35. 求めているもの

35. 求めているもの





 私たちは近くの村に向かって、極寒の雪道を歩き始める。今日中に村を探さないと、こんな寒さの中で野宿なんで絶対にごめんだ。


「あのゲイルさん」


「なんだ?」


「ロデンブルグの魔物討伐に参加するのはいいんですけど、私が参加して意味ありますか?」


 私は正直にそう思ったことを聞いてみた。私のジョブは『スカウト』。戦闘系のジョブではないし、どちらかと言えば補助系だ。ダンジョン攻略なら色々なスキルの活用が出来る。


 まぁ攻撃手段がないわけじゃないが、私の攻撃力じゃ足手まといになるだけだ。しかも魔物討伐なら尚更だ。


「お前に攻撃なんてまったく期待してねぇよ。」


「ですよね……」


「だからお前は戦闘をコントロールしろ。強力なサポート能力を活かすにはそのスキルが必要だ。アリシアがお前に求めてるのはそれだ」


 アリシアさんが私に……。そんなことを言われてしまえば頑張らないわけにはいかないけどさ……。続けてゲイルさんが話してくる。


「今回は回復役のルシル、一応後方からの攻撃のできるミルフィが不在だ。あとオレは腰が痛い。そういう状況なら、いつもとは戦闘スタイルを変えなきゃならない。だからお前の役目は重要だ」


 いや、ゲイルさんも戦ってくださいね?と心の中でツッコミを入れつつ、私はゲイルさんの言いたいことは理解した。要するに、戦闘中のサポート役ということだ。もちろんダンジョン攻略とは違うし、


 ダンジョン攻略でもパーティー全体的に効率よく戦闘をするために、私は色々と動いてきたつもりだけど、今回のようなケースは初めてだった。


「分かりました。それなら頑張ります!」


「ああ、それで良い。……それにしても寒いな。」


「はい。とっても寒いですよね」


「ねぇねぇ見て!大きな雪玉!転がしてたらここまで大きくなったよ!」


 リーゼは楽しそうに大きな雪玉を作って、それをコロコロと転がしている。本当に元気よね……。


「子供だなぁリーゼは。そんな玉っころじゃ映えないよ?」


「えぇ~!じゃあキルマリアちゃんは何作れるの!」


「あたし?なら最強美少女アサシンのキルマリアちゃんの技見てみる?そりゃ!」


 キルマリアは短剣で、リーゼが作った大きな雪玉を素早い動きで切り刻む。するとバラバラになった雪の中から『雪の薔薇』が現れた。


「わぁー!!すごい!!」


「ふふん。これが『アサシン』の力だよ!沸いたでしょ?バイブス上がった?」


「うん!すっごくあがったよ!知らないけど」


「何がアサシンの力だよ。余計なことに体力使うんじゃねぇよキルマリア」  


 ゲイルさんが呆れた様子で言う。確かに、今のキルマリアの行動は無駄に見えたかもしれない。でも、 私には分かってた。これはキルマリアなりのいつもの気遣いだってことが。彼女は口ではあんなこと言ってるけど、本当は優しい子なんだから。


 私は微笑みながら、少し離れたところにいるレミーナさんの方を見た。


「……なんですか?」


「いや、楽しいレミーナさん?」


「えっ楽しいですよ。いつも賑やかですし。その……楽しそうに見えませんか?」


「見えないかな……」


 私がそう言うとレミーナさんは自分の頬を引っ張り笑顔の練習を始める。そしてしばらくしてから私に向かってこう言った。


「わ、わたひもわらへてましゅよ!?」


 ……全然笑ってないけど。




 それからしばらく歩くと村が見えてきた。この村は、魔物の襲撃に合っていないようで無事みたいだ。


「とりあえず宿を探すか。エステル聞き込みよろしくな」


「え?」


「え?じゃねぇ。『スカウト』は密偵だろ?情報収集はお前の得意分野だろうが。ほら行ってこい」



 うぅ……。そう言われると何も言えない……。このおじさん私のこと雑用係かなにかだと思ってない?


「はい、行けばいいんですよね……。もう分かりました!レミーナさん行きましょ」


「え?私ですか?」


 半ば強引にレミーナさんの腕を掴みそのまま連れて村の中を歩いていく。正直一人は心細いから仕方ないと思うんだよね。うん。大丈夫レミーナさんは迷惑とか思ってないはず。


 村の人に声を掛けて宿屋の場所を教えてもらい、そこに向かうことにした。そこは小さな木造の建物だったが、中に入ると結構綺麗になっていた。


「すみませーん!誰かいますかー!」


 私が大声でそう叫ぶと奥の部屋から一人の男性が出てきてくれた。優しそうなおじいさんだ。


「はいはい。お客さんかね?珍しいねこんな時期に。」


「はい。実は私たち冒険者でして、今日はこの村に泊めてもらえないかと思いまして……」


「ほう、君たちがかい?若いのに大したものだね。どうぞどうぞ。ゆっくりしていきなさい。」


 良かった。これで野宿は免れそうだ。私はホッとした気持ちでみんなのところへ戻り、報告をして、宿屋に泊まることになった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る