26. そんな存在に

26. そんな存在に




 訓練3日目、4日目を順調とは言えないがこなし、今日は最終日。私もみんなもアリシアさんの地獄の特訓がなれたのか、ランニングと素振りをこなした後も動ける体力が身に付いた。


 やっとパーティーとしての戦闘訓練に入る。この4日間である程度みんなのことがわかったような気がする。


 キルマリア。彼女は『アサシン』の才能がある。センスが良いのだろう。やはりパーティーの火力を考えてもキルマリア中心になると思う。ただ、テンションが上がってるのか私の指示を無視する時があるし、あとうるさい。


 リーゼ。彼女は素直に教えを乞う姿勢もあり、吸収力も高い。しかし、まだ技術面は荒削りで、ただのパワーモンスターだ。でも基礎からしっかりと教えれば、すぐにでも伸びると思うし、キルマリアとの前衛コンビも期待できる。


 ルシル。彼女……彼は『クレリック』として私と同じく重要なサポート役と回復役を担ってくれている。戦闘中は防御魔法で援護をしてもらいながら神聖魔法で攻撃してもらう。キルマリアとは真逆で落ち着きはある。出来れば戦闘をコントロールする視野の広さがあればいいのだが……。ただ、彼の性格上それは難しいかもしれない。


 ミルフィ。『ブレードガンナー』ソロでダンジョン攻略をするくらいに戦闘能力はある。そのポテンシャルの高さは目をみはるものがあるが、弾丸を外すとすごくネガティブになって使いものにならなくなる。そうなるとハッキリ言ってお荷物だ。なので彼女がどれだけ長い時間戦闘に参加できるかでパーティーの戦力が大きく変わる。


 私はリーダーという立ち位置ではあるが、正直なところパーティー内での戦闘力は一番低い。だからみんなの足を引っ張らないように頑張りたいし、出来ることは全力でやりたい。


 とそれが今の私が思っていることだ。


「それじゃ、索敵を始めるわね」


「よろしくエステル姉さん!」


 ……反応があった。これはゴブリンだ。しかも5体いる。


「敵よ! 5体のゴブリンがいるわ。みんな構えて!」


 私はそう言うと同時にハンドサインで指示を出す。まず、キルマリアには遊撃を担当してもらう。そして、ルシルにはいつでも防御魔法を展開できるように準備してもらっておく。次にリーゼとミルフィにも構えてもらう。


「いたわよっ!!」


 私が叫んだ瞬間、キルマリアが飛び出した。キルマリアが飛び出すと同時に、ゴブリンたちもこちらの存在に気付いたようだ。


 キルマリアはゴブリンに向かって短剣の斬撃を放つ。リーゼは飛び蹴りを放ち、そのままゴブリンの首元にヒットすると首がちぎれ飛んだ。その勢いのまま二体目三体目にも回し蹴りを食らわせると、こちらも首を飛ばされ絶命した。そして最後の一体はミルフィの銃剣の斬撃であっという間に撃退する。


 さすがに連携が取れていてスムーズだった。


「みんなやるじゃない。良い感じよ!」


 私は褒めたが、少しだけ不安が残る。確かに連携は取れていたけど、まだまだ粗削りな部分が多いのだ。それはおそらく私の指揮能力不足が原因だろう。もっと上手くやれるようになれば……


「いやぁ〜楽勝だったねぇー!っていうかリーゼ!倒しすぎなんだけど!マジおこだよキルマリアちゃんは!」


「えぇ~!そこにいたんだもん!」


「こらこら。倒せたんだからいいじゃない。ほら次に行くわよ」


 それからも順調にゴブリンを倒していった。やっぱりキルマリアの動きが良い。彼女のスピードは本当に人間離れしている。それにゴブリン程度では相手にならないだろう。


 そのあとはリザードマンやオークなども現れて討伐したが、キルマリアがほとんど倒してしまった。ルシルも防御魔法を展開しながら援護に徹してくれていたが、あまり出番はなかったかな。


 そして最終日の夜。私は見張りをすることになった。最初は私一人だったが、キルマリアが起きてきた。


「エステル姉さん寝なくて大丈夫?」


「あぁ……うん。私は全然平気だけど……」


「そっかぁ……ってかさ、エステル姉さんはいつもみんなのサポートばかりで自分のやりたいことできてる?」


「え?うぅん……どうなのかしら……でもみんなと一緒にパーティーとして仕事をしているときは楽しいからそれで満足してるわよ」


「ふーん……でもさぁ……なんか無理してない?エステル姉さんってさ、あんまり自分を主張しないし、みんなに合わせてばっかりじゃん?だからもっとやりたいことはやりたいって言っていいよ。あたしたち仲間でずっ友じゃん?」


 キルマリアはたぶん私のことを心配してくれているんだろう。私はこの訓練で知ったことがある。キルマリアはみんなを優先して行動していることに。根は素直で優しいのだ。


「ありがとうキルマリア。あなたって本当に優しいわね?」


「えっ!?」


「あなたって一番先に魔物へ向かっていくじゃない?それはみんなを守るためもあると思うけど、本当は複数の魔物が相手の時に「武器」を持った相手と戦うためよね?リーゼのために。気づかないと思っていたかしら?」


「……あー。なんか眠くなって来たからもう寝るねエステル姉さん。おやすみ!」


 そう言ってキルマリアは恥ずかしそうにテントに戻っていった。みんなを優先してくれる存在か……。私もそんな存在になれてたらいいな。そんなことを考えながら見張りを続けるのだった。

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