドに言え。で、状況は?」

「CIAからの報告では、今から向かうISの拠点に機密文書がある事を確認している」

「じゃ、作戦通りか。ドローンは?」

リーダーが指を上に向ける。もう待機してるって事か。

「時間は限られてる。これより行動を開始する」

この部隊のリーダー、コードネーム"大尉"が全員に伝える。

大尉はアメリカ人で、元ネイビーシールズの男だ。

装備も米特殊部隊らしい装備。デザート迷彩の戦闘服の上にアーマーやバックパックを装備している。

生粋の軍人気質で、暗視装置付きのヘルメットを被ってる。

大尉の武器はMK18 Mod.1。

特殊部隊で使われている5.56ミリアサルトライフル。

ホロサイトとフォアグリップ以外は俺と同じだ。

サイドアームはM45A1、45口径のハンドガンだ。ドットサイトとフラッシュライトを着けている。

「作戦通り、3つのチームに分ける。俺のチームは拠点の西側から回り込む。ジョーカーのチームは正面から拠点に潜入しろ。ガンナーは裏へ向かい、戦闘時には敵の撤退を阻止しろ」

「了解」

「あいよ」

俺とバンダナを頭に巻いた金髪のアメリカ人ガンナーが返事する。

ガンナーは元アメリカ陸軍兵士だ。大尉のツテで部隊に参加した。

持っている軽機関銃はMK46 Mod.0。

150連箱形マガジンを装填していて、高火力な射撃が可能だ。

ホロサイトとレーザー照準器を着けている。サプレッサーはすぐに使えなくなるから着けていない。

ガンナーのチームが先に出発し、その次に大尉のチームが出発した。

「俺達も行くぞ」

俺もラビット、ウッド、シムを連れて敵の拠点へと向かった。

今回の任務はISの拠点にある機密文書の奪取だ。

CIAからの依頼で、機密文書を手に入れてテロ撲滅作戦に動くらしい。

しかしSOGや他の部隊を運用するには情報の制約が多い。機密文書は軍にさえ秘密にしないといけないそうだ。

だからどこにも属さない俺達に依頼したのだ。

金額に見合うだけの危険な任務だが、俺達はその任務を何度も成功させてきた。

数十分後、徒歩で歩いた先にISの拠点が見えた。

高所で伏せて、オペレーターに連絡する。

「イーグルアイ、ジョーカーだ。配置についた」

『了解。他のチームも配置済み。いつでも潜入してもいいよ』

耳のインカムからオペレーターの少女の声が聞こえる。

『敵の数は20数人、見張りが四方にそれぞれ2人いる。他は熟睡してるわ』

「了解、これより潜入する」

俺達は暗視装置を装着し、敵の拠点へと足早に向かう。

拠点へは難なく到着し、内部へと縦一列で向かう。

M4A1を構えながら進むと、視界に見張りのIS戦闘員2人が映った。

「正面に敵、2人だ」

今のISはテロリストのくせにアーマーを着けている。

先のアメリカ軍のアフガン撤退でアメリカの装備が非合法組織に出回った。

この拠点の敵もアメリカ軍の旧式ボディーアーマーを着けている。

俺とシムはライフルを構え、タイミングを合わせて引き金を引く。

2人のIS戦闘員は撃ち殺され、地面へ後ろに倒れる。

障害を排除した俺達は奥へと進む。

すると、オペレーターから報告が入った。

『悪いニュースだ、寝ていた敵が一斉に起きた』

俺達は路地裏に隠れ、オペレーターから詳細を聞く。

『建物内で電話していた敵がボタンを押して仲間に通報した。どうやらサイレントアラームがあったらしい』

「そんな情報、どこにもなかったぞ。CIAめ、見落としてたな」

おかげで敵が俺達の侵入に気づいたぞ。

機密文書を持ってかれるか処分されてしまうぞ。

『ジョーカー、敵がそっちへ向かってるぞ』

しかも位置まで掴まれてるか。テロリストのくせに立ち回りが早いな。

確認してみると、AKを持った戦闘員が外敵が来た時の蜂のようにやって来た。

「建物に入れ」

隣の建物に入り、素早くクリアリングを済ませる。幸いな事に敵はいなかった。

『どうして潜入がバレたんだ?完璧だったのに』

「この仕事に完璧はないんだ」

俺とシムが窓から監視し、ラビットとウッドが裏側を見張る。

戦闘員は辺りを見渡しながら移動し、1人が無線で連絡を受けると俺達がいる建物を見た。

「おい、誰かに見られてないか?」

「可能性はあるな。大尉かオペ、調べてくれないか?」

シムが大尉とオペレーターに調査を頼む。

戦闘員は建物をじっくり見た後、AKを構える。

建物へ一斉射撃するつもりだろう。

「させるか」

俺が先にM4A1を撃ち、戦闘員を倒す。

「إنه عدو! أنا في المبنى!(敵だ!建物にいるぞ!)」

「اقتلوا في سبيل الله!(アッラーの為に殺せ!)」

IS戦闘員が叫びながらAKを発砲する。

「ジョーカー、交戦する」

「シム、交戦」

俺とシムはライフルを撃ち、戦闘員へ向けて射撃する。

建物へ敵の弾が当たり、窓から貫通する弾があって姿勢を低くする。

敵の大半が発砲し、数人が建物に向かってくる。俺がその戦闘員を片付ける。

敵の激しい銃撃が絶えず行われ、身動きが取れない。

「シム、ラビットと代われ。俺とラビットで食い止めている間に退路を確保しろ」

「了解」

シムが去った後、ラビットが代わりに入り、P90をバーストで撃つ。

今頃ウッドとシムが裏から退路を確保しているだろう。

その間、俺達が敵を引き付ける。

『ジョーカー、敵の裏を取る。30秒持ち堪えられるか?』

「何とか頑張ってみるよ大尉」

大尉のチームが敵の裏をかく為に移動している。

大尉が奴らを倒してくれるなら、その間体張ってやるさ。

何度も弾が撃ち込まれ、壁から貫通した弾が飛び交う。

「ヤバいな。ラビット、合図したら後退だ」

俺がそう伝えた時、

『正面にRPG!』

オペレーターからの大きな報告が入った。

俺は迷わずラビットを抱え、後ろへ飛び込む。

次の瞬間、壁が爆発した。

爆音で耳鳴りし、砂塵が口に入って咳き込む。

耳で足音を感じ取り、M4A1を取って発砲。

侵入してきた戦闘員を3人片付ける。

他にも来ないかと警戒していたが、戦闘員は大尉のチームに襲われて次々と倒れていた。

今頃来たのかよ……。

俺は守ったラビットを起こして、声をかける。

「おい、大丈夫か?」

「……うん。大丈夫だよ」

そう言うラビットは顔を下に向けたまま答える。

「どこか痛むか?」

「大丈夫だから……」

放っておけと俺から離れた。

何だよ、アイツの態度は?助けたのに。

「大丈夫か?」

壊された壁から大尉が現れる。

「無事だ」

「危ない所だったな。文書は俺達が奪取する。お前達は2人と合流しろ」

そういえばシムとウッドに退路を確保させてたな。

大尉と別れ、俺とラビットで建物の裏から出て2人を探しに行く。

「おい、2人はどこだ?」

『2人のGPSを感知。拠点の広場にある模様』

その広場へ向かうが、そこに2人の姿はない。

くまなく探すと、布に誰かが被せられていた。

まさかと思い、布を剥がす。

「……!」

シムとウッドの2人が死んでいた。頭と体に銃創がある。

「ラビット!2人が死んでる。すぐに大尉の所へ、」

ラビットにこの場から離れるよう伝えている途中で、建物の屋根から銃撃を受けた。

転がって木箱に隠れ、少し弾を凌いだ後に反撃。

屋根の上の敵を倒した。

ラビットがどこにいるのか見渡していると、近くの路地からライフルを構えた男が現れた。

すぐにM4A1を向けた時、抑制された銃声が数秒連続して鳴り、男が前のめりに倒れた。

「ごめん。敵に襲われてた」

路地からラビットが出てきて、俺に謝る。

「怪我はないな?」

「うん」

『ジョーカー、ラビット。大丈夫か?』

オペレーターから無線が入った。

「もう少し早く報告してくれないか?」

『悪い。敵がサーマルに引っ掛からなくて発見が遅れた』

サーマルに引っ掛からないだと?

俺はラビットが倒した敵の姿を見る。

黒い武装をした正体不明の隊員だ。顔はガスマスクで覆われている。

ガスマスクを外してみると、中国人の素顔が現れた。

短髪の中国人……まさか。

男の装備品を探ると、腕に中国語のタトゥーがあった。

鷹の羽に中国語で坚强的战士(屈強な戦士)と彫られている。

「マジかよ……」

「中国の特殊部隊……」

俺とラビットは正規の中国軍の特殊部隊員を殺ってしまったと衝撃を受けた。

その事を報告する。

「ジョーカーだ。まずい事になった。中国の特殊部隊と交戦し、殺っちまった」

『こっちも文書を守っていた特殊部隊を倒した。やはり中国人だった』

そっちにもいたのか。

「何故ISの拠点に中国軍が?」

『分からないが、とにかく脱出しよう』

『各員に伝達。政府軍が部隊を派遣した。到着まで30分』

こんな時に現地軍が向かってくるのかよ。面倒くさいな。

『了解、すぐに撤退だ。車に向かえ』

「2人の遺体はどうする?」

『回収しろ。仲間は見捨てない』

大尉の命令を理解し、俺とラビットは2人の遺体を抱え、車まで向かった。

中国の特殊部隊の存在……考えもしなかった存在に2人が死んだ。

疑問だらけだが、今はで脱出する。

現地軍が到着する前には俺達はバービルから出ていた。

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