49. あたしつらたん

49. あたしつらたん




 私たちはロデンブルグの北にある魔物の巣にたどり着く。そして今は戦闘中だ。


「おい!アサシンの嬢ちゃん前に行きすぎだ!オレが攻撃できねぇだろ!」


「えぇ~?エドガーのおじさんが避けて攻撃してよ。騎士団の隊長なんだから!」


「ああ?おいゲイル!お前の仲間は礼儀がなってねぇぞ!」


「うるせぇ。よそ見するなよ。オレが戦うことになるだろ?腰が痛いんだから、キルマリアの言う通りにしろよ」


 なんか不当な理由を突きつけられてるエドガー隊長。少しは同情するかも。


「まぁいいや。あたしが全部倒すから!」


「はっ!言ってろ。オレの方が速いんだぜ?」


「あたしの方が強いもんね!最強美少女アサシンのキルマリアちゃんに勝てるかな?」


「ああ!?アリシアにいい格好できねぇだろ!邪魔だどけ!」


 キルマリアとエドガー隊長は言い合いながらも戦い続ける。なんか……この2人は息がピッタリ?ちなみに私はというと、そんな2人の援護をしつつ、周りを警戒している。


「あーもう!こんなんじゃ全然スリルがないじゃんか!」


「うわっと!あぶねぇじゃねえか!急に飛びかかってくるんじゃねぇ!」


「おじさん遅いんだよ!ほらほら!早く倒さないと全滅しちゃうよ!」


 草。2人とも楽しそう……。って呑気に見てる場合じゃないよね。


「エドガー隊長!右です!」


「おう!任せとけ!」


 エドガー隊長が剣で切り裂く。その瞬間後ろから襲い掛かろうとしていた魔物の動きが止まる。そしてそのまま倒れた。


「ふぅ……。これで最後か?」


「はい。大丈夫だと思います。さっきのが最後の1体だったようですね」


「それにしても何なんだこいつらは?まるで統率されてるみてぇに動き回ってたな……」


 エルランドの時と同じ。やはり魔物の巣には何かある。それがなんなのか分からないけど、気を引き締めないと。


「とりあえず巣の中心に向かいましょう。レミーナさん、みんなにポーションを」


「え?エステル姉さん。あたしまだ大丈夫だけど?」


「ダメよ。あなたさっき左腕に攻撃を受けたでしょ。いいから飲んでおきなさい。」


「え……見えてたの?もしかしてエステル姉さんってアサシン?」


 私は『スカウト』だ。目の良さなら誰にも負けない自信がある。というより、一番心配なのはキルマリアだから他の人より見ているだけだ。仕方がない。


「はいはい。お喋りはそれくらいにしておいてね。それじゃ行くわよ」


 私たちは巣の中心部に向かって移動を始めた。途中何度か魔物に襲われたが、特に問題なく進んでいった。そしてついに中心部へとたどり着くと、天井が吹き抜けになっており光が差し込んでいる。すると奥の方からこちらを睨む2つの光が見えた。それは次第に大きくなり、その姿を露にする。


「エステル。あいつはグリフォンだ。しかもかなりデカイ。」


「へぇ~。珍しいね。初めて見たかも!首折れるかなぁ?」


 リーゼの言葉通り、私たちの前にいるのはかなり大きなグリフォンだった。その翼を広げれば10メートルはあるかもしれない。あんなのに攻撃されたらひとたまりもない。あれが魔物の巣を守る番人だったということだろうか? 私たちは警戒しながら様子を伺っていると、突然飛び上がった。そして上空から急降下してくる。これはまずい!


「散開!急いで!」


 ドォーン!という音と共に地面が大きく揺れる。私達はなんとか避けることができたが、衝撃の余波で飛ばされてしまう。


 くっ!油断した!でもこの程度ではダメージはない!すぐに体勢を整えないと!私が顔を上げるとそこには巨大な爪が迫っていた。避けられない! ガキィィン!!ギリギリのところでゲイルさんの剣が間に合ったみたい。


「おいおい。いきなりかよ!くそ腰が痛ぇ~……エドガーと若いの!レミーナを連れて離脱しろ!」


「ああ?」


「守るのは騎士団の仕事だろ?」


「ちっ……分かったよ!いくぞロイ!オレが先導する」


「はい!」


 2人がレミーナさんを連れて入り口に向かっていく。よかった。あの2人にレミーナさんを守ってもらえるなら安心だ。


「さてと。エステル。これが本番だ。」


 グリフォンは上空を旋回すると再びこちらへ向かってきた。今度はさっきよりも速い!ゲイルさんが受け止めるが、あまり長くは持たないだろう。


 しかも厄介なのはグリフォンは上空に逃げられること。これではこちらの攻撃が当たらない。そして防戦一方だ。


「あたしの技をくらえグリフォン!暗殺術・『スナイプアロー』!」


 キルマリアが短剣を放つが、グリフォンはヒラリとかわしてしまう。


「速すぎwww」


 だからキルマリア笑ってる場合じゃないわよ……。


「どうしようエステルちゃん!」


「落ちついてリーゼ。グリフォンの弱点は眉間。そこを狙えば倒せるはず。問題はどうやってそこに攻撃をするか……」


 空中にいる敵を倒す方法なんてそう多くない。例えば弓や銃などの遠距離武器や魔法を使うとか。武器は弓矢や銃ではないし、ましてや魔法なんか使えない。


「ゲイルさん」


「ああ?なんだ?」


「あの……ゲイルさんの斬擊を飛ばす技で何とかなりませんか?」


「……お前が決めろ。言ったろ?オレはそれに従うだけだ。」


 私は自分の考えを伝えると、ゲイルさんはニヤッと笑った。確かにそうだ。私が指揮するんだから。


「ねぇキルマリア?」


「どしたのエステル姉さん?」


「高いところ好き?」


「え?そりゃまぁ……」


「じゃあお願いがあるんだけど……」


 グリフォンが急降下して攻撃を仕掛けてくる。それをゲイルが剣で受ける。だが、先ほどとは威力が違うのか、徐々に押されていく。


「くそっ!エステル!オレの腰が持たんぞ!」


「……という作戦。出来るよねキルマリア?たまには私の言うことを聞いて?それしかグリフォンを倒すことできないから。拒否権はないわ!」


「なんかエステル姉さんがマスターみたいに怖い……あたしつらたん!」


「あ?なんか言ったかしら?」


「なにも言ってないよ!」


 たまには言うことを聞いてほしいものだ。結構無茶な作戦だけど、これしかグリフォンを倒す方法がない。こうしてグリフォンとの戦闘は最終局面を迎えるのだった。

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